ピース 噛み合わない2つの破片が力ずくで組み上げた「笑いのパズル」
#お笑い #この芸人を見よ! #ラリー遠田 #ピース
12月9日、書籍『∞男子寮~AGE AGE荘~』(ワニブックス)が発売される。これは、ピース、チーモンチョーチュウ、アームストロングといった吉本の若手芸人たちが入居する「∞男子寮」を舞台にしたフォトストーリーブック。本の中では、彼らは共同生活を行っているという設定になっている。発売日には、東京・福家書店新宿サブナード店にて握手会も開催される。
ピースは、いま最も勢いに乗っている芸人のうちの1組だ。9月に行われたコントの大会「キングオブコント2010」で準優勝を果たしたあたりから一気に波に乗り、10月スタートの深夜バラエティー『ピカルの定理』(フジテレビ系)でもレギュラーに抜擢されるなど、着実に実績を重ねている。
ピースの二人を見ていると、お笑いコンビの関係性には本当にいろいろなパターンがある、ということを改めて考えさせられる。よく言われることだが、ピースの綾部祐二と又吉直樹は、水と油とでも言うべき対照的な性格の持ち主だ。
イケメン芸人としても知られる綾部は、妙に耳に残る深みのある声質の持ち主。気持ちより体が先に動く行動派で、誰にでも積極的に話しかける社交性がある。目上の人に対する気の回し方を心得ているので、大勢の先輩芸人からも好かれている。そんな彼は、「熟女好き芸人」としても有名で、周りから心配されるくらい極端に年上の女性に恋愛感情を抱く。綾部はどこまでも開放的で、他人と自分の間に壁を作らずに生きるタイプだ。
対する又吉は、太宰治を愛読する孤独な文学青年。古い日本家屋を好み、休日には古本屋を渡り歩く。長髪に仏頂面の不気味な風貌で、極度の人見知りでもある。他人と接することが大の苦手で、『アメトーーク』(テレビ朝日系)の「気にしすぎ芸人」という企画でも活躍。常に弱気で傷付きやすい、その自意識過剰ぶりで話題を呼んだ。彼の著書『カキフライが無いなら来なかった』(幻冬舎、せきしろとの共著)には、内向的な人間の心の機微を描いた自由律俳句が収録されている。
そんな対照的な個性を持つピースの二人には、コンビとしての統一性や一体感があまり感じられない。二人とも、それぞれ単独で活動しているときの方が生き生きしているように見える。プライベートで仲が悪いコンビは決して珍しくないが、彼らの場合はそんな生やさしいものではなく、ただ二人で並んでいるだけでも居心地悪そうに見えてしまうほどだ。
だが、彼らの恐ろしいところは、そんな自分たちの関係性そのものを、ネタを演じるときに生かしてしまうということだ。彼らのコントでは、表面上はいがみ合いながらも、心の奥底ではつながっている人物が描かれることが多い。そこでは、普段の噛み合わない関係性そのものを活用して、文学性の高いコントを実現させているのだ。ここまで大胆な発想のネタ作りができているコンビはあまりいない。
「キングオブコント2010」の決勝で彼らが披露したのは、人を食うヤマンバと公務員の青年の恋愛模様を描いたコントと、二人のモンスターが原宿で休日を満喫するという設定のコント。いずれも、たった4分のネタの中に、一本の映画のような奥深い物語を感じさせるものだった。
ピースというコンビ名は、「peace(平和)」ではなく「piece(破片)」と解釈するべきだと思う。ばらばらに散った2つの破片が、舞台の上でだけくっついて、奇跡的な化学反応を起こす。彼らは、「相反する個性の二人がぶつかり合うことで新しい笑いを生み出す」というお笑いコンビの大原則を、かなり特殊な形で実現させている。
噛み合わない2つのかけらを、力ずくではめ込んでようやく完成するいびつなジグソーパズル。二人の間に漂う緊張感やよそよそしさを含んだすべての要素が、ピースというコンビの底知れぬ魅力につながっているのだ。
(文=お笑い評論家・ラリー遠田)
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