ソーシャルメディアがお膳立てしたフラッシュマーケティングの隆盛
#佐々木俊尚 #プレミアサイゾー
……は、これ以上日本でも拡大するか?
「グルーポン」に代表されるようなウェブ上の共同購入サービス、”フラッシュマーケティング”が日本でも加速中だ。実は90年代から存在していたこれらに今火がついたのには、ツイッターやフェースブックなどソーシャルメディアの普及があってこそのものだという。
ここ最近、「フラッシュマーケティング」と呼ばれるウェブのサービスがものすごい勢いで盛り上がっている。これはグループバイイング(共同購入)とかソーシャルコマースとも呼ばれていて、アメリカのグルーポン(Groupon)が代表的だ。人数が集まれば安価に商品を購入でき、その人数をネット上で集めてみんなで盛り上がろうというものである。
かなり興味深い新しいサービスなのだが、誰にでもまねしやすいシンプルな構造なので、類似のサービスを立ち上げる企業がそれこそ雨後のタケノコのように現れてきている。なんと毎日新聞でさえも「毎ポン」という名称で参入しているほどだから、市場が成熟する以前にあっという間にレッドオーシャン(市場が過当競争になって血で血を洗う安値競争に陥ること)になっていることがうかがえる。
とはいえ、このフラッシュマーケは非常に興味深いのも事実。まずフラッシュマーケの仕組みを説明しておこう。日本のベンチャーが立ち上げた「ピク(Piku)」というサービスを例にしてみたい。
使い方は簡単で、ピクでメールアドレスとパスワード、それに自分の住んでいる場所を登録してアカウントを取得する。すると地元の割引クーポンがたくさん表示される。
「和食○○の、人気和食コース9000円が、3000円で!」
「あの人気公演のチケット8000円が、5500円」
「セルライトと皮下脂肪をもみほぐして除去! 通常60分9800円が4500円で」
これらのクーポンは日替わりでどんどん掲載されていく。利用したい人は「購入」というボタンをクリックし、クレジットカードで決済する。
とはいえ、これらの割引クーポンは無条件で手に入れられるわけではなく、必要最低申込数が店によって設定されている。たとえば9000円の和食コースが3000円になるクーポンが「100人以上」と設定されていたとすると、100人以上がこのクーポンに申し込まなければ契約は成立せず、3000円のクーポンはゲットできない。しかもクーポンには購入期限もある。
そこで時間内に最低申込数に達するためには、ユーザー同士の協力が必要となってくる。ピクのクーポンの画面には「ミクシィチェック」や「ツイートする」、フェースブックの「いいね!」ボタンが設置されていて、これらのボタンをクリックすると、自分のコメントと一緒にクーポンの情報をミクシィやツイッター、フェースブックなどのソーシャルメディアに流すことができるようになっているのだ。
つまりピクのクーポン情報は、ツイッターやフェースブック、ミクシィのような大きなソーシャルグラフを持つ巨大プラットフォーム上で交換されそこで「今このクーポンが安いみたいだよ」「これいいんじゃない?」といったユーザー同士のさまざまなやりとりが行われるようになる。ピクのウェブサイトでは自前のソーシャルグラフは一切用意していないし、そういう仕組みさえ持っていない。完全にほかのソーシャルグラフに依拠したサービスなのだ。
ピクのサイトではクーポンの情報と、「残り時間あと○時間△分×秒」という刻々変わっていくストップウォッチ、そして必要最低申込数達成まであと何人必要なのかという数字がリアルタイムに表示されて、焦燥感をあおる仕掛けになっている。
ここではだから、「情報を提供する場」と「その情報について人々がやりとりする場」が完全に分離されているということなのだ。そして後者については自前で用意せず、巨大プラットフォームにおんぶにだっこで依存する仕組みになっているのである。
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