「誰のために空を飛ぶのか?」を問う、CAと乗客の”泣ける”挿話集
#本
日本航空(以下、JAL)の事実上の倒産や、全日本空輸(以下、ANA)による格安航空便への進出表明など、激動の真っ只中にある航空業界。最近もJALの労組が、賃金引下げ案に対抗してクリスマス2日間のストライキの実施を表明(最終的には回避)。当然ながら、ネット上では「9,000億円もの税金が投入されている倒産会社だという立場を分かってんのか!?」と大ブーイングが巻き起こったのはご承知のとおりだ。
なにかと暗い話題が先行しがちな昨今の航空業界だが、そんなネガティブなメディア情報とは対極にある心温まるエピソードが、3万9,000フィート上空の機内では数多く繰り広げられている。
このほど、『空の上で本当にあった心温まる物語』(あさ出版)を上梓した、元ANA国際線チーフパーサーの三枝理枝子氏。現在は一般企業や各種団体、学校などを対象に、接遇力やコミュニケーション能力向上ための人材開発研修の講師として活躍中だ。
今回の著書では、客室乗務員の体験談や乗客からのお礼の手紙などから集められた33のエピソードが一冊にまとめられている。10月に初版を上梓すると問い合わせが殺到。「実話からにじみ出る感動の強さ」(ある読者からのメールより)に心打たれた読者の声が数多く届けられ、翌11月には早くも5度目の増刷が刊行された。
心臓病を患う福岡の少女が東京で手術をした帰りの便で、ストレッチャー旅客として簡易ベッドに寝たまま搭乗する「カーテン越しのバースデー」(本書12ページ)では、担当したCA(キャビンアテンダント=客室乗務員)と、病の少女や少女の母親、そして他の乗客たちとの間で起こった映画のワンシーンのような交流が紹介されている。
そのフライト日がたまたま少女の10歳の誕生日だと聞いたCAは、手作りのキャンディバスケットを急遽用意し、他の乗客とカーテンで仕切られた少女の席で、同僚のCAと二人で「ハッピーバースデー」を歌う。そして、他のクルー(乗務員)からの励ましのメッセージを寄せ書き風にまとめた絵葉書を少女に手渡す。
以下はその母親からの手紙を元にした本文から。
「娘は突然のできごとにびっくりしながらも、うれしそうに微笑んでいます。久しぶりに見た娘の笑顔でした。CAさんたちがバースデーソングの1番を歌い終わった、と思ったら、また『ハッピーバスデートゥーユー』がはじまりました。それもカーテンの外で――。(略)カーテンを少し開けてみると、さらに驚きました。近くにお座りの女性のお客様方が歌ってくれていたのです、娘のために。(略)その歌声は客室に響き渡りました」「大変ありがたいと思う気持ちと、娘を不憫に思う気持ちで胸がいっぱいになり、涙があふれ出てしまいました。娘の目にも涙があふれていました」
著者の三枝氏が言う。
「航空業界で働く人々の環境は、たしかに昔よりかなり厳しくなっていると思います。しかし、個々の心の持ちようによっては、お客様とのふれあいを楽しむことは可能だと、私は信じています。現役のCAはもちろん、サービス業に携わるすべての方々に読んでいただき、日々の業務への”気づき”と、明日への励みにしていただければ、本を出した意味が少しでもあるのかなと思います」
情報や物があふれている現代社会では心の豊かさが置き去りにされていると、三枝氏は強調する。人が本来持っている「優しさ」や「思いやり」という資質に焦点を当てれば、殺伐とした今の時代にも未来が見えてくるという著者の指摘には、耳を傾けるべき価値があるだろう。航空業界に限らず、あらゆる企業が不況のどん底にあえぐ今だからこそ、手にしてみるべき一冊と言えるだろう。
涙涙。
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