上質なサウンドにシビれまくり!! 『鉄男 THE BULLET MAN』DVD&Blu-ray発売記念イベント
#映画 #邦画
世界的な映画監督の初期作品でモノクロームの低予算映画は──と考えて東西を見渡したとき、思い浮かぶひとつはリュック・ベッソンの『最後の戦い』。もうひとつは塚本晋也の『鉄男』だろう。『最後の戦い』はベッソンの長編デビュー作にして1983年アヴォリアッツ国際ファンタスティック映画祭の審査員特別賞・批評家賞受賞作品。『鉄男』は1989年のローマ国際ファンタスティック映画祭グランプリ作品。それぞれ、商業映画監督としてのジャンピングボードとなっている。ジャン・レノ、田口トモロヲが「発見」された映画としても興味深い。
1992年の『鉄男II BODY HAMMER』以来となるシリーズ第3作『鉄男 THE BULLET MAN』が今年公開され、このたびBlu-ray/DVD化、同時に『鉄男』三部作のサウンドトラック音源を収録した『鉄男 ~コンプリート・サウンドトラック~』(SMJ)も発売された。
11月3日に立川シネマシティで行われた「『鉄男 THE BULLET MAN』DVD&Blu-ray発売記念”世界初!鉄男全作一挙上映”」は、映画を見ていながら、最強のノイズミュージックライヴを体験しているかのような不思議なイベントだった。
サウンド・スペース・コンポーザーの井出祐昭が音響設計した立川シネマシティは、剥き出しのスピーカーが暴力的な印象を与える「kicリアルサウンド」を採用。その音質は映画館という域を越えているが、ヴィジュアルそのものが前衛的な異空間ともいえ、『鉄男』に非常にマッチしている。
上映前と各作品のインターバルには、塚本晋也監督、「『鉄男 THE BULLET MAN』出演のエリック・ボシックと桃生亜希子、音楽の石川忠、漫画家の深谷陽らが登壇してのトークショーが行われ、ファンを楽しませた。
『鉄男』をはじめとする塚本作品に石川忠の音楽は欠かせない。ノイズ・インダストリアルバンド「ツァイトリッヒ・ベルゲルター」のメタルパーカッショニストだった石川(現DER EISENROST)に、塚本はこう注文したという。
「カシオサンプルトーンで猫の声でドレミファソラシドをやっているのが面白くて、だったら鉄の音で音階を作ろう、と思った。石川さんに依頼したときは、『とにかく鉄で。なるべく鉄だけで、普通の楽器なしで作れたらうれしい』と(笑)。」
石川はツァイトリッヒ・ベルゲルターで自作のメタルを叩いていたが、それでも普通の楽器を使わないという縛りには、かなり戸惑ったという。
その結果があの「爆音」「轟音」である。
1本目の『鉄男』上映開始直後には塚本が自ら実際の仕上がりをチェック、微調整を施していた。攻撃的なサウンドがさらに活性化。会場を埋め尽くしたオーディエンスを圧倒した。
この日は関連グッズがバカ売れ。塚本もファンサービスの時間を増やし、できるかぎりサインをし続けた。
その合間を縫って、塚本、エリック、桃生が控え室で取材に応じてくれた。
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――シンプルに訊きたいのですが、これほどまでに長く愛され、影響を与え続ける『鉄男』とは、みなさんにとってなんなのでしょうか。
エリック それシンプルな質問じゃないでしょ(苦笑)。
塚本 一番楽しめる遊び場所、です。一番自由に、かしこまりすぎず、羽がピッと伸びるような。また『鉄男』を撮るとは(今の時点では)言わないですけど、そのことを考えると、フフッと楽しい。
──いますぐに続編と言われると、ちょっと困りますか?
塚本 前もそう言って、17年もかかっちゃったわけだから(苦笑)。『鉄1』が公開されたのはサイバーパンクが出てきたときですよね。その頃、インダストリアル音楽ができたじゃない? 暗い、ラフなサイファイ。人間、肉体、マシーン、鉄、大きいビルや街と人間のアイデンティティをどう合わせるかというテーマを、それぞれのアーティストが考えていた。でも『鉄男II』は作り方がちょっと変わった。鉄男のデザインが変わって、ストーリーもナラティヴになった。シュールだけじゃなくて、ストーリーが入った。(いろいろな作品を経ての『鉄男 THE BULLET MAN』で)現場でたまに言ってたんですよね、これは大人の鉄男だと。以前よりもセンシティヴに細かく静かに作られている。内包されている哲学も変わったと思いますよ。
桃生 塚本監督という人間に私はまず感動しました。自分の作りたいものを作るために時間をかけ、本当に大事に作っていて。監督が作るものを愛している人たちが集まって、お金とかそういうことだけじゃないところでものを作っていく姿勢とか、いろいろなことを教えてもらいました。スタッフの方とみんなで一緒に作品を作り上げていく時間が私は好きなんだな、と気付かされました。この先もいろいろな作品に出会っていくと思いますが、本当に大事にしたい作品に会えた、大きな出会いだなと、すごく感謝しています。
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熱心な塚本ファンであるエリックをはじめ、「お金だから」とか「仕事だから」という以上のモチベーションが制作者を衝き動かす類の作品であることを、桃生は明確に語っている。20年以上も『鉄男』が続く理由の一端が垣間見える。
20周年記念として、月刊コミックビーム(エンターブレイン)でコミック版の連載が始まるという。熱狂の渦が新たな支持者を獲得し、巻き込んで、さらなる運動へとつながりそうな気配だ。
(取材・文・写真=後藤勝)
体感せよ!
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