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荻上チキの新世代リノベーション作戦会議

偏向報道に騙されるな! 外交問題で重視すべき実益(前編)

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■今回の提言
「一枚岩でない相手国の情報を知り、賢い対中外交を」

ゲスト/高原基彰[社会学者]

──社会の現状を打破すべく、若手論客たちが自身の専門領域から日本を変える提言をぶっ放す! という本連載、今回は東アジア研究を専門とする社会学者の高原基彰さん。尖閣諸島問題を発端に、政局から民衆レベルまで日中関係をめぐって緊張が走るこの状況をどのようにとらえ、隣国とどうかかわっていくべきなのでしょうか?

荻上 今回は、東アジア、特に中国の外交問題をどう受け止めるべきかという、これまでと比べても論争的なテーマを扱います。お相手は、韓国・中国などに滞在しながら、社会学者の立場から東アジア研究をされてきた高原基彰さん。現在、尖閣諸島での船長拿捕事件をきっかけに、日中関係が一気に緊迫化しています。それぞれの政府の外交姿勢に対して、互いの国内では「弱腰だ」という政府批判の突き上げを含んだ反日デモ、反中デモが起こるなど、国民感情が悪化しているという状況です。

 また、劉暁波氏へのノーベル平和賞授与、経済成長、いまだ解決されないチベット問題など、中国の政治体制が注目される機会が高まっている。こうした中、日本国内の世論形成、および政策提言のレベルでは、どんな着地点を探っていけばいいのかを議論したいと思います。まず率直に、現在の日中関係の推移に、どのような感想を持たれていますか?

高原 事件の重大性を考えれば、日本国内で中国のイメージが悪くなるのは当然で、そのこと自体は良いとも悪いとも思わないです。むしろ、対中感情の悪化が指摘されている中で、日本人はまだ冷静だなと思いましたよ。自国企業の社員を人質に取られるなど、もしこれが韓国だったら、はるかに大規模な反中デモが起こってもおかしくない。欧米のどこかだった場合でも、もっと大騒ぎになっていたんじゃないでしょうか。

荻上 日本では実際には、秋葉原や六本木で数千人規模のデモが開かれたり、福岡で中国人観光客の乗ったバスを街宣車が取り囲んだことがニュースになったりはしましたが、「大きな暴発」まではしなかった。中国側では、今でも各地で数千人規模のデモが起き、日本に関連しそうな店舗や物などが取り壊されています。

高原 そう。中国側には今回のデモも、相当誇張された形で解釈されています。例えば渋谷で起きた小規模な反中デモで、たまたま通りがかった中国人女性に対して、デモ隊の誰かが「わーっ! 中国人!」とか言ったという動画から、一足飛びに「日本は感情的で危険で、また軍国主義が復活しそう」みたいなことになる。日本といえば軍国主義のイメージがまだまだ強い。それは我々の実感からすれば明らかに間違いだけど、なかなかわかってもらえない。そして中国のデモが日本側に報じられる時、同じような誤解が起こっていないでしょうか? そういうことを、お互い自己チェックしないと。

■対中・対韓感情の悪化をどうとらえるか

荻上 もちろん、ネット上の感情表出として表れる反中言説といったものをもって、社会全体の「右傾化」と見なすのは早計です。例えば反中であれば「論点パッケージ」として「右寄り」として位置づけられるのか、親中であれば「左寄り」になるのかといえば、そう単純でもない。親米に対して親中を訴えるような「リベラル」も、例えばアジア基軸通貨を掲げられるかといえば難しく、基本的には抽象論の域を出ない。東アジア共同体的な発想も、日本が経済的にも国際プレゼンス的にも中国やインドに抜かれていき、「リーダーシップ」の発揮も困難と見えると、まともに口にされなくなってきた。

 ただ一方で、数年前までなら、排外的なプラカードを掲げて道路を行進したり、施設を取り囲んだりというアクションがこれほど頻繁に起こる風景は目立たなかったわけですよね。具体的要望のない社会運動が政治に与える影響よりは、極端化して「誰得(誰が得するんだ)状態」になった運動体などの暴走が、具体的な個人への攻撃といったヘイトクライム(憎悪犯罪)につながる可能性が懸念される。蕨市での「カルデロン一家叩き出せデモ」や秋葉原での「ソフマップ突撃事件」を見る限り、小さな運動体が政治に与える影響は薄くても、個人や一企業などに対する負の圧力としては十分に有効です。

 そうした行動は当然、さらなる憎悪、反日的なアクションの口実になるだけで、不幸しか生まない。中国が反日教育やメディア規制で日本イメージを固めていく一方で、メディアやネットを通じた「自由な」情報取得によって、極端なセレクティブメモリを強化し、対立がむやみに過激化していくスパイラルを見ると、ただ情報をフラットに共有して「互いを知り」さえすれば済むという話ではないことを痛感します。

高原 近隣諸国の間にトラブルがあるのは当然ですし、国民の中に不満層がいるのも当然です。おっしゃる通り、日本国内の「論点パッケージ」で「右だから、左だから悪い」と言い合っていても仕方のない時代になっているということでしょう。冷戦後の日本ではたまたまこれまで漠然とした戦争責任や歴史認識以外に喫緊の話題がなかっただけで、こうして領土などの具体的な問題が出てきたら、いろいろな動きが大衆レベルでも出始めたという話だと思います。

 デモ自体も同じで、中国でも冷静な人がネットに書き込む皮肉なんですが、デモが破壊した日本料理店は中国人が経営してたり、不買運動してる日本製品は大半が実は中国製だったりする。それが果たして「愛国」なんだろうかと。あえて言いますが、中国ですら、そういう点を批判している人がちゃんといるんです。お互いの低劣な部分だけ見て、怒りの応酬を繰り返しても、何の意味もない。

 中国側の事情として、教育内容が反日的になりがちなのは、国の成り立ちを考えればある程度は仕方のないことです。あらゆる学校教育がそうであるように、全員がそれをそのまま信じ込んでいるわけでもありません。むしろそれを逆手に取り、自国のマスコミや政府に対する異議申し立てを行う際の免罪符として「反日」が使われている側面のほうが重要だと思います。最近はそれが一巡してしまって、例えば著名な若手作家の韓寒なんかは、今回の反日デモに冷淡な反応をしました。もちろん情報規制や政治体制は西側先進国とまったく違うままですが、世論の多様化はすごいスピードで進んでいる。

荻上 今ある敵対意識は、時間がたてば中和されてくるのでしょうか?

最終更新:2010/12/02 00:29
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