警察官、正義と悪、麻薬取引…… 好対照映画から見る現代アメリカ社会
#映画 #洋画
警察官、正義と悪、麻薬取引、社会の底辺で苦闘する人々――。同じような題材を扱いながら、印象は180度異なる映画が2本、この秋相次いで公開される。現代アメリカ社会の苦悩を映す重厚な警察群像劇『クロッシング』と、メキシコから来た超ワイルドな元警官が悪の一味を相手に暴れまくるB級活劇『マチェーテ』の2作品だ。
10月30日公開の『クロッシング』(プレシディオ配給)は、リチャード・ギア、イーサン・ホーク、ドン・チードル、ウェズリー・スナイプスという演技派の豪華俳優陣が紡ぐシリアスな刑事ドラマ。犯罪が多発するニューヨークのブルックリンで、ベテラン警官のエディ(ギア)は引退を1週間後に控え、人生に虚しさを覚えている。家族思いで信心深い麻薬捜査官サル(ホーク)は、身重の妻と5人の子どものために購入したい新居の資金作りに苦労していた。潜入捜査官のタンゴ(チードル)は、上層部から昇進と引き換えに、命の恩人であるギャングのボス(スナイプス)をおとり捜査で逮捕するよう命じられ苦悩する。正義感と現実の間で揺れ動く3人の警官の運命は、ある事件を機に交錯していく。
メガホンを取ったアントワン・フークアは、アカデミー賞受賞作『トレーニング・デイ』をはじめ、『リプレイスメント・キラー』『ティアーズ・オブ・ザ・サン』『ザ・シューター/極大射程』など、警官や軍人を主人公に据えた骨太なドラマやアクション作品で定評ある監督。逃げ場のない状況に追い込まれていく登場人物らの葛藤をサスペンスフルに描く確かな演出に、「自分がこの立場ならどうしよう……」と思わず引き込まれてしまうはず。
続いて11月6日に公開される『マチェーテ』(ソニー・ピクチャーズエンタテインメント配給)は、予告編などを目にして既視感を覚えた映画ファンも多いのでは。それもそのはず、ロバート・ロドリゲス監督が盟友クエンティン・タランティーノと競作した『グラインドハウス』(07)の冒頭で、偽の予告編(実在しない映画の予告編)として自ら制作した『マチェーテ』が流れていたからだ。実は『デスペラード』(95)の制作時から温めていたアイデアだったというが、3年前の偽予告編が世界中で大きな反響を呼び、長編映画の実現を後押しする格好になった。
”マチェーテ”(山刀)と呼ばれるメキシコ連邦捜査官(ダニー・トレホ)。麻薬王トーレス(スティーブン・セガール)の逮捕を目指したが、逆に妻と娘を惨殺され、自らも重傷を負う。3年後、米国テキサス州で日雇いの仕事を探す不法移民になっていたマチェーテは、移民嫌いの上院議員(ロバート・デ・ニーロ)の暗殺をしぶしぶ引き受ける。これがきっかけで、議員と結託するトーレスと麻薬密売組織、国境付近で「移民狩り」を行う自警団を相手に、マチェーテの壮絶な戦いが始まる。
ロドリゲス監督の持ち味である、バカバカしいほどにド派手で過激なバイオレンスシーンとスピーディなストーリー展開は本作でも健在。監督曰く「映画史上最高にすごい顔」のトレホが、悪人どもを山刀でバッサバッサとぶった切り、敵アジトの大爆発を背景にバイクでジャンプして高所から機銃掃射するなど、型破りなヒーローの刺激に満ちた活躍ぶりに、そこまでやるかと呆れながらもつい声援を送りたくなることだろう。女優陣もジェシカ・アルバ、ミシェル・ロドリゲス、リンジー・ローハンと豪華で、ナース服やシスター服でマシンガンをぶっ放す美女など、B級テイストあふれるセクシー要素も盛り沢山だ。
重苦しくも深い余韻が残る『クロッシング』と、痛快で元気が出る『マチェーテ』。好対照の2作品から好みの映画を選ぶのもいいし、見比べて現代のアメリカに思いを馳せるのもまた一興だ。
(文=eiga.com編集スタッフ・高森郁哉)
「クロッシング」作品情報
<http://eiga.com/movie/55371/>
「マチェーテ」作品情報
<http://eiga.com/movie/55720/>
まさか作っちゃうとは。
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