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北朝鮮がミサイル発射!? 室積光が描く架空政治小説『史上最強の内閣』

shijosaikyo0102.jpg『史上最強の内閣』(小学館)

 自民党一党が政権を担っていた55年体制に終止符を打ち、劇的な政権交代を果たした民主党だが、与党となって1年3カ月、菅内閣の支持率は21%まで下落している。中国との外交問題でつまづき、沖縄基地問題で公約破り、小沢一郎との内輪モメはモメにモメ……、”迷走”と揶揄されるのも無理はない菅内閣の現状であるが、期待あってこその批判と言えよう。

 そんな国難に影の内閣が立ち上がった。『史上最強の内閣』(小学館)は、「都立水商!」の室積光氏が理想の内閣を描いた架空政治エンタテインメントだ。実際の国際情勢に則したストーリーで、ユーモアたっぷりの内容だが、風刺や政治批判といった毒もしっかりと効いている。

 我々が選挙で選んだ政府は言わば二軍で、有事の際にだけ立ち上がる本当の内閣が京都にあるという。自由民権党の浅尾総理は、北朝鮮がミサイルに燃料を注入し日本に向けて発射設定をするという事態に直面し、とうとうこの一軍内閣の総理「二条友麿」に出馬を請うた。二条は自身の人脈を生かし、独特の人選で”史上最強”の内閣を組閣する。史上最強の内閣は危機的状況を打開できるのか?

 内閣の顔ぶれは松平杜方内閣官房長官、浪花秀吉財務大臣、坂本万次郎外務大臣、高杉松五郎総務大臣、山本軍治防衛大臣、西郷利明国家公安委員長……といずれもどこかで聞いたことのあるような姓名のお歴々。今の世の中、坂本龍馬が外務大臣で、豊臣秀吉が財務大臣だったら、と民衆の理想を体現した内閣だ。各大臣がしゃべる方言が丁々発止と面白い。

 二条内閣の政策には、著者の政治的スタンスが如実に反映されている。自民はダメだが民主も同じ。憲法9条は大切にするが左翼には懐疑的で、朝地新聞(≒朝日新聞)、社倫党(≒社民党)の書き方はことに辛らつ。”9条を守る”一点張りの宮城美津穂(≒福島瑞穂)に対しては「中学校の優等生にこんな口調の女子がいた」「何かの宗教にはまった人みたいだな」と作中人物に手厳しい感想を述べさせている。二条内閣が相対する北朝鮮も徹底的に滑稽に描かれているが、最後にホロリと泣かせる仕掛けがにくらしい。

 先の見えない不景気に政情不安、隣国の圧力と、史上最強の内閣の登場を期待したくなるご時勢だから、物語もより鮮明に輪郭を帯びてくる。この『史上最強の内閣』は”政府がまっとうな政治をする”という、愉快で痛快なフィクションだ。まっとうな政治がフィクションにしかなりえないというのは、なんとも情けない話であるが……。
(文=平野遼)

●むろづみ・ひかる
1955年山口県光市生まれ。俳優として映画・テレビに多数出演。劇団「東京地下鉄劇場」を主宰し劇作家としても活躍する。2001年『都立水商!』(小学館文庫)で小説家デビュー。07年『記念試合』(小学館)が自身の脚本で『北辰斜めにさすところ』として映画化。著書は他に『ドスコイ警備保障』(小学館文庫)『達人 山を下る』(中央公論新社)などがある。

史上最強の内閣 [単行本]

もはやどちらがフィクションだか。

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最終更新:2011/01/04 12:15
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