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日本は身近な地獄世界であふれている!? 『庶民に愛された地獄信仰の謎』

datsubae.jpg『庶民に愛された地獄信仰の謎』
(講談社)

 お寺の本堂から少し離れた場所や門の外、墓地の前や川のほとりなどにひっそりと佇む小さなお堂を見つけたら、覗いてみよう。

 ひょっとしたら、そこには地獄の世界が広がっているかもしれない。日本には「十王堂」や「閻魔堂」と呼ばれる小堂が、全国各地に寂れた感じではあるが多数残っていて、そこには、閻魔さまや地獄の裁判官である十王、亡者をいじめ倒す鬼卒など、地獄のキャラクターがひしめき合っていたりする。

 地獄のキャラクターたちは、仏像というジャンルには納まり切らないほどどれも個性派で、中でも群を抜いるのが”奪衣婆(ダツエバ)”。その名の通り、三途の川を渡ってきた死者の衣を奪い取る、というちょい役の婆さんだが、その姿は世にも恐ろしい。

 特徴は、なんと言っても垂れ乳で、片膝を立て、頭にはハチマキを巻き、手には死者から奪った衣をつかんでいる。しかも、閻魔さまをはじめとする地獄キャラクターは、基本的に中国から伝わっているので、服装や表情は中国人っぽい。けれど、奪衣婆は日本で考えられたオリジナル地獄キャラのため、ものすごく日本人らしく、しかも地域ごとに自由な感じで造られ、明らかに異彩を放っている。

 『庶民に愛された地獄信仰の謎』の著者・中野氏いわく、ネイティブアメリカンっぽかったり、悲しみの零戦飛行士みたいだったり、カッパ系だったり、”ダツエバ王子”と呼びたいほど爽やかな美少年顔だったり、片肌脱いだ後ろ姿が意外に色っぽかったり、ワコールもびっくりの寄せ乳だったり……と、その奪衣婆像はさまざまあるらしく、ずいぶんブレている。

 本書は、この奪衣婆にすっかり心奪われた中野氏の奪衣婆への愛にあふれたファンレターのような本。そんな奪衣婆を見てみたい! という人のために、約20点の魅惑の奪衣婆写真も掲載されている。

 そのほか、地獄スポット巡りの様子も紹介。高さ5.5mもある閻魔さまが真っ赤な顔でものすごく怒っている新宿二丁目の太宗寺、「地獄の釜の音が聞こえる不思議な石」や「極楽度・地獄度チェック」が体験できる大阪の全興寺などのお寺のほか、地獄発祥の地の京都では、かつて風葬が普通だった頃の三大葬送地と呼ばれる場所へ行ったり、三途の川と名づけられた川のガチ渡り、箱根などの火山地獄ほか、身近な地獄をめいっぱい楽しんでいる。

 「地獄なんて、おそろしー」と思うかもしれないが、日本にはわりと呑気な地獄がたくさんある。本書には、全国各地の地獄にまつわるスポットが多数紹介されているので、これを参考にあちこち出かけ、地獄の世界を覗いてみてみるのも、なかなか乙な遊びかもしれない。この世で、あの世を体験してみては?
(文=上浦未来)

●なかの・じゅん
1961年東京生まれ。体験を作り、体験を書く、体験作家。幼いころから野山を駆け回り、夜空や闇夜に魅せられて育つ。『金比羅山ムーンライズ・ウォーク』『本所七つ闇』など、暗闇を主体にしたイベントを企画、案内する、闇歩きガイドとしても活躍中。私設図書館『少女まんが館』の館主でもある。著書に『夜旅』(河出書房新社)、『東京サイハテ観光』(交通新聞社)、『ヒトの鳴き声』『日本人の鳴き声』(NTT出版)、『東京「夜」散歩』『東京洞窟厳選100』(講談社)、『闇を歩く』(光文社知恵の森文庫)、『図解「月夜」の楽しみかた24』(講談社+α新書)など。

庶民に愛された地獄信仰の謎

行きたくないけど気になる場所。

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最終更新:2010/11/28 15:00
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