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お笑い評論家・ラリー遠田が見た『M-1グランプリ2010』

チンポジを捨て、本気で獲りに来た「笑い飯」の戴冠劇

wara.jpg『笑い飯全一冊』(ワニブックス)

 12月26日、漫才の祭典「M-1グランプリ2010」の決勝戦が行われた。この日、日本中のお笑いファンの興味は1点に絞られていた。それは、最後のM-1で笑い飯が優勝できるかどうか、ということ。

 笑い飯は、2002年の第2回大会から8年連続で決勝に進出していたが、一度も優勝を果たしていなかった。そんな彼らは今年もまた、予選を勝ち上がって9回目の決勝行きを決めていた。M-1という大会そのものがラストを迎える今年、笑い飯は有終の美を飾れるのか? 人々の主な関心はそこにあった。

 そんな笑い飯の前に、2組の刺客が立ちはだかった。それが、決勝初登場のスリムクラブと、昨年王者のパンクブーブーである。スリムクラブは、沖縄県出身の2人組。ボケ役の真栄田賢が、しゃがれた声質と鋭い発想力を生かして、ゆっくりと発する一言で爆笑を巻き起こす。その異様なまでに超スローテンポな漫才は、スピード感のある漫才が主流の最近のM-1ではかなりの異端である。

 ただ、ゆったりした間合いでネタを進められるのは、自分たちの笑いに対する絶対的な自信の表れでもある。3番手として登場したスリムクラブは、あっという間に場の空気を支配して最終決戦へと駒を進めた。

 昨年王者のパンクブーブーは、敗者復活戦を制して決勝に返り咲いた。決勝1本目で彼らが演じたのは、ボケ役の佐藤哲夫が見る者の予想を延々と裏切り続けて話を進めていく、というかなり技巧的な漫才。緻密にネタを作り込む構成力と、流暢に話を進める演技力の両方が高いレベルで求められるネタで、王者の貫禄を見せて決勝ファーストラウンドを突破した。

 一方、迎え撃つ笑い飯が決勝1本目に選んだネタは「サンタウロス」。上半身がサンタクロースで下半身がトナカイという姿の不思議な生き物が、クリスマスに子どもの前に現れる、というファンタジックな設定の漫才だ。これは、前年の決勝で好評を博した「鳥人」と同じフォーマットのネタだ。あり得ない架空の生物に細かいリアリティを与えて笑いにしていく手法は、今年も高く評価されて、彼らは順当に最終決戦行きの切符をつかんだ。

 何が飛び出すか分からない荒削りな魅力のスリムクラブ、抜群の安定感を誇るパンクブーブー、そして荒々しさと精密さの両方を併せ持つ笑い飯。誰が勝ってもおかしくない三つ巴の最終決戦を迎えることになった。

 ここでの注目ポイントは、笑い飯が2本目にどんなネタを持ってくるのか、ということだった。彼らは前年の大会で、2本目にまさかの「チンポジ」というきつい下ネタを繰り出したせいで、優勝まであと一歩というところで敗北を喫していた。今年こそは勝負をかけて本気のネタを用意するのか? その点が注目されていたのだ。

 満を持して披露された笑い飯の2本目は、「小銭の神様」。1本目と同じスタイルで、架空のキャラクターを交互に演じながらボケ合戦を繰り広げる、というもの。前年の「鳥人」の高評価と「チンポジ」の低評価を踏まえて、笑い飯は真剣に優勝を狙いにきた。そこには、「鳥人」タイプの漫才こそが、今の自分たちにできる最高の形だという自負もあったのだろう。

 スリムクラブ、パンクブーブーも負けじと食らいつき、勝負の行方は7人の審査員に託された。それぞれが悩み抜いた末に3組の中から1組の芸人を選ぶ。そして、導き出された結果は、笑い飯4票、スリムクラブ3票。1票差の接戦を制して、笑い飯が悲願の優勝を果たした。

 優勝が決まった瞬間、笑い飯の西田幸治は「やっとやー!」と絶叫して、目に涙を浮かべた。子どもっぽい自由な発想の漫才でM-1を毎年盛り上げて、番組内のコメントではいつも本音をはぐらかし続けたシャイで無骨な2人が、最後の最後に本気で優勝を取りにきた。念願の「M-1制覇」を達成して、笑い飯は名実ともにお笑い界の伝説になった。
(文=お笑い評論家・ラリー遠田)

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最終更新:2018/12/10 19:10
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