調書は捏造だった? 高知白バイ衝突死事故の真相に迫る週刊誌の役割
#雑誌 #出版 #元木昌彦 #週刊誌スクープ大賞
●第66回(10月26日~11月1日発売号より)
第1位
「検察の『調書捏造』を告発する」(「週刊文春」11月4日号)
第2位
「愛社度ランキングワースト企業 USEN ヤマダ電機の現役社員が語る『私がわが社を愛せない理由』」(「週刊プレイボーイ」11月15日号)
第3位
「『ただトモ夫婦』増殖中」(「週刊朝日」11月12日号)
今週は、トピックではないが重なる企画がいくつか見られた。「新潮」の「『朝日新聞』日暮れ時」と「現代」の「短期集中連載 新聞記者たちの不安を聞きに行く 第1回 朝日新聞記者の憂鬱」は、「現代」が元朝日新聞記者のジャーナリストを起用している分、新味がある。会社員記者が増え、「本当のジャーナリストなんかいらない会社になったんだ」という先輩記者の言葉が大新聞の危機を象徴している。
やはり同じ両誌で、「週刊ダイヤモンド第1位に選ばれた老人ホームはそんなにいいのか」(現代)「入ってはいけない『老人ホーム』大研究」(新潮)と、同テーマを違う角度から斬っている。
「現代」は「ダイヤモンド」で取り上げた老人ホームを取材しているが、タイトルとはやや違って、「確かにこれなら入りたい」と結論づけている。東京の練馬区にある「もみの樹・練馬」は東京電力のグループ会社が経営しているそうだが、隅々まで行き届いたケアをしていると高い評価をしている。だが、入居時に払う一時金だけで最高2550万円だそうだ。これでは下々には高嶺の花。医療も終の棲家も、金がモノを言う世の中である。せめて「新潮」を読んで、低料金でもいい老人ホームでも探すとしようか。
「朝日」は、医療制度改革のまやかしを質したり、「三井環裏ガネ事件」に関与した元山口組系暴力団組長の「獄中手記」第3弾と気を吐いているが、難をいえば、どちらもやや読みにくいことだ。もう少し、私のような惚けた人間にでもスーッと頭に入る書き方をしてもらいたいと、お願いしておく。
「朝日」の中では、たった2ページだが(目次の扱いは大きい!)「ただトモ夫婦」というネーミングが気に入って読んでみたが、なかなか面白い。
草食男子が増えて、「夫婦でもなければ親友でもない『ただの友だち』と呼ぶのがぴったりするほど関係の浅いカップル」が増えていると、『ただトモ夫婦のリアル』(日本経済新聞出版社)の著者・牛窪恵氏は語っている。
別寝室、別居婚、週末婚は当たり前。恋愛や消費にガツガツしたところを他人に見せたくない、人を傷つけたり傷つけられたりすることが苦手な、心優しい男子が増えてきたことが原因だという。
しかし、そうした草食男子が選ぶのは、仕事がバリバリこなせて稼いでくれる女性だというのだから、単なる不甲斐ない男が増えているということではないのかね。
最新データによると、生涯未婚の男は3人に1人、女性は4人に1人になるそうだから、結婚することさえ困難な時代になってきている。われわれの時代のように、女の子の将来の夢は「お嫁さん」などという牧歌的な時代は終わったようだ。
ところで、このところテレビを見ていると、企業タイアップのような番組が増えていると思うがいかがだろう。
先日も、ヤマダ電機を取り上げ、いかに安くしてくれるかをタレントがチャレンジする番組があったが、どう見てもヤマダ電機のパブとしか思えない。
週末は、セブンイレブンだけで売っている商品が、どのように作られているのかを紹介する番組をやっていたが、これも、雑誌でいえばパブ記事のようなものではないのか。
CMが激減する中で、何とかスポンサーを探そうという苦労は分からないではないが、雑誌や新聞なら「PR」とどこかに書かなくてはいけない「記事広告」のような番組が多くなるのでは、ポストが書いているように「仙谷長官、テレビ局から電波使用料2兆4000億円徴収したらどうですか?」と言いたくもなる。
そのヤマダ電機だが、現役社員に言わせると「ウチなんて口臭の強い社員ばっかりですよ!! ストレスを抱えすぎて、胃がやられちゃってるんです」となるのだそうだ。
「プレイボーイ」は、企業の現役社員の口コミを集めたサイト「キャリコネ」が公表した「愛社されている企業、愛社されていない企業」ランキングを載せ、社員の声を拾っている。愛社されている企業のベスト3は「三菱商事」「住友商事」「旭硝子」で、ワースト3は「USEN」「ヤマダ電機」「大塚家具」となっている。
ヤマダを抜いて堂々第1位になった「USEN」は、ピーク時3000億円もあった売上げが、傘下の「GyaO」売却などで、今は1460億円まで落ち込み、「とにかく給料が安い。自分の場合、入社1年目の年収が350万円で400万円を突破したのが6,7年目。で、そこからほとんど横ばい」だと社員が話す。
この特集の前で、3年で社員を使い切る「ブラック企業」に入らないための見分け方が書いてある。「社員数に対して採用が多すぎる」「社員の平均年齢が若すぎる」「給与体系に『固定残業代』の名目がある」等々とあるが、就活最中の学生には必読だろう。
第1位は、文春の「検察の『調書捏造』」を告発した記事にした。これが事実なら、大阪地検特捜部の「FD改竄」どころではないスキャンダルになると謳っているが、確かに、事実ならひどい話である。
2006年3月3日、高知県吾川郡春野町で、スクールバスと白バイが衝突した。白バイ隊員は死亡し、バスを運転していた片岡晴彦さんは有罪になり、1年4カ月の禁固刑を受けて刑に服し、今年2月に出所した。その片岡さんが、無罪判決を求めて再審請求をしたのだ。
大きな疑問点は、当時バスに乗車していて一部始終を見ていた二人の中学生の検察調書にあった。二通の調書には、本人が話していない証言が記載され、署名も拇印もあるが、本人が「これ本当に私の字か?」と思うほど違っているのだ。
もう一人の生徒は、「バスは完全に止まっていた。運転手さんは左右確認していた」と話したのに、北添康雄高知地検副検事の検面調書には、バスは白バイと衝突するときに動いていたと書かれていたのだ。
片岡さんが、二人の検面調書を閲覧申請したところ、高知地検は不許可にした。捏造した調書で有罪にしたとすれば、高知地検だけの問題では済まないこと言うまでもない。
この問題も、最高検察庁は即刻調べるべきだろう。高知地検は、やましいところがなければすべての証拠を開示して、これらの疑問に答えなければならない。
こうした検察の強引な取り調べや捏造問題は、これからも次々に明るみに出てくるはずだ。新聞が書けないことを書く、週刊誌の役割はますます重い。
最後に、私事で恐縮だが、徳間書店から出した『編集者の教室』について書かせていただきたい。これは以前出した『編集者の学校』(講談社)の続編で、佐野眞一、坪内祐三、佐藤優、野村進、重松清、山田ズーニーさんら31人が、取材のノウハウから編集、執筆の奥義までを惜しみなく披瀝した、学生、若い編集者のための本です。ぜひご一読を。
(文=元木昌彦)
●元木昌彦(もとき・まさひこ)
1945年11月生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社入社。90年より「FRIDAY」編集長、92年から97年まで「週刊現代」編集長。99年インターネット・マガジン「Web現代」創刊編集長を経て、06年講談社退社。07年2月から08年6月まで市民参加型メディア「オーマイニュース日本版」(2006年8月28日創刊)で、編集長、代表取締役社長を務める。現「元木オフィス」を主宰して「編集者の学校」を各地で開催、編集プロデュースの他に、上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで教鞭を執る。
【著書】
編著「編集者の学校」(編著/講談社/01年)、「日本のルールはすべて編集の現場に詰まっていた」(夏目書房/03年)、「週刊誌編集長」(展望社/06年)、「孤独死ゼロの町づくり」(ダイヤモンド社/08年)、「裁判傍聴マガジン」(イーストプレス/08年)、「競馬必勝放浪記」(祥伝社/09年)、「新版・編集者の学校」(講談社/09年)「週刊誌は死なず」(朝日新聞社/09年)ほか
編集ってなんだろ。
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