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ローコストキャリアに揺れる航空業界【1】

羽田→マレーシア5000円! ANAのローコストキャリア成功のカギは高城剛社長!?

──LCCの台頭で、激変している世界の航空業界。だが日本では、LCCビジネスの成功例はいまだない。そんな中で発表されたANAのLCC参入は、時すでに遅しなのではないだろうか? LCCのビジネスモデルを追いつつ、その成功法を考えてみる。

 近年、ようやく日本でも定着しつつあるローコストキャリア(以下、LCC/詳しくは下コラム参照)。オーストラリア・カンタス航空系列の 「ジェットスター」や、マレーシア・クアラルンプールと羽田空港を期間限定価格とはいえ、5000円という破格の値段で結ぶことで、鳴り物入りのデビューを飾った「エアアジアX」など、海外を拠点とするLCC勢力の日本進出が相次いでいる。一方これまで、日本国内にも「スカイマーク」や「スターフライヤー」などのLCCは存在していたが、安かろう悪かろうというイメージゆえか、いまだそのビジネスモデルが根付いているとは言いがたい状況だ。

 そんな中、昨年9月に、国内最大手の航空会社ANAが、今年中のLCC市場への参入を発表、にわかに風向きが変わるのではないかと期待されている。すでに世界では当然となっているLCC、はたしてANAによるこの新たな試みは成功し、日本に新しい翼の時代が到来するのだろうか? ANAの企業体質を分析しながら、ANA版LCC成功の可能性を探っていこう。

 LCCとはなんなのか? ”格安航空会社”と翻訳されるように、日本では航空券の安さばかりが注目されがちだが、既存の航空会社とLCCとではビジネスモデルからして異なっている。

 これまでの航空会社では、飛行機に乗れば機内食は当たり前、荷物もしっかりと運んでくれ、美女揃いのフライトアテンダントが懇切丁寧なサービスをしてくれる。もちろん映画や音楽も楽しみ放題の搭乗環境であった。LCCでは、無料で提供してきたそれらの快適なサービスをカットして有料化する代わりに、安価な運賃で目的地までのフライトを果たしてくれる。いわば移動に特化したサービスといえるだろう。しかし、「そのような乗客の目に見える部分ばかりをカットしているだけではありません」と話すのは航空専門誌「エアワールド」(エアワールド)編集長竹内修氏だ。

「人件費のカットや予約システムの見直し、機体整備のアウトソーシングや、バラバラだった保有機種の統一による整備費の節約、航空機の空港滞在時間を短くし、効率よく機体を運行させることなどはLCC各社にとって必須の施策です」(竹内氏)

 また各空港で設定されている「空港使用料」の低減もLCCの運営には欠かせないという。「例えば羽田なら、ボーイング777一機当たり50万円以上にもなる着陸料や停留料などの空港利用料を抑えるために、従来の大規模空港ではなく、発着料の安い空港を拠点として選びます。それも複数年の契約で値引き交渉をしたりと、LCC各社は空港使用料の節約に必死です。例えばニューヨーク州の周辺には、ジョン・F・ケネディとラガーディア (共にニューヨーク市)、ニューアーク・リバティー(ニュージャージー州)の3つの空港がありますが、LCCの場合、中心部から距離があるため多少不便な代わりに、発着料の安いニューアークを利用することが多いんです」(同)

■ANAの企業体質はLCCには向いていない!?

 このように、LCCの運営にとっては、従来の航空業界の常識として考えられていた手厚いサービスや高付加価値の創出は必要とされず、厳しい必要 コストの整理と切り分けが勝負となる。一方、政官業癒着などのニュースに見る、あまりにひどい企業体質を抱えたJALの陰に隠れているものの、 ANAとて社員1万2000人を抱えるマンモス企業。これまで日本の航空業界を作り上げてきたANAの理念が簡単にLCCへと転換できるのか? という疑問がわいて来る。まずANAの企業体質について、竹内氏は以下のように解説する。

「ANAは、半国営企業として国から手厚い保護を受けてきたJALとは異なり、1952年に設立された『日本ヘリコプター輸送株式会社』が前身で す。わずか1機のヘリコプターからその歴史はスタートし、今では全世界の空を飛び回る企業にまで成長しました。そんな出自からか、例えるならJALは将来を嘱望された長男、ANAはあまり期待されていない次男というような扱いを国土交通省からずっと受けてきたのです。そのおかげか、常に2番手として、自分の力で市場を切り開くパイオニア精神を培ってきたのではないでしょうか」

 そのような企業風土であれば、LCC市場でのサバイバルを期待できるのだろうか?

「残念ながらそうとも限りません。1997年に田中康夫さんが『全日空は病んでいる』(ダイヤモンド社)という著作を執筆しているのですが、その頃からにわかにANAの”JAL化”が噂されるようになりました。つまり、国際線で成功し、会社の規模が大きくなっていく中で、創業当時から続いてきたパイオニア精神が失われ、現場の意見が届きにくく、顧客よりも会社本位の企業体質に変化してしまっていることは否定できないですね」(同)

 はたして、柔軟な経営が求められるLCC市場で、ANAが成功することは可能なのか? 続いて、ほかの航空会社のLCCにおける成功、失敗の事例を参照してみよう。

最終更新:2011/01/18 11:00
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