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お笑い評論家・ラリー遠田の【この芸人を見よ!】第97回

次長課長 変幻自在のオールラウンダー河本を生かす、井上の「受け止めるツッコミ」

jikacyokomoto.jpg『次長課長河本準一の何でしたっけ?
望郷篇』(よしもとアール・アンド・シー)

 すい炎が原因で休養に入っていた次長課長の河本準一が、11月2日の生放送番組『火曜サプライズ』(日本テレビ系)に出演して復帰を果たした。河本は10月6日に都内の病院に入院。すい炎と診断され、治療に専念していた。復帰に際して、河本は「このたび無事に退院することができました。ご心配、ご迷惑をおかけしました。今後ともよろしくお願いいたします」とコメントを発表していた。

 次長課長の河本準一は、お笑い界屈指のオールラウンド・プレイヤーである。『人志松本のすべらない話』(フジテレビ系)では、主に自分の母親や姉などの家族にまつわるエピソードを披露して、初期の同番組を盛り上げたキーパーソンの一人だった。また、ホスト時代に身につけたタンバリン芸、個性的な声質を生かしたものまね芸など、何をやっても器用にこなすお笑い的な身体能力の高さがある。水木しげる漫画の登場人物を思わせる顔つきが、情けなさと哀愁を醸し出して、彼の芸を一段と魅力的なものに見せている。

 さらに言えば、人付き合いがよく社交性があり、複雑な生い立ちでありながらそれを明るく笑い飛ばす割り切りがあるということも、芸人としての彼の資質を語る上で外せない要素だ。

 もちろん、本業であるコントを演じているときにこそ、河本は最も輝きを放つ。つかみどころのないキャラクターと、予期せぬ展開に向かう自在なボケ。「カンジュップンからコンジュップン」「下田のイジメは過去に前例がない」など、妙に耳に残る一撃必殺のフレーズの破壊力もある。

 そんなオールマイティな河本の才能の集大成とも言えるのが、彼の出世作となった「タンメン」の一発ギャグだろう。即興で偶然に生まれた「おめえに食わせるタンメンはねぇ!」というフレーズは、一世を風靡したお笑い史に残る名作である。そこには、河本にしかできなかった顔芸、ものまね芸、マニアック芸、フレーズギャグなどのあらゆる要素が凝縮されている。

 ただ、次長課長がコンビとして本当に恐ろしいのは、そんな万能プレイヤーである河本を、ほぼ完全に制御する異様な存在感を持った相方が隣に控えていることだ。それが、イケメン芸人で無類のゲームオタクとしても知られる井上聡である。

 コントを演じるときの彼の魅力は、まるで日常会話のような自然なツッコミだ。次長課長のコントでは、河本がボケのかたまりであるような奇妙な人物を演じることが多い。だからこそ、そんな河本に対して、井上は声を張り上げて強くつっこむ必要がない。彼は、そのことを心の底から信じ切って、徹底して声を張らない落ち着いたツッコミを淡々とこなしていく。

 本来、ツッコミとは、受け手に対してボケのありかを示すものである。井上は、河本のおかしな言動をナチュラルに受け止めることで、ボケをボケのままで観客に提示する。

 それはいわば、素材の良さを生かした自然食品レストランのシェフのようなもの。食材の品質が圧倒的に優れていれば、料理人が無理に手を加える必要がない。素材の良さを生かす形で、最低限の調理をした上でそのまま客に提供すればいい。それが井上の役割だ。

 最近では、それぞれのソロ活動も目立っているが、2人揃ってコントを演じているときの輝き方は格別のものがある。生い立ちから生き様まで、全身で「芸人」であることを体現して、パワフルに笑いを生み出していく河本と、そんな彼を放し飼いにして、自然な反応でさらに多くの笑いを引き出す井上。ツッコミを必要としない強力なボケに対して、ボケをつぶさないさりげないツッコミが加わる。次長課長の河本と井上は、笑いという絆で結ばれた運命の2人だ。
(文=お笑い評論家・ラリー遠田)

次長課長河本準一の何でしたっけ? 望郷篇

クラスに一人はいるタイプ。

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最終更新:2013/02/07 12:27
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