成長著しい”若手実力派”谷村美月『海炭市叙景』ほか出演作続々と公開!
#映画 #インタビュー #邦画 #谷村美月
日刊サイゾーいち押しの若手女優、谷村美月。14歳のときに映画『カナリア』(05)で注目を集め、その後も出演作ごとにひたむきな演技を見せている目が離せない存在なのだ。昨年高校を卒業し、女優業に専念して1年半。この秋だけでも、クリクリ頭を披露した『おにいちゃんのハナビ』、地方出身の新米ADを等身大で演じたコメディ『明日やること ゴミ出し 愛想笑い 恋愛。』、そして東京国際映画祭のコンペ部門に選ばれた『海炭市叙景』と主演作が3本続けて公開。さらにアクション時代劇『十三人の刺客』、ハードボイルドサスペンス『行きずりの街』でも短い出番ながら作品のアクセントになるキャラクターを演じている。加速する20歳、谷村美月の素顔に迫った。
──この秋は『おにいちゃんのハナビ』『明日やること ゴミ出し 愛想笑い 恋愛。』『海炭市叙景』と主演作が3作続けて公開。スゴいじゃないですか。
谷村美月(以下、谷村) はい、でも撮影したのは昨年とかだったりするので、自分では「あ、この時期に続けて公開されるんだぁ」って感じなんです。確かに昨年は『海炭市叙景』の函館ロケを含めて忙しかった気はしますが、大阪にいたときのほうが高校に通いながらだったので、自分では以前のほうが頑張っていたように思います(笑)。今はお芝居に集中して取り組むことができるので、高校生の頃よりかは随分と楽ですね。
──三池崇史監督の『十三人の刺客』、阪本順治監督の『行きずりの街』でも味のあるキャラクターを好演。
と帆波(谷村美月)の兄妹は、小さな街
で寄り添うように生きてきた。大晦日
の夜、2人は初日の出を見にいくことに。
(c)2010佐藤泰志/『海炭市叙景』製作委員会
谷村 三池監督の『神様のパズル』(08)にも出させていただきましたが、三池監督の作品に出演するのは楽しみ。出番が少なくても、「一体、どんな作品に完成するんだろう」とワクワクしちゃうんです。『行きずりの街』は、私はまだ見てないんです。どうでしたか?
──美月ちゃんがスーパーマーケットで値引き商品を漁ったり、お釣りに手を延ばすシーンは爆笑ものでした。
谷村 よかったぁ。私の出演シーンは、スーパーマーケットの場面だけだったので、カットされていたらどうしようと不安だったんです。
──以前は、『死にぞこないの青』『おろち』(08)など、人間じゃない変わった役が多かったけど、最近は『海炭市叙景』をはじめ生活感のある普通の女の子の役が増えてきましたね。
谷村 はい、10代の頃は変わった役に偏ってましたね(笑)。今年、20歳になったんですけど、生活感のある役が増えました。どうやって生活感、現実感を出すのか演じ甲斐がありますが、難しくもありますね。
──大阪の実家を離れて、ひとり暮らし中。日常生活の過ごし方は俳優業に影響する?
谷村 う~ん、少なからず影響するんでしょうね。どうしても撮影に入ると慌ただしくなっちゃいますが、なるべく普段の生活もきちんとしていたいなと思っています。自分の生活を感じる時間を持つようにしたいですね。忙しくても、自分で料理を作って、ご飯を食べて「美味しいな」と感じられる時間を大切にしたいと思うんです。夏場は材料が痛みやすいので控えていましたが、料理はけっこうするんです。母親直伝の煮物は、なかなかの味ですよ(笑)。
■新人の頃に戻った最新作『海炭市叙景』
──『海炭市叙景』は5つのエピソードが交差する群像劇。美月ちゃんが出演したオープニングエピソード『まだ若い廃墟』は、仕事もお金もない若い兄妹の生活がリアルに描かれていますよね。
リストラされてしまう。造船所を守ろうと懸命に
働いていただけにショックは大きかった。
谷村 そうですね、私の出演したシーンの撮影期間は1週間くらいだったんですけれど、熊切和嘉監督をはじめとする一流のスタッフと、地元・函館の方たちがとても居心地の良い現場を用意してくださったので、私はあまり無理に考え込まずに新人に戻ったようなつもりで、ポンと現場にいさせていただきました(笑)。
──カメラマンはセミドキュメンタリーの傑作『谷村美月17歳、京都着。』(07)を撮った近藤龍人氏。
谷村 やっぱり知っている方がスタッフの中にいると心強いですね。私にとって『京都着。』は特別に親しみのある作品なんです。カメラマンの近藤さんもそうですが、『京都着。』を演出された山下敦弘監督、脚本の向井康介さん、編集の松江哲明さんは、私にとってスタッフというよりも親戚のお兄ちゃんみたいな感じですね(笑)。
──函館在住の方たちがキャスト、エキストラなどで出演していますが、『海炭市叙景』の作品の中にとても溶け込んでいるのが印象的。
谷村 本当に私もそう思います。函館のみなさんの支えがあっての作品ですね。いつもは「お芝居しなくちゃ」というプレッシャーが現場ではあるんですが、今回は何も背負うことなく過ごすことができた現場だったんです。『海炭市叙景』は自分が主演とは思っていません。なので、エンドロールで私の名前が最初に出たときは「え~!」って思うくらい驚いたんです。そのくらい責任感なく、リラックスして楽しく過ごしました(笑)。
──朝、寝ているお兄ちゃん(竹原ピストル)をまたいだり、蹴っ飛ばして起こしたりするシーンはとても自然。
谷村 あのシーンが初日だったんですが、そんなことが気にならないくらい自然に蹴っ飛ばしてましたね(笑)。私のアドリブか、熊切監督の指示だったのかは忘れましたけれど、竹原さんとは初日から自然とそういう親しい距離感になれたんです。えっ、実家でも家族をまたいだり、足蹴りする? しませんよ~! 家族とは仲がいいんですが、そんなことしたらぶっ飛ばされます(笑)。そういう意味じゃ、実家にいるとき以上に寛いでいたのかも。普段できないことでも、撮影だと自然にできてしまうのが、不思議ですね。
『まだ若い廃墟』『ネコを抱いた婆さん』
『黒い森』『裂けた爪』『裸足』の5つの
ドラマが交差する
──函館山の展望台から日の出をみんなで拝むシーンは、お正月っぽい雰囲気がすごく出ています。
谷村 実際に山に登って、日の出が出てくるのをみんなで震えながら、でもワクワクしながら待っていたんです。1日目は曇っていてダメでしたが、2日目でうまく撮れました。普段の撮影現場だと時間の都合上、日の出だけ別撮りすることが多いんですが、『海炭市叙景』は実際の日の出を見ながら自然と湧いてくる感情をそのまま撮ろうという幸せな現場でした。お芝居ではない、ライブ的なものがいっぱい映っている映画だと思います。日の出が出てくるのを待つ間、お兄ちゃん役の竹原さんとも家族のこととか仕事のこととか、いろいろ話しましたね。
──初日の出に願を掛けながら、失業中のお兄ちゃんの顔を何度も覗き込む表情が切ないですよ。熊切監督から表情やタイミングの指示があった?
谷村 ないです、ないです。演技に関しては、まったく自由だったんです。熊切監督はカメラの横でニコニコと私たちのことを見守っているだけでした。ああして、こうしてとは言わない方でしたね。多分、役者がお芝居しやすい現場を作ることをいちばんに考えている監督だと思います。これまでは現場の雰囲気を考えながら芝居することが多かったので、すごく新鮮で、お芝居にだけ集中すればいいという素晴らしい環境でした。私の経験では、映画デビュー作の『カナリア』以来だったかも。でも、これまで自分のことで一杯いっぱいだった私も、どういう現場なのかとか感じられる余裕が多少できてきたのかもしれませんね。
■大阪時代の、ちょっと恥ずかしい過去?
──『海炭市叙景』は故郷から離れられない人々の群像劇ですが、美月ちゃんにとっての故郷とは?
谷村 大阪で生まれ育ったんですが、私にとっての故郷とは”何も変えられない場所”かなぁ。昔の思い出って、削り取ることができませんよね。幼稚園から小学校まで過ごした街に行く機会があり、昔遊んでいた公園にブランコや滑り台がそのまま残っていたんですが、すごく小さくなっていて不思議な気持ちになりました。自分は大きくなったけれど、思い出は変わらず、そのままなんだなぁって。
──『スタンド・バイ・ミー』(86)の大人になった主人公みたいですね。故郷を離れて、センチメンタルになった?
谷村 自分でも、ひとり暮らしを始めることでホームシックになったりするのかなぁと楽しみにしていたんです(笑)。でも、舞台の全国公演などの機会に、家族にはよく会っているし、地方ロケに行くことも多いので、いまだに東京に移住したっていう実感がないんですよ。
──女優・谷村美月の居場所はスクリーン、テレビの画面、舞台の上ということですね。
谷村 ふふふ、そういう風に言われると、すっごくカッコいいですね(笑)。でも、実家を離れたことで、当たり前だと思っていたことがとても大事だったんだと思い知らされています。母の手料理の美味しさや父の存在など改めて実感しています。実家を出たことで、いろいろと見えてきたものがあるように思いますね。
──NHK大阪制作の朝ドラ『まんてん』(02)で女優デビュー。当時から女優を目指していた?
谷村 はい、ずっと憧れていました。”谷村美月として、もっと世に出たい”という欲があったんです。あの頃の私はすごかったです(笑)。もっともっと上に行きたい、周囲を驚かせてやりたいという気持ちが強かったんです。先日、母と電話で話したんですが、「ずいぶん変わったね」と言われました。母は私のインタビュー記事を全部読んでくれていて、「考え方が変わってきたね」「昔のまま大きくなっていたら、すごくイヤな人になってたよ」と母に言われ、私もそうだなぁと思いました。『カナリア』みたいな役だったらいいんでしょうけれど、何にでもガツガツして、いつも前に出たがる女の子って、作品全体で見たらうっとおしいですよね。近頃は作品全体の中で自分に求められていることを精一杯やればいんだと考えるようになりました。昨年、今年と舞台を経験したことが大きいと思います。でも、雑誌や新聞の記事を読んで、母が娘の成長ぶりを知るっていうのも、この仕事ならではですよね。
──お母さんは記事を全部ファイルしている!? じゃあ、日刊サイゾーも変な記事は書けませんね。
谷村 はい、お願いします(笑)。
──大阪時代に「モーニング娘。」のオーディションを受けたって本当?
谷村 自分からは進んでは言いたくない過去なんですけれど、本当です(苦笑)。小学生のときに地元の劇団に入っていたんですが、仕事のことで悩んで、「もっと上の世界を目指したい」と考え、母に相談して「モーニング娘。」のオーディションを受けました。アイドルになるのが、自分のやりたいことをやるための近道だと考えたんです。あの頃の自分は、思い出すと少し照れくさいです。でも、今さら過去は変えられません。いいネタにしていただければと思っています(笑)。
(取材・文=長野辰次)
『海炭市叙景』
村上春樹と並ぶ現代文学の旗手と評されてきた佐藤泰志(1949~90)が故郷・函館市をモデルにして描いた連作短編小説を、『ノン子36歳(家事手伝い)』(08)の熊切和嘉監督が映画化。路面電車が走る地方都市・海炭市では造船所が縮小し、大幅なリストラが行なわれた。職を失った兄妹はなけなしの小銭を集めて、初日の出を見るために山に登ることに。冬の海炭市を舞台に、街で暮らす人々の物語が交差する。
原作/佐藤泰志 監督/熊切和嘉 音楽/ジム・オルーク 出演/谷村美月、竹原ピストル、加瀬亮、三浦誠己、山中崇、南果歩、小林薫、伊藤裕子、黒沼弘巳、大森立嗣、あがた森魚、東野智美、森谷文子、村上淳、西堀滋樹、中里あき 配給/スローラーナー
11月27日(土)より函館先行ロードショー 12月18日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開 <http://www.kaitanshi.com>
●たにむら・みつき
1990年大阪府出身。『カナリア』(05)のヒロイン役で映画デビューを飾り、第20回高崎映画祭新人賞を受賞。05~06年には海賊版撲滅キャンペーンのCFで黒い涙を流し、話題を呼んだ。主な出演映画に『ユビサキから世界を』『かぞくのひけつ』『酒井家のしあわせ』『時をかける少女』(06)、『檸檬のころ』『魍魎の匣』『茶々 天涯の貴妃』(07)、『リアル鬼ごっこ』『神様のパズル』『死にぞこないの青』『おろち』『コドモのコドモ』(08)、『蟹工船』『おと・な・り』『サマーウォーズ』(09)、『ボックス!』(10)ほか多数。主演ドラマに『生物彗星WoO』(06/NHK)、『キャットストリート』(08/NHK)、『太陽と海の教室』(08/CX)、『必殺仕事人2009』(09/ABC)、舞台出演作に『雨の日の森の中』(09)、『2番目、或いは3番目』(10)。現在は連続テレビドラマ『医龍3』(フジテレビ系)、『モリのアサガオ』(テレビ東京系)に出演中。11月には単発ドラマ『心の糸』(NHK総合)、『ストロベリーナイト』(フジテレビ系)がオンエア。11月20日(土)から出演作『行きずりの街』が公開される他、『HESOMORI-へそも
り』も公開待機中。
初々しい。
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