【TIAF2010autumn】アニメ市場動向と動画環境の未来を斬る!
#アニメ #イベント
毎年春の東京国際アニメフェアに連動、過日、東京秋葉原のUDXにて開催された「東京国際アニメ祭2010秋」。10月22日(金)、4階UDXシアターでは合わせて4つの講演とシンポジウムが開催された。しかし平日の昼間ということもあり、聴講できた人数は限られたものだった。眠らせておくにはもったいない各々のシンポジウムと講演を振り返り、エッセンスを汲みとってもらえれば幸いとばかりにご紹介。
◆主催者特別講演「日本のアニメーション産業の現状と未来」
イベントそのもののスタートとなる特別講演は、専修大学ネットワーク情報学部教授の福冨忠和氏が、一般社団法人日本動画協会理事長の布川郁司氏に問を投げかけるかたちで進んだ。
現在のアニメ業界はどういう状況なのか。今後どう変化していくのか。全体売り上げ、マーチャンダイジング売り上げ、音楽ソフト売り上げ、配信市場・携帯電話市場動向、海外市場動向など、さまざまなデータを提示しながら実態に迫っていった。
使用されたデータは日本動画協会会員企業の業績を集計したもの。厳密にはアニメ業界全体のデータではないが、日本アニメ界のおおよその傾向を知るには十分なものだった。
2006年をピークとしてテレビアニメの放映本数が減少傾向にある(09、10年は復調)ことは過去に何度か語られてきたが、これはリーマンショックなど世間一般の事情とともに、アニメーション業界特有の事情ももちろんある。
かつてスポンサー主導だったアニメ制作は、出資者の集合体である製作委員会主導で行われるようになっている。これによってギリギリまで制作が決まらないということがなくなり、計画的に作品づくりを進め、ビデオグラムを中心とする商品化によって制作費を回収するというビジネスモデルが定着している。
アニメが深夜帯に進出するようになり、好調だったビデオグラムの売上が06年までの右肩上がりを支えていたが、そのビデオグラムが売れなくなると従来のスキームが崩れてくる。1クールや2クールの短期シリーズが増え、品目は多くなっても、ファンの懐は広がらず、売上は向上しない。
一方で海外市場も売上が減少している。これはアメリカが自国のアニメーションに投資をしてそれが実り、日本のアニメが駆逐されていることにも原因があるようだ。
2005年以降はハリウッドの出資を受けた日本の実写映画やアニメ映画が増えつつあるというデータもあるが、もっと増やすための課題は何かと福冨氏が布川氏に訊ねると「日本のアニメーションはテレビのスケジュールに忙しく追いまくられる制作環境でつづけてきた。合作の話が来ても、そこに乗れる人材を育ててこなかったと思う」と指摘。クリエイティブな分野は高く評価されているが、マネジメントできる人材がいない点を問題に挙げた。
ところで、アニソンブームと言われ、J-POPと相対的にその地位を上げていることは実感として語られてきたが、これはデータの裏付けもとれている。売上枚数でみると09年度のJ-POPは前年比86.3%だが、アニソンやアニメサントラは同113.5%。『けいおん!!』が起こしたムーブメントも考慮にいれれば、音楽分野での商品化が武器のひとつになりえていることは間違いない。音楽も含め、二次商品でどう売上を立てていくかが重要になってくるようだ。
◆シンポジウム「3D(立体視映像)の技術と歴史」
映像クリエーターの大口孝之氏が解説したのは、3Dは3DでもCGではなく、立体視映像の歴史だった。その歴史は当然のことながら、各年代における立体視技術の発明に関係がある。その度にブームとなりながら、定着してこなかったのはなぜなのか。
大口氏は冒頭「ことしは3D元年と言われていますけれども、こういったブームは過去に何度も起きている。それは失敗に終わってきた歴史でした」と喝破する。そしてなぜ失敗したのか、今回のブームでは何をしなければいけないのかを考えていきたいと表明し、語り始めた。
3D映像の歴史は古く、1832年に開発されたホイートストンのステレオスコープがその始まりだった。まだ写真のない時代、鏡を真ん中に立てて2枚のイラストを立体視するという発明は画期的だった。
しかしこういった技術がことあるごとに発明されたのにもかかわらず、何か新しい娯楽が姿をあらわしたとき、脅威を感じた映画界が対抗策の飛び道具としての使い方しかできなかったために、3D映画は定着する機会を逃してしまうのである。
観客に向かって飛び出す、尖ったものを突き出す、何かを投げるという、ひたすら安直におどかすパフォーマンスに終始したため、いつの世も飽きられ、見放されてきた。
05年辺りからハリウッドが音頭をとって進化をしてきた3D映画には、未来のメディアとして特定の地位を占めるチャンスが巡ってきている。3Dメガネを軽量化する、通常版に比べて高価な入場料を安くする、立体映像の演出を成熟させるといった改良を施し、観客に受け入れられる道を探るべきだろう。
◆基調講演「動画のメディア空間はどう変わるか」
ITジャーナリスト佐々木俊尚氏の講演は、Google TVを題材として次世代のテレビ視聴空間がどうなるのかを予測するものだった。
佐々木氏はGoogle TVの特徴を3つ掲げた。
1・検索バーを使い、地上波の番組とYouTubeなどのネット配信の動画をシームレスに検索。
2・Chromeブラウザを搭載し、ウェブを見られる。スマートフォンのようなQWERTYキーボードのあるリモコン。
3・Androidマーケットに対応。
新たな広告の掲載スペースを開拓してきたGoogleにとって、もっとも重要なのは3である。iPhoneにおけるApp Storeの役割をAndroidマーケットに負わせ、広告を見せ、アプリを買わせようというわけだ。Google TVが安価なのも、検索エンジンやブラウザが無料なのに似て、ハードやプラットフォームをばらまき、利益はあとでソフトの売上から得るという戦略のあらわれだろう。
佐々木氏はさらにテレビに連動して実況や天気を表示するANOBARを持ち出して「くだらない番組でもおもしろい」と、共感性が新たな楽しみであることを提示。そして、まるごと一週間録画型のHDD、SPIDERは、まるごと録画であるがゆえに話題のCMを探せる、CMをエンタテインメント化する、と豪語する。
かつて大河のようであった情報の流れが細分化した現在、そのこまかないろいろを、あるコンテクストに基づいて並べ替えるキュレーターの存在が重要になると佐々木氏は言う。
すでに食べログやTwitterに散見されるキュレーターとはカリスマレビュアーであり、口コミを起こす人である。ソーシャルメディアが情報流路の基盤へと成長していくという終盤の主題はネットをよく使う人間にはなじみのものだろう。リアルの知名度と関係なく、ネットに親和性のあるこの人ならば信用できるという考え方は、今後のメディア環境とおおいに関係がある。
◆シンポジウム「2011年7月アニメ業界地上波デジタル対策」
地上波デジタル対策と言いながら、実際の内容はHDTV対策を語るものだった。地デジ放送に見合う映像をつくるにはHD画質は必須。それを実現するには高価な機材を揃えねばならず、これは予算に直結する。そして大きなデータをどう運ぶかは、制作時間に直結する。つまりHDTV対策は作品のあり方までをも規定する重要なテーマなのだ。
東京工科大学メディア学部メディア学科講師の三上浩司氏が質問役に立ち、プロダクション・アイジーでシステム管理・開発課課長を務める安芸淳一郎氏、アーティストゥリー・メディア所属のアニメーション監督である高木真司氏から知恵を引き出す展開。安芸氏と高木氏は3DCGアニメーション映画『ホッタラケの島』のスタッフであり、三上氏もふたりと過去にも登壇したことがあるために、話はかなり専門的なものとなった。
HD映像制作に必須な機材は
・高性能なPC(場合によってはレンダリングサーバ)
・大容量のストレージ(1TB以上)
・運搬用の大容量メディアまたは高速回線
・HDSDI出力できるビデオカードとHDピクチャモニタ
となる。このほか、業務によってはHD対応のノンリニアシステム、ディスクレコーダ、マスタモニタ、VTRが必要になるという。
PCの性能を示すMIPS(100万命令毎秒)は05年の15,187から09年には107,018と驚異的な伸びを示している。画像サイズも、D1サイズの720×480に対してフルHDの1920×1080は画素数が6倍にもなる。PCやストレージにかかる負荷は大きくなるばかりだ。
こうなると、高くなりすぎたスペックとどう付き合うかが問題になる。『ホッタラケの島』では、フィルムレコーディングテストをして、解像度が1280でもよいと判断した。その作品のルック(見た目の設計)によっては、解像度が最高でなくとも通用するのである。予算と納期にも直結するだけに、こうした見積りをできる立場のスタッフが重要になってくる。
三上氏は「今後、場合によってはステレオ3Dも入ってくるなか、プロダクション内の様々な問題はオープンにしてガイドラインをつくり、視聴者を楽しませる高品位な作品をつくることがアニメ産業の使命」だという。
安芸氏はこれを受け、ステレオ3Dへの対応が整っていない状況に、ディズニーに遅れをとているとの危機感をいだいていると表明。安全面も含めてつくり、届ける方法を模索したいと話した。高木氏も3Dに効果的なカット割り、画面構成、レイアウトを勉強しないといけないと言葉を揃える。
国内有数の制作会社であるプロダクション・アイジーにしてHDTV、3Dといった現在進行形の技術についていくのは決してやさしいことではなく、業界全体にとって大きな課題であるようだ。
(取材・文・写真=後藤勝)
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