全国各地の気になる工事現場の裏側『モリナガ・ヨウの土木現場に行ってみた!』
#本
全国各地で見かける土木現場。白や黄色のヘルメットをかぶった作業員が、「ドドドド」とか、「ガガガガ」とか、なにやら激しい音を立て、忙しそうに動き回っている。わたしたちのいちばん身近なところで言えば、道路工事や鉄道工事だろうか。
けれど、よく見かけるわりには、フェンスの向こう側で彼らが何をしているのか、一般人にはよく分からない。いわゆる”立ち入り禁止スポット”に入り、素人の目線でイラストを使って土木現場を紹介しているのが、本書『モリナガ・ヨウの土木現場に行ってみた!』だ。
これは、もともと「土木学会誌」(社団法人 土木学会)という業界専門誌の中で、「土木のことを何も知らないモリナガを現場に連れて行って記事を作ろう」とのコンセプトの元、連載が始まった。ルポイラストを得意とするモリナガ氏が描く土木現場は、シンプルで分かりやすい。難しい話は特になく、訪れた現場の中で気になった部分をピックアップし、「へぇーっ」と思った部分に手書きの文字で説明が加えられている。
訪れた現場は、東京の人に身近な新宿駅南口の再開発工事や、JR中央線三鷹駅から立川駅間の地上を走る中央線を高架化する工事、兵庫県豊岡市の円山川・出石川の災害復旧、沖縄県の大保ダム、北海道の稚内市から旭川市をつなぐ幌富バイパス、島根県の島根原子力発電所など、全国各地幅広く訪れている。
中でも注目は、羽田空港の本格的国際化に向け、新たに作られた羽田空港D滑走路の工事現場。まだ埋め立てをしていた頃の様子が、紹介されている。
ところで、「埋立地」という言葉はよく耳にするが、海を一体どうやって埋め立てるんだろう、と改めてよく考えて見ると、イマイチピンとこない。
モリナガ氏も、「ドカドカ砂を海中に投げ込むアバウトな工事を想像していた」とイラストの中でコメントしている。けれど、実際はすさまじく精密なものらしく、区画を決め、GPSを使いながら、船で少しずつ少しずつ場所を移動して、マス目を埋めるように作業を進めていく。
そもそも、羽田沖は昔から「マヨネーズ層」と表現されるほど、ふにゃふにゃな軟弱地盤で、杭を打つことも大変な作業。そこで、「サンド・ドレーン」という工法を使い、砂の入った杭を海底に打ち込み、地盤の水を砂に吸わせ、水が抜けると、地盤が沈下させるのだという。言葉で説明するとちょっと分かりにくいかもしれないが、イラストを見ながらだと想像しやすい。
「土木の面白さは、子どもの頃皆さんが感じていたもの作りの面白さそのものであるとおもいます」と語るモリナガ氏は、砂場で山を作ったり、友達と手でトンネルを掘って、貫通して喜び合う、その延長ではないかと考える。
工事と聞くと、環境問題がどうの、税金の無駄がどうの、とどこか批判的なイメージが伴う。けれど本書では、そういうものは一切なく、非常に楽しげに工事現場をのぞいている様子が伝わってくる。監修者の溝渕氏との、「海洋工事の船の食事はうまい」など、工事現場の裏話や説明も興味をそそる。いつもは通り過ぎていた工事現場を、少し目線を変えて覗いてみてはどうだろうか?
(文=上浦未来)
●モリナガ・ヨウ(もりなが・よう)
1966年生まれ。早稲田大学教育学部地理歴史専修、漫画研究会在籍。ルポイラストを得意とする。立体も年に数体作る。著書に『35分の1スケールの迷宮物語』『東京右往左往』『ワールドタンクミュージアム図鑑』(大日本絵画)、『図録王立科学博物館』(共著・三才ブックス)、『働く車大全集』(アスペクト)、『新幹線と車両基地』『消防車とハイパーレスキュー』(あかね書房)などがある。
●溝渕利明(みぞぶち・としあき)
1959年生まれ。岐阜県出身。名古屋大学大学院工学研究科土木工学専攻修了、博士(工学)。大学卒業後、鹿島建設株式会社に入社、技術研究所勤務。明石海峡大橋海中基礎建設工事など数多くのプロジェクトに参加。1993年から3年間広島支店温井ダムJV工事事務所勤務。2001年に鹿島建設を退社。法政大学に転籍。2004年に教授となる。専門は、コンクリート材料、施行法、非破壊検査技術など。
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