「歴史ブーム」「死に支度」「自分探し」が相まって増殖するカケイザーたち
#本 #歴史
「最近、”カケイザー”なる、自分の家系図を常に携帯している人が巷で増えていると噂で聞いていたんですが、うちの会社でも実際にいたんですよ。手帳にはさんで大事そうに持っている同僚が……」
こう話すのは、都内のメーカー勤務の男性Hさんだ。
カケイザーだけでなく、最近は、幕末の偉人の墓参りをする”墓マイラー”なる女性たちが急増しているという。これは2008年に出版された、『著名人のお墓を歩く』(風塵社)の出版が影響しているようで、その後も『一度は訪ねてみたい有名人のお墓』(明治書院)、『墓マイラーに送る 墓地散歩』(日刊スポーツ新聞社)など、類書が続々出ている。
カケイザーに墓マイラー……家系図やお墓といった「生と死の証」を見聞することで、先人たちの生き方に思いを馳せる。こうした人々が増えた背景と、昨今のにわかにブームの「終活」も関係があるのではないかと指摘する声もある。
「終活」とは、今夏以降、『エチカの鏡』(フジテレビ)や主要男性週刊誌で盛んに取り上げられているテーマで、要はお墓、遺言書、葬儀、自分史、生前契約、事務処理などの手配を、自分が元気なうちに済ませておくことだ。終活関連本としても、『遺言書キット』(コクヨ)や『実践エンディングノート~大切な人に遺す私の記録』(共同通信社)や『マイライフノート』(日経新聞出版社)などが売れている。
終活とカケイザーらの関係について、『家系図を作って先祖を1000年たどる技術』(同文館出版)の著者であり、行政書士法人あすなろ代表の丸山学氏はこう語る。
「確かに、究極の”終活”として自家のルーツを調査する人が増えていますね。家系図を作ったり、それをもとにお墓参りをしてみたり。弊社も家系図を作る業務をしていますが、オーダーが多すぎて今は8カ月から1年待ちの状態が続いていますが、他の業者さんに聞いても同じような状況だそうです」
自らの家系を知ることで、自身の”生”に新たな意味付けをする。自身をそこに加えることで、子々孫々と自身の存在に伝えていきたい――そんな思いが、人々を家系図づくりに走らせているようだ。
実際の”カケイザー”に話を聞いてみた。まずは、佐藤隆志さん(仮名・30代)。
「父方、母方それぞれの先祖探しを依頼しました。父方は、浅草寺内で店を出していた商人であったことが判明、母方は大元は滋賀(近江)の裕福な米屋で、幕末には江戸にも出店、滋賀(近江)を本拠としながら京都との取引も多かったとのことで、つまり、幕末は”江戸””京都”という対立した激動の2都市の情報を得ていたことになり、また、そこから分家した家が明治期に京都で鍋釜商を始め、そこからさらに分家したのが母方の家ということが分かりました」
もうひとりは、鈴木清さん(仮名・30代)。
「先祖は長州藩(萩藩)の下士(下級武士)だったそうですが、足軽身分ではあるが、長州藩主である毛利家に戦国時代から仕えていたことが判明。つまり、関ヶ原の戦いにも最前線で参戦していたと思われ、幕末は幕府の標的となりながら龍馬の仲介で薩摩と手を組んで生き残った長州藩の下士ですから、非常に劇的な生活を送ったのではないかという結果が出ました」
こうした語り口を聞いてみると、昨今の歴史ブームも、30~40代のまだ若いカケイザーたちの増加を後押ししているようだ。
「確かに、『龍馬伝』(NHK)の影響もあり、今年は歴女ブームから幕末ブームとなり、『幕末流星群』『乙女の日本史』(共に東京書籍)など幕末関連の本も売れまくっているというデータもある。そんな幕末期に自分の御先祖がどんな激動の時代を生き抜いたのかを知っておきたいという人が増えているのも、また事実ですね。先祖調査というのはただ名前を探るだけではなく、ご先祖が生まれた時代とそのイキイキとした暮らしぶりを知る時間旅行でもあるんです。次々にご先祖に関する新しい事実に出会うことができ、それはまるで上質なミステリーを読むような知的興奮を得られることもニーズ拡大につながっていると思いますね」(前出・丸山氏)
自分探しに歴史ブーム、さらに昨今話題の所在不明高齢者、無縁社会を検証するという意味でも、「カケイザー」増殖現象はかなり奥深いものがあるようだ。
たどろう。
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