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神保哲生×宮台真司 「マル激 TALK ON DEMAND」 第47回

捕鯨問題で報じられない捜査機関の介入と不条理【前編】

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──昨今、なにかと話題に上がる捕鯨問題だが、一連の動きにかんして環境保護団体の行動もマスコミを賑わせている。今回は、グリーンピース職員が鯨肉を持ち出した「鯨肉窃盗事件」における捜査や裁判のあり方を、グリーンピース・ジャパン事務局長の星川淳氏と共に多角的に考察してみたい。まず最初に理不尽だったのは、5万円相当の鯨肉窃盗事件に対し、送り込まれた捜査員が70人を越えるという異常さだろうが、事件や捕鯨のみならず、グリーンピースのあり方やマスコミの報道、そしてNGOや市民活動への司法の介入に問題はなかったのか──。

【今月のゲスト】
星川 淳[グリーンピース・ジャパン事務局長]

神保 今回は「鯨肉窃盗事件」を取り上げます。この事件では、国際環境保護団体・グリーンピースの職員である佐藤潤一さんと鈴木徹さんが、調査捕鯨船団乗組員による鯨肉の横領を告発する目的で、証拠の鯨肉を倉庫から持ち出したために、窃盗などの罪で逮捕されました。そして青森地裁で9月6日、懲役1年・執行猶予3年の有罪判決が出ています。

宮台 予想通りです。裁判では法と正義の乖離が問われていました。船員の横領を告発することは正義にかないますが、倉庫からの鯨肉無断持ち出しは法が禁じます。特捜検察による、小沢一郎や元厚労省局長(現在は復職)村木さんの事件のデッチ上げで、法と正義の乖離についての意識が広がる中での判決だったのが注目の背景です。

 刑訴法248条で、検察に大幅な裁量権が認められます。起訴便宜主義ですね。犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追(起訴)を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。[1]被疑者に意識がないなど訴訟条件を欠く場合、[2]事件が法的罪を構成しない場合、[3]嫌疑不十分な場合、[4]嫌疑があって証拠不十分な場合、[5]嫌疑と証拠があっても処罰の必要がない場合、不起訴にしてよいとされます。

 [1]~[4]までは裁判所が審理の上で無罪とすべきことばかり。[5]をとりわけ起訴猶予と呼びますが、これも裁判所が執行猶予付き判決とすべきもの。起訴法定主義ならざる起訴便宜主義が、刑事訴訟の99・9%以上が有罪となる最大の理由です。裁判を傍聴すれば目撃できますが、判事と検事と弁護士は、3人同じ組み合せか3人のうち同じ2人の組合せで複数の裁判を担当し、また司法修習生時代の同窓や先輩後輩だったりして、私的コネがあります。これも高有罪率の背景です。
 
 起訴されればほぼ100%有罪という実態がある中、法と正義の乖離が浮上してきた。警察や検察が法を隠れ蓑に出鱈目をやっていると推定できる場合、判事が検事との私的コネをはねのけて無罪判決が出せるかが注目されました。急逝された小室直樹先生は田中角栄元総理のロッキード裁判で、国内法の規定がない免責特権を与えた上での嘱託尋問調書が、弁護側反対尋問の機会が剥奪されたまま証拠採用されたことをもって、日本の裁判所の出鱈目が満天下に晒されたと嘆かれました。30年がたち、警察や検察や裁判所の出鱈目は改善されたでしょうか。今回の事件はひとつの結論を出した。つまり何も変わっちゃいないのです。
 
神保 日本は国策として調査捕鯨を行っており、グリーンピースはそれに反対する立場を取っています。今回、グリーンピース職員が倉庫から鯨肉を持ち出した目的は、明らかに横領の告発を目的としていた。にもかかわらず警察は5万円相当の「窃盗事件」に、公安警察を含む70人以上の捜査員を導入し、2人を逮捕した上に、彼らの自宅やグリーンピースの事務所、事件に直接関わっていないグリーンピース職員の自宅も家宅捜索したそうです。こんな大事件にしてしまった以上、有罪にせざるを得なかったのかもしれません。

 今回の事件に対してはいろいろな意見があるでしょうが、こと司法プロセスに入ってからの動きを見る限り、昨今問題になっている警察や検察を含めた「司法の劣化」とも、密接に関係しているように思います。

宮台 今回の判決は、保身に勤しむ売国官僚が、正義の所在を顧慮せず法の恣意的運用を行った結果です。

神保 事件とその裁判から何が見えてくるのか。ゲストは、被告となった2人の所属団体、グリーンピース・ジャパンの事務局長・星川 淳さんです。日本では環境団体に限らず、市民運動をすると公安に目をつけられる。警察のみならず、日本の社会全体に、まだ市民のエンパワーメントという世界的なトレンドに対する、偏見や無理解があるように思います。

星川 青森地検による事情聴取で、僕がまず言われたのは「あんたら、社民党からお金もらっているんでしょ?」の一言でした。検察官さえ、2ちゃんねる程度の知識で動いているんですね。

神保 まず、この事件の簡単なあらましをご説明します。発端は08年1月、調査捕鯨を(国から委託されて)行っている共同船舶株式会社の元船員から「組織的かつ長期にわたり、鯨肉の私的な横流しが行われている」という内部告発があり、グリーンピースが独自の調査を始めました。そして同年4月、それが事実であるとの確証を得て、グリーンピース職員が青森県にある西濃運輸の配送所から、証拠品として共同船舶の船員が自分あてに送った鯨肉を持ち出しました。なぜそこに横流しされた鯨肉があるとわかったのですか?

星川 本人たちの説明によると、調査捕鯨船団が東京に帰港して、荷物を降ろしているところを映像に収めて精査したところ、内部告発者の言う通りに鯨肉が横流しされていくことがわかったとのこと。荷物は荷札番号を入力すれば追跡できるようになっており、これを利用して青森と西日本に鯨肉があることを突き止めたそうです。

神保 2人は鯨肉を配送所から持ち出し、5月に証拠として東京地検に提出しました。ところが6月、グリーンピースに(窃盗と不法侵入の容疑で)強制捜査が入ります。これは予想していましたか?

星川 漠然と予想していましたが、同日に調査捕鯨船の船員は「横領の嫌疑なし」で不起訴されており、グリーンピース職員は逮捕というのはあまりに露骨だと思いました。ただ、この年は洞爺湖サミットの年でした。逮捕は、市民社会全体に対する威嚇の意味があったのだと考えられます。

宮台 08年9月7日の佐藤・鈴木両氏の逮捕直後、星川は「自分も被疑者として青森地検で取り調べを受け、若い検察官に開口一番『NGOの分際で、捜査機関さえ令状がなければできないことをやったのは許せない』と、強い口調で言われた」とコメントしました。検事の発言が爆笑ものです。統治権力たる警察や特捜検察など捜査機関だからこそ、市民よりもはるかに合法的に振る舞うべきことが期待される。神の目から見て僕が法を破った悪人でも、捜査が合法手続きに従っていないと判明したら、直ちに無罪とするか、特捜検察のケースなら公訴権濫用を理由に訴訟手続きを打ち切る。それが近代裁判です。星川さんに暴言を吐く検察官は「市民が”主”、行政官僚が”従”」という近代社会の本義を知らない馬鹿ですね。

最終更新:2010/10/25 15:30
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