ホントにできるの? 専門家が分析する「スカイマーク国際線進出」の可能性
#航空 #LCC
上海まで片道4,000円!、マレーシアまでの直行便が5,000円!!――一昔前なら考えられなかった激安価格で飛行機に乗れる「ローコストキャリア」(LCC)が世界的に市場を拡大する中、日本国内線のLCCとして定着したスカイマークが、2014年を目処に、ついに国際線へ参入すると発表。航空業界を激震させている。
スカイマークでは、一人当たりの運賃を抑えるために1機約280億円の「空飛ぶ豪華客席」と呼ばれるオール2階建ての超大型旅客機「A380」を6機購入するとしているが、「スカイマークの経営規模を考えると無謀。購入資金もどこから引っ張ってくるのか」(航空ライター)と危惧する声もある。
一般にLCCは、パイロットに外国人や他社の退職者を再雇用して人件費を抑え、キャビンアテンダントも制服も簡素化してトイレ掃除を自ら行うなど、徹底したコスト圧縮により低価化を実現している。「牛丼の安売り合戦みたいな薄利多売の世界」(同)だけあって、今回の大型機大量購入が高すぎる買い物となる可能性は否定できない。
そこで、航空専門誌「AIR WORLD」編集長の竹内修氏に、スカイマーク社が国際線へ進出する狙いと今後の可能性について聞いてみた。「今回の件は我々にとっても寝耳に水で(笑)。あくまで推測という枠の中でご理解いただきたい」との前提のもと、以下の通りの回答をもらった。
――スカイマーク社が国際線へ参入する最大の目的は?
竹内氏(以下、竹内) 大株主である「HIS」とのシナジー効果への期待、ということもあると思いますが、それとは別に、日本のLCCが国交省主導のもとでANA(全日空)の系列に入っていく中で、独立したエアラインとしての地位を保つという明確な意思表示という意味はあるかもしれませんね。
――機体の購入が「高すぎる買い物」とする指摘もあります。
竹内 おそらく、いったんリース会社が購入した機体を借りることになると思います。そういう形で航空機を導入している会社は珍しくありません。一部の報道で言われているような1,000億円以上の投資が必要となることはないでしょう。しかも航空機の価格というのは、実はあってないようなところもありまして、「日本のエアライン初の国際線LCC」という効果を期待して、ある程度の値引きがされているはずです。資金調達は、巷で報道されているとおり、増資で行うことになるでしょうね。
――具体的な路線がまだ発表されていませんが。
竹内 今のところ、成田~ロンドン、フランクフルト、シアトル線などの名が取りざたされています。「A380」は世界最大の大型旅客機で、座席数も多いですから、搭乗率の高い、いわゆる「ドル箱路線」に投入するのではないかと思います。また、HISや海外の航空会社と共同でチケットを販売し、高い搭乗率が期待できるハワイ線や、スカイマークの航空機の整備を委託している台湾路線などへ投入する可能性はあると思います。
――今月4日にカンタス航空(オーストラリア)で緊急着陸する事故があり、その機体が「A380」でした。
竹内 あの事故はエンジントラブルによるとの見方が有力視されていますが、「A380」のエンジンは、カンタス航空やシンガポール航空の機体が装備する「ロールス・ロイス」社製のほかに、「エールフランス」社の機体などが装備する「エンジン・アライアンス」製のエンジンを選択することも可能です。発注時にエアラインが選択できるんですね。仮にですが「ロールス・ロイス」のエンジンが心配なら、もう一つのエンジンを選べばいいだけです。
――スカイマークの試みがビジネス的に成功する鍵は?
竹内 成田と羽田の発着枠を確保できるかどうかは鍵になりますね。大型旅客機のA380は地方の中小空港で運航不可能ですし、かといって関西や名古屋といった空港を発着する便しか運航できないようでは旅客の数からして採算が合いません。また、魅力ある航空路線のチョイスも重要です。いくら安くても「そんな国、行かないよ」という路線では座席数を埋めることは難しいでしょうから。
――既存キャリアのJAL(日本航空)やANA(全日空)への影響は?
竹内 仮にスカイマークが今回成功を収めた場合、これまで「A380」の導入を時期尚早として見送り続けてきたANAが、真剣に導入を検討することになるかもしれません。ただ、現時点ではスカイマークが本当に国際線へ参入できるかは予断を許しません。資金面も含めて障害となるハードルは少なくありませんからね。
* * *
ここ数年で急速に存在感を増してきたLCC。背景には、国同士の乗り入れを自由に開放しようというオープンスカイ協定が結ばれたことと、航空業界のサービスが二極化している点があげられる。エールフランスなどの大手キャリアがビジネスクラスで高い単価で利益をあげる一方、これまで飛行機に乗ったことがないような層を狙い、薄利多売で利益を出すのがLCCだ。国内大手のANA(全日空)でも、香港の投資会社との共同出資によるLCCへの参入をこのほど発表。「現行運賃の半額を目指す」(ANA)と鼻息は荒い。しかし、前述のとおり「牛丼の安売り合戦みたいな薄利多売の世界」だけあり、無策なままに価格競争に参戦することは危険だと指摘する専門家は多い。ある関係者は次のように言う。
「吉野家のほうが松屋より数十円高いけど、吉野家の味を求める客を相手に牛丼の質と価格をキープしていく、というやり方もあるでしょう。LCCも、しっかりとしたマーケティング戦略の中で自社の独自カラーをどう創造していけるかが鍵になると思います」
(文=浮島さとし)
AIR WORLD (エア ワールド) 2010年 12月号
いい時代になったもんだ。
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