AKB48、ももクロ……ヒャダイン/前山田健一が語るニコ動&アイドル曲方法論(前編)
#アイドル #音楽 #ネット #ニコニコ動画
ニコニコ動画に58の動画を投稿し、合計再生数は2,000万PVを越える歌い手・ヒャダイン。「FINAL FANTASY」、「マリオ」シリーズなどテレビゲームのサントラに”キャラソン”のように歌詞を付けた動画で一世を風靡。さらにコミカルな作品からシリアスなオリジナル曲まで幅広い作家性でユーザーを魅了してきた。
そんな彼が今年5月5日、”プロの犯行”であることを自身のブログでカミングアウト。実は彼、東方神起、倖田來未×misonoなどに楽曲を提供してきた作詞・作曲家、音楽プロデューサーの前山田健一だったのだ。さらに彼は、AKB48、月島きらりstarring 久住小春(モーニング娘。)、ももいろクローバー、大島麻衣などのアイドルソングを数多く手がけていることでも知られている。活動のフィールドを広げる前山田に、音楽への信念、ヒャダインとしての活動が前山田にもたらしたもの、そして今後のヴィジョンを聞いた。
――八面六臂の活躍の前山田さんですが、そもそも音楽を志したきっかけを教えてください。
前山田健一(以下、前) 大学までは何の目標もなくスルっと行けちゃったんですが、大学3年生のときに就職活動に乗り遅れてしまいまして、ニューヨークに行ったんです。そこで9.11のアメリカ同時多発テロに遭って、1週間帰れなくて……それで考えたんです。人間、いつ何が起こるか分からないし、いつ死ぬか分からない。だから、好きなことをやろうと。そこで、子どものころから夢だった音楽の道に進むことにしました。
――大学は京都大学だったんですよね?
前 はい。スルっと入ったと言うと怒られますが、進学校で周りがみんな行っていたので……。もちろん努力しました。大学では社会学の専攻で、総合人間学部人間学科人間関係論。人間関係ヘタなのに(笑)。卒業論文の課題は「専業主婦の自己実現について」。まさかの主婦ネタで、主婦10人にインタビューして仕上げました。それと同時に音楽の専門学校に通って、そこの先生に作詞家の松井五郎さんを紹介していただきました。
――安全地帯、氷室京介、矢沢永吉など錚々たる顔ぶれに歌詞を書かれている松井五郎さんですね。
前 そうです。松井さんから「東京に来た方がいい」と言われて、2年ほど弟子入りさせてもらいました。その後、ある音楽事務所に入ったんですが、曲を作っても全く採用されなかったんです。コンペ(コンペティション)では毎回2曲出して、やる気満々だったんですよ。でも採用されなくて、これは自分のピントがずれてると思ったんです。僕の音楽性が低くて、受け入れられないんだろうと。それで事務所を辞めました。そんなある日、ニコニコ動画を見ていたら、『ロックマン』の曲に歌詞を付けた「おっくせんまん」など2次創作、3次創作でクリエイティブな作品があって、感銘を受けたんです。それで自分も興味本位で投稿したのが、2007年12月の「クラッシュマンで、やらないか」。最初は再生数が伸びなかったんですが、ヒマだったので週に1作ペースでアップしていました。曲はどんどんできて、投稿待ちの行列ができていたぐらい(笑)。それで、だんだんユーザーに知れられていって、いろんな方がブログで紹介してくれました。そこでテンション上がって、「FF4で、ゴルベーザ四天王登場!」ができました。
■ヒャダインがニコ動で話題を呼び、さらなる名曲が生まれる
――「FF4~」は「FINAL FANTASY IV」の戦闘シーンのBGMに敵キャラの四天王とゴルベーザを描いた歌詞を付けて、5役を一人で担当された曲ですね。女性キャラのバルバリシアは、機材で声のピッチを上げてるんですよね?
前 今の時代、最低限の機材でも一人でなんでもできる、という実験でもありました。女性キャラは声の高さを変えて、ヒャダインが”ヒャダル子”になっています。男性キャラの声は全部自分の声で、高い声や低い声を試しています。「コナミワイワイワールドで、メドレー」では一人で8役やったり、可能性を探っていましたね。
――同じく8役やってらっしゃるのが、「ストリートファイターII」をモチーフにした「ストIIの効果音で、オリジナル曲」。これはBメロにペーソス(哀愁)があって、韻を踏んだ歌詞、最後の転調も含めて素晴らしいです。
前 この曲は、ヒャダインとしては初のオリジナル曲なんです。それがあれだけの再生数(220万回以上)になったのは、作曲家としての僕の背中を押してくれましたね。Bメロの哀愁は自分もすごく好きで、そこが受け入れてもらったことも励みになりました。
――オリジナルへの敬意を感じる作品ですが、人気ゲームが元だけに、ニコ動のコメントで誹謗中傷されることも……。
前 自分を育ててくれたアニメやゲームへのオマージュやリスペクトは大切にしています。でも、コメントでは「元の作品に失礼だ」「ゲームを汚すな」とか「微妙」って書かれましたね。万人に好かれるのは難しいので当然だと思います。でも、ニコ動に投稿するまではそんなこと言われたこともなかったので最初凹みましたけど、おかげでもっと強くなれたと思います。ユーザーの評価に影響受けすぎてもダメだし、顔色伺いすぎてもダメだと思っています。でも、見てくれる人が喜ばないことをしても仕方がないと思ってますね。
――そんなヒャダインとして人気が高まる中、前山田さんとしては、その頃、現在の事務所に入られたんですね?
前 事務所に入って、3カ月目でハロー!プロジェクトのMilkyWayの仕事が入ったんです。それがタフな仕事で、2転3転してすごく振り回されました。でも、ヒャダインでの経験があったので「大丈夫だ、なんとかなる」と思って胸を張って仕事ができました。ヒャダインの評価が背中を押してくれましたね。
――そんな経験を経て作曲されたのが、倖田來未×misonoのシングル「It’s all Love!」(エイベックス・エンタテインメント)、東方神起のシングル「Share The World」(同)。2009年4月のチャートでいずれも1位を記録しました。そのときはどんな気分でしたか?
前 何とも言えない気分でしたね。東方神起はアニメ『ONE PIECE』(フジテレビ系)のオープニング曲で毎週放送されて、倖田來未×misonoも姉妹の初のコラボ曲として話題になり、ワイドショーでも取り上げてもらいました。もちろんうれしかったんですけど、あれはアーティストの力であって、自分の力ではないと思うんです。それよりは、1st、2ndシングルが売れなかった麻生夏子が、僕が参加させてもらった3rdシングル「Perfect-area complete!」(ランティス)で18位だった時の方が手ごたえを感じましたね。
■アイドル戦国時代の革命児・ももクロの「行くぜっ!怪盗少女」誕生秘話
――スターダストプロモーション所属の女優で歌手の麻生夏子ですね。同じ事務所のももいろクローバーの「行くぜっ!怪盗少女」(ユニバーサルJ)は、アイドル戦国時代を語る上で欠かせない楽曲となりましたが、この曲はそのラインから発注が来たのでしょうか?
前 いえいえ。この曲も、コンペでいろんな作家さんの曲の中から選ばれたんです。発注の時から、間奏に「怪盗ももいろクローバー、あなたのハートをいただきます」という台詞と(映画『ルパン三世 カリオストロの城』の)銭形警部とクラリスの台詞があったんです。ディレクターのF氏が頭おかしくて(笑)。「バカか」と思いつつ、F氏とは気が合うなと思いました。
――有名な台詞の「あの方は何も盗らなかったわ」「いや。奴はとんでもない物を盗んでいきました。あなたの心です」ですか?
前 そう。それをヒャダインとヒャダル子で再現してデモを作っていたんですが、やはりそこは権利的にアウトになりました。でもそれ以外は、デモから歌詞もメロディーもほとんどCDのままですね。
――同じくスターダストの3B Juniorの”エビ中”こと私立恵比寿中学「えびぞりダイアモンド」は”音楽科主任教員”として、作詞・作曲・編曲・プロデュース・ボーカルディレクションまでやられてますね。
前 エビ中には小学6年生もいますから、ボーカルディレクションは「はい、よくできましたね~」ってまさに先生。さらにその下に10歳のメンバーもいる、「みにちあベアーズ」があります。あれはもうアイドルというより、習いごとですね。目が死んでるんですよ(笑)。石丸電気のみにちあのイベントを見に行ったんですが、「今からチェキ会です」というときに、小学5年生の子がガム噛んでましたからね。
――ファンとのチェキ撮影会にガム食べながら臨むとは、恐るべし小学生(笑)。これ書いていいんですかね?
前 スターダスト陣営は、みちにあについては、それぐらい書いた方が喜んでくれると思います。”ギリギリアウト”な感じを狙ってますから(笑)。
* * *
作家を目指したものの挫折を経験し、失意の中で始めたのがヒャダインとしての動画投稿。自分が影響を受けていたゲームにオマージュを捧げ、自由な発想で世に送り出した楽曲が世間で高い評価を受けた。そこで得た経験値を生かし、さらにレベルアップした音楽性を見せている前山田。さらに、AKB48提供曲への思い、ヒャダインと前山田健一の未来について聞いた後編も近日公開。
(後編につづく/取材・文=本城零次<http://ameblo.jp/iiwake-lazy/>)
ももクロと前山田氏は相性バツグン!!
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