“中国のガロ系”!? 80年代以降を代表するコミック・リーダー ヤン・コン
#アジア・ポップカルチャーNOW!
『AKIRA』『ドラゴンボール』『ドラえもん』……子どもの頃、僕らの心をアツくさせた漫画やアニメが、海の向こうに住むアジアの子どもたちの心にも火をつけていた。今や日本人だけのものではなくなった、ジャパニーズ・ポップカルチャー。その影響を受けて育った、アジアの才能豊かなクリエーターたちを紹介します。
第10回
コミック作家、イラストレーター
Yan Cong(ヤン・コン)
いきなりですが、問題です。以下の中国語の表記に該当するタイトル名を日本語で答えなさい。
(青林工芸舎)
これらは、北京ベースで活動するコミック作家、ヤン・コンが、子どもの頃に夢中になった日本のマンガ作品である。(ちなみに解答は1『幽☆遊☆白書』、2『ドラゴンボール』、3『Dr.スランプ アラレちゃん』、4『らんま1/2』、5『ドラえもん』、6『聖闘士星矢』)。
マンガだけではない。ヤン・コンは、ゲームセンターに通っては、『スノーブラザーズ』やら『ストリートファイター』、『THE KING OF FIGHTERS』などの日本のゲームに夢中になり、その世界に浸り込んだという。
「幼いころから、マンガやアニメゲームなどの日本カルチャーの洗礼を浴びるように受けてきました。だから将来、自分もコミックに関わる仕事をしたいと思うようになったのは、自然な成り行きだったと思います」
彼は今や、中国で、ここ10年の「アンダーグラウンド・コミック」ムーブメントを牽引してきた作家であり、「80後(80年代以降に生まれた若い世代。中国の一人っ子政策の申し子)」を代表するコミック・リーダーだ。しかし、その生活は、かなり地味。
「ここ数年は、外出もほとんどせず、友達とはインターネットでコンタクトを取り合う、というのが、僕の日常です。絵を描いている以外は、もっぱら切手収集にいそしんでいます。だから、コミックと僕の生活の関係は、本当に分ち難いものとなっています。僕のコミックに登場するキャラクターは、自分自身であり、友人であり、飼い猫なんです」
ヤン・コンが描くのは、シュールなキャラクターたちが過ごす、きわめて普通の日常生活。モノクロの作品は、一見、子どもの想像力で描かれたようでもあるが、強いリアリティが感じられる。ちょっと不気味で可愛くもあるヤン・コンの世界だが、同時にこれは、中国の今の若者の現実でもあるのだ。
そんなヤン・コンが今でも惹かれてやまないというのが、かつての青林堂が排出し、またその流れをくむ、いわゆる「ガロ系」の作家たちだ。
「つげ義春さん、根本敬さん、鴨沢祐仁さん、逆柱いみりさん、後藤友香さん……彼らの想像力と、造画における芸術的なセンスには、我を忘れるほど夢中になります」
それにしても、中国で「ガロ」とは……。
「たまたま日本の”アンダーグラウンド”コミックをネットで見たのがきっかけなんです。丸尾末広さんのマンガでした。ラッキーなことに、同じような趣味を持った友人たちがいたので、いろいろな情報を交換し合いました。市場大介さんや後藤友香さん、鴨沢祐仁さんは友達の家で読んだし、つげ義春さんや横山裕一さんは、アマゾン・ジャパンの古本で手に入れました。一度、香港の友人を訪ねたときに、彼が青林堂のすごいコレクションを持っていたんです。それで、根本敬さんや逆柱いみりさん、山田花子さんの作品を知りました。あとはもう、その世界にどっぷりでしたね」
好きが嵩じて、ヤン・コンは友人達と、インディペンデント・コミック『Special Comix』 の出版を始めた。
「3号がやっと出たところです。ゆくゆくは青林工藝社のような出版社になって、自分達のコミックや、『Special Comix』の漫画家たちの作品を発表していきたいと思っています。青林工藝社の方とお話しできたら、と思っています(実際、今、ショート・コミックを創作しているのですが、そのうちどれかを、『アックス』に投稿しようと思っています)。そして、中国と日本のコミック作家たちが、お互いにコミュニケーションを取れるような仕組みを作れたら、本当にうれしい!」
”日中ガロ系コミック交流計画”が、進んでいくことを期待したい。
(取材・文=中西多香[ASHU])
●ヤン・コン(Yan Cong)
コミック作家、イラストレーター。1983年湖北省生まれ。現在北京をベースに活動。ヨーロッパや中国の著名ギャラリーでの展覧会も数多く開催している。ユーモラスで、子供の落書きのような作風で、わたしたちの日常生活や子供の頃の記憶と、シュールリアリスティックなキャラクターの世界を溶け込ませるのに成功している。
Special Thanks to Ann Xiao and Wide Open Space.
●なかにし・たか
アジアのデザイナー、アーティストの日本におけるマネジメント、プロデュースを行なう「ASHU」代表。日本のクリエーターをアジア各国に紹介するプロジェクトにも従事している。著書に『香港特別藝術区』(技術評論社)がある。<http://www.ashu-nk.com >
オンラインTシャツオンデマンド「Tee Party」<http://teeparty.jp/ashu/>
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