事件を密着取材していた民放キー局取材班の不可解な動き
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こうして、一部の紙媒体を除くA局一社による”独占密着取材”は、その後約2カ月の間続くことになる。しかし、一向に番組として流れる気配はない。季節は6月の初夏になっていた。その間も他局から取材が申し込まれたが、尚美さんは断り続けた。
一方で「いつ頃番組になるのか」とI氏に聞いても、「まだ準備期間なので」を繰り返すだけで、はっきりとした返事はない。そのうち、同じA局の別の番組『S』と『J』の2つが取材を申し込んできた。他局の取材を断わるように強弁していたI氏も、これには「NO」とは言えなかった。
長期間の密着取材と単発報道を単純比較することはできないが、これまでのI氏の間延びした仕切りと比較して、後から取材を開始した2つの番組の動きは、尚美さんの目にテキパキとして映った。特に朝の情報番組『S』のディレクター氏の段取りは、無駄がなく撮影もスムーズで、同じ局でもこうまで違うのかと、尚美さんは驚いたという。
業界内のルールなど知らない尚美さんだったが、『S』のディレクターのほうがI氏より、局内の力関係が上らしいことは見ていて容易に推測できたという。それでも、「放送はIさんの番組が流れた後まで待ってください」とI氏に気兼ねする尚美さんに、『S』のディレクターは「早く放送したほうがいいです」「(9月の)民主党の党首選が始まってしまうと、世間の関心は一気にそちらへ流れてしまいますよ」と、アドバイスを交えながら強く説得をした。
「私も板ばさみのような形になり困ってしまい、Iさんに今後の見通しなどをお聞きしたのですが、相変わらず『まだ準備期間』を繰り返すだけでした。そうかと思うと『選挙の後になっちゃうけどしょうがないかなぁ』とか、ついには『Sが先に放送するっていうなら、うちはもう降りようかなぁ』とまで言いはじめました。これには驚いて、放送をする気があるのか心配になってきたんです」
そんな紆余曲折を経ながらも、I氏から連絡が入る。「放送日が6月14日に決まった」という知らせだった。尚美さんは6月15日に司法記者クラブで事件の真相を訴える記者会見を予定しており、番組はそのタイミングに合わせて前日の夜に流すという。I氏の説明によれば、「視聴率が一番上がる時間帯に15分くらいの枠で流す」とのことだった。
これまで他局の取材は原則断っていたという尚美さんだが、実はF局からだけは一度だけ取材を受けていた。事件のことで親身になって相談にのってくれていた地方議会議員からの紹介だったために、断わりきれずにありがたく受けたのだという。
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