アリクイやタランチュラの脱水症を治す!? 獣医師が語る『珍獣の医学』
#本 #ペット
昨今、日本では空前のペットブームが到来し、犬や猫などが家族の一員として、目に入れても痛くないというほど可愛がられている。それにともない、動物の診療技術がめきめきと発達し、人間に使用する医療機器を使い、MRI検査や放射線治療など、最先端の治療さえも受けられるほどの進化を遂げた。もはや、ペットは人間と同等、もしくは飼い主によっては人間以上の手厚い診療を受けられる時代になっている。
だが、その一方で、犬猫以外の動物の診療はあまり発達していない、という現実がある。というのも、日本の獣医学の世界では、犬猫以外の動物は、”エキゾチックペット”と呼ばれ、ウサギもハムスターもインコも珍獣扱いされている。大学の獣医学科では処置の方法を習うことすらない。犬猫ですら、きちんと診られるようになってきたのは、ここ30年ほどのことだという。
ではどうやって診療しているのかというと、「『がんばる』としか言いようがない」と、「田園調布動物病院」病院長・田向健一先生は語る。つまり、自主的な勉強でなんとかする、ということなのだ。
あまり知られていないが、動物病院というのは基本的に犬や猫を診る病院のことを指し、多くの場合、それ以外の動物は病院側が受け入れを拒否している。だが、田向先生は幼い頃からマイナーな生き物全般が大好きで、どんな生き物でも治してあげたい、という思いから、基本的にすべてを受け入れている。
本書『珍獣の医学』では、アリクイやタランチュラの脱水症、ごきぶりホイホイにつかまったハムスターのノリはがし、切断されてしまったウーパールーパーのしっぽの縫合など、田向先生の病院に訪れた数多くの珍ペットを診療する様子が、写真付きで分かりやすく書かれている。
中でもとくに個人的に興味を引かれたのが、ベランダからダイブし、甲羅がパックリと割れてしまったカメ。バーンと写真に映し出された甲羅の中身は、「えっ! こんなことになってるんだ!!」と、なかなか衝撃的だ。
動物はしゃべれない。だから、獣医師は余計に動物に対する責任が重い。田向先生は、実は獣医師だって、病気の動物を診ることは常に不安なのだと告白し、こんなことを言っている。
「『お~い、大丈夫か~生きてるか~?』と冗談交じりに話しかけているとき、半分は本気で『死んじゃっていたら、どうしよう』と思っていたりするものなのだ」
”エキゾチックペットを広く受け入れる”ということは、犬猫のように診療が確立されているペットたちより格段に大変なこと。前例がないため、失敗するかもしれないという不安が常につきまとう。しかも、もし死んでしまったら、飼い主をひどく悲しませてしまう。
それでも、目の前にいる動物を絶対に助けてあげたい、断ったらほかに行くところもなく飼い主が途方にくれて悲しむだろう、と言う思いから、日々勉強をして、100種類以上のペットたちの診療を続けている。獣医師の嘘偽りのない、まっすぐな言葉が胸に温かく届く。
(文=上浦未来)
●たむかい・けんいち
田園調布動物病院院長。愛知県出身。98年麻布大学獣医学科卒業。幼少時の動物好きが好じて獣医師に。大学時代は探検部に所属し、アマゾンやガラパゴス、ボルネオなど海外の秘境に動物訪問。卒業後は、東京、神奈川の動物病院勤務を経て、田園調布動物病院を開業。ペットとして飼育される動物のほとんどを診療対象としており、無脊椎動物、爬虫類から哺乳類までと守備範囲は広い。その専門知識を生かし一般書、専門書、論文まで動物に関する著書を多数執筆、監修を行う。
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