AKB48、ももクロ……ヒャダイン/前山田健一が語るニコ動&アイドル曲方法論(後編)
#アイドル #音楽 #ネット #ニコニコ動画
――そもそも前山田さんのプロ第1弾は何だったんですか?
前山田健一(以下、前) 2007年に、松井五郎さんのコネクションから紹介してもらったアニメ『頭文字D』挿入歌の「Don’t Go Baby!!」。ユーロビートをちゃんと聞いたこともなかったんですけど、”なんちゃって”で、できちゃいました。
――プロ第2弾がAKB48の「となりのバナナ」。2007年12月スタートのチームA、Kシャッフルによるひまわり組の2nd公演の曲ですね。これはコンペで選ばれたんですか?
前 そうです。AKB48は完全にコンペですね。僕の場合、レコード会社などクライアントのコンペ情報を事務所が持ってきてくれます。コンペではそのテーマにあった曲を作家が作り、その中から事務所が選んで発注先に提出し、最終的に先方のディレクターなどが選んで、採用が決まります。採用されない場合も多々ありますが、その曲がほかのアーティストに使われる場合もあるので、ストックが増えるのはいいことだと思ってます。
――そんな激戦とも言えるコンペで、AKB48に採用された時は、どんな気分でしたか?
前 実感がなかったんですが、ゲネプロ(通し稽古)をAKB48劇場で見せてもらって、「アイドルが俺の曲歌ってる!!」と涙ぐんでしまいましたね。しかも、秋元康さんの詞が僕の曲に載っていて、タイトルが「となりのバナナ」。なんてステキなんだろうと思って、そこで初めて作家として、エンジンがグっとかかった気がします。
――「となりのバナナ」は、間奏とエンディングに台詞があるのが印象的ですが、あれは前山田さんの案ですか?
前 僕は全く考えてなかったですね。秋元さんのアイデアで、あれは勉強させていただきました。「なるほど、台詞入れたら面白くなるんだ」と思って、これ以降、僕の曲は台詞が多くなったと思います。ヒャダインにも少なからず影響は受けていますね。
――現在、行われているAKB48チームB5th公演の「初恋よ、こんにちは」も作曲を担当されていますね。
前 この曲は、仮タイトルが全然違うものだったんです。曲調は60年代のGS風の悲しいメロディーで、それに「ときめきのクラス替え」という歌詞を書く秋元さんのバランス感覚はすごい。「悲しいメロディーには悲しい歌詞」と短絡的に考えていた自分が恥ずかしかった。おそらく秋元さんはトータルで考えられたと思うんです。このメロディーで、まゆゆ(渡辺麻友)がセンターで歌うなら、明るい歌詞を付けたほうが面白くなる、と。この発想には驚いて、改めて自分はまだまだだと思いました。
――ノースリーブスのシングル「君しか」(ERJ)も作曲されましたし、次はAKB48のシングルですかね?
前 それはぜひやりたいですよ。当面の目標の一つはAKB48本体のシングルに曲を書くことですね。でもAKB48はコンペ次第なので、そこで選ばれないと。AKB48のシングル「言い訳Maybe」(キングレコード)、SKE48のシングル「ごめんね、SUMMER」(日本クラウン)の作曲家・俊龍さんがすごく好きなんですが、彼は、どストレートなメロディーで押していくタイプ。その俊龍さん作曲で、僕が作詞でコラボしているのが、ゆいかおりの「HEARTBEATが止まらないっ!」(キングレコード)。作詞を担当するときは、好きな作曲家だとテンションが上がりますね。ゆいかおりはポテンシャルが高いので、ブレイクしてほしい。今、いろいろなアイドルと仕事させてもらってるのは、本当に光栄です。
■アイドルソング方法論、そして、前山田の未来は?
――アイドルに曲を書く上で気をつけていること、前山田流アイドルソング方法論は、ありますか?
前 クライアントの発注内容を大切にするのは大前提。でも、今まで採用されたものを考えると、ほかの人が書かないような変化球的な曲が使われてきたと思います。真面目な曲を書いて採用されたことはないので、何かしら奇抜な部分を出したいと思っています。アイドルはものすごく奇抜にしても受け入れてもらえるので、そんな”ぶっ飛び要素”を必ず入れようとしていますね。ピンク・レディーの頃からアイドルに曲を提供してきた作家さんたちを尊敬しているんですが、そのオマージュやリスペクトは大切にしていますね。つんく♂さんは「チュッ!夏パ~ティ」など、分かりやすいオマージュを大切にされていて、ものすごく気が合うと思っています。AKB48も、渡り廊下走り隊は(おニャン子クラブの派生ユニット・うしろ髪ひかれ隊の妹分で)ユニット名からセルフオマージュのようなもの。曲も面白いし、僕も書いてみたいです。
――前山田健一として曲を書く場合とヒャダインで書く場合に違いはありますか?
前 もはや変わらないですね。前山田だと提供するアーティストが前提になる。でも、ヒャダインはそれがゲームやアニメになるという制約が違うだけ。制約というかテーマがあるから燃えますね。だから「なんでも好きなことしていい」って言われると、逆に困っちゃいますね。
――そんなシームレスになった前山田さんとヒャダインで、今後、どんな方向に進みたいですか?
前 将来のヴィジョンや野心はないんですよ。なので、ジャンルや枠は決めないで、どんな仕事も挑戦したいと思ってます。カッコイイ曲も、コミカルな曲も、バラードもやりたい。前山田としても、ヒャダインとしても、常に守りに入らないで、今までに誰もやっていないようなことをやりたいですね。
――では最後に、プロを目指してオリジナル曲をニコニコ動画に投稿している方にアドバイスはありますか?
前 売ること前提で曲を作ることはしないほうがいいと思います。売れることを考えると作品に毒が入ってしまう。自己顕示欲を満たすためや、功名心のためだけにやらないほうがいいですね。ニコニコ動画の楽しみ方は、皆で”ニコニコ”すること。なので、皆を喜ばせることを前提にして、売るのは二の次だと考えた方が、後に繋がる。そのほうがCDを売って入る金銭より、もっと大切なものが得られるはず。僕はヒャダインで皆を”ニコニコ”させるのが、染み込んじゃった。前山田健一もその延長でやっています。売れるために曲を書いたことはないです。
――もしヒャダインをやってなかったら、どうなってましたかね……。
前 この仕事辞めていたと思います。ヒャダインをやってなかったら自信が持てなかったですね……。自分の存在意義、僕の音楽が世の中に受け入れてもらえると教えてくれたのがヒャダインですね。
(取材・文=本城零次<http://ameblo.jp/iiwake-lazy/>)
作詞家としても神!!
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