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「富士スピードウェイに未だ反省の色なし」2007F1日本GP訴訟経過報告

fsw102001.jpgあの悪夢から3年……。

 10月8日~10日に三重県鈴鹿サーキットにて2010年F1日本グランプリが開催された。想定を超える悪天候により予選は雨天順延したものの、晴天の日曜日に同日予選・決勝が行われ、小林可夢偉選手の大活躍により多いに盛り上がった。

 この3年前、07年9月末に富士スピードウェイが開催したF1日本グランプリの運営はずさん極まりなく、「劣悪な環境の中、長時間のバス待ちを余儀なくされ、精神的苦痛を受けた」として観客109名が富士スピードウェイ(以下、FSW)に対し、損害賠償を求め訴えている。08年8月から丸2年以上に渡って続いているこの裁判の経過について改めて取材した。


 FSWが開催した2007年F1日本グランプリではチケット&ライドシステムと呼ばれる、各アクセスポイントから専用シャトルバスで来場する方式を取り、観客が自家用車や徒歩など、他の交通手段による来場を基本的に禁じていた。

 予選日から各アクセスポイントと会場を結ぶシャトルバスの運行が滞り、数万人の観客が場内に閉じ込められた。決勝日ではシャトルバスの運行は改善されるどころか、さらに悪化。十分な時間をもって各アクセスポイントに到着した観客も、会場内外の大渋滞によりバスが時間通りに到着せず、決勝スタートに間に合わない者も多く出た。

 決勝レース終了後も混乱は続いた。FSWはトヨタ関係車両を優先退場させるため急遽1時間45分もシャトルバスの運行を止め、シャトルバス待ちはますます悪化した。

 バス乗り場ではどこに並んでいいのか分からないほど多数の観客で溢れ、スタッフによる誘導もなく混乱を極めた。運よく行列に並べたとしても足場は悪く、芝生は泥濘化、照明もなく真っ暗な中、観客は雨に打たれ凍えながらいつ来るか知れないシャトルバスを長時間待つことを強いられた。またトイレも圧倒的に不足しており、長蛇の列ができた上に足場は汚物で溢れた。またバス乗り場には食料や飲み物もなく、空腹にも耐えなければならなかった。

fsw102002.jpg

 このように劣悪な環境により精神的・肉体的苦痛を受けたとして、原告はFSWに対して債務不履行に基づく損害賠償請求を行っている。

 各原告は全国各地からFSWへ集まったため、利用した交通機関やアクセスポイントはさまざま。そのため個別性が高く、被害もさまざまであった。そして反論は各原告について個別に行われたため、裁判は難航を極めていた。ようやく一通り陳述書・反論が出揃い、改めて進行のための協議が行われている。

 FSW側はこのシャトルバス渋滞を「想定を超える悪天候のため」としているが、実際には降雨量はほとんどなかった。予選日、決勝日を通して、今年の鈴鹿サーキットでの降雨量に遙かに及ばない。もちろん鈴鹿ではこのような事態は発生していないし、十分な準備を行った08年のFSWの開催でもスムースに運行できている。

 原告の主張をまとめると、以下のとおりである。

・この原因はひとえにFSWの準備不足によるもので、特にバスルート計画のずさんさ、ボトルネックをまったく考慮していない場内バスルート計画により場内通路にて大渋滞を招いた。その結果渋滞は場外にまで達し、ますます渋滞を悪化させる悪循環に陥った。

・雨天に対する計画・準備もまったくなされてなかった。

 FSWが開示した資料によると、雨の想定はしないことになっており、そのためそもそも検討すら行っていない。また陥没が起こった場内バスルートはバスが通行するために十分な強度をもった設計・施工が行われたという資料は存在しなかった。つまり漫然と従来あった管理用通路を使用し、簡易舗装しかされてなかっためにバスの重量により路面崩壊したと考えられる。さらにバスルートはバスが往復できる十分な幅員をもっておらず、1車線分しかなかった。そのためバスを交互交通させることとなり、渋滞を作り出していた。

fsw102003.jpg陥没した道路。

 この他、実地検証不足、ピーク時間設計ミス、連絡体制の不備、バス待機場の不適切な設定、関係者専用ルートの未確保、スタッフの教育不足などずさんな計画によるものに加え、当日も臨機応変な対応を怠った。

 バス待ちが悪化し、多数の観客が苦情を寄せたにも関わらず一切対応をしていない。適切な情報を出すこともなく、状況を放置した。軟弱な簡易舗装の場内バスルートは予選日午前から陥没、バスの通行に支障をきたしたがこの発見、対応が遅れた。そのため予選終了後にバスを止めて緊急工事をするなど後手後手の対応によりバス待ちに拍車をかけた。この情報を観客に知らせることもなく、観客を漫然とバス乗り場へと誘導したためバス乗り場は人であふれ、空前絶後の大混乱を引き起こした。

 予選日にこのような状況に陥ったにも関わらず、決勝日に対しての対応を一切しなかった。さらに来場するであろう観客に対して、適切な情報を提供もしていない。決勝日は行きのバスから大混乱、FSW近くで大渋滞によりバスが動かなくなり、刻々と迫る決勝レース開始時間に、まだ距離があるというのにバスを降り、歩いた観客も多数いた。しかしそれでもレース開始時間に間に合わない観客も多かった。

 このような状況で決勝レース後のバス待ちは改善されるどころか、さらに悪化していった。特に被告関係者の車両、いわゆるVIP車両を優先させるために1時間45分に渡ってバスの運行を止めたことは混乱に拍車をかけた。劣悪な環境下での長時間のバス待ちにより、観客の疲労と怒りは最高潮に達し、殺気立った場内では現場放棄、逃げ出すスタッフまで出たほどであった。

 原告の主張に対し被告は、「知らない」「(原告の主張は)信用ならない」として全面的に争っている。

 裁判は原告それぞれの事情に由来する、個別性の高い被害をどう認定するかに焦点が絞られてきている。原告によって劣悪な環境下でのバス待ちが1時間から4時間以上とばらつきがあり、またこの大混乱で泣く泣く決勝日の観戦を諦めたものもいて、どう解釈するかが今後争点となりそうだ。

 改めてこの裁判をみると、FSWがコストを優先させるあまり雨天に対する準備、場内バスルートの整備、スタッフの数と教育、トイレの配置を怠ったことが浮き彫りになってきている。FSWはすでにメディアを通して謝罪をしているが、裁判では全面的に争っており、反省の色は伺えない。

 07年FSWで、そして今年鈴鹿サーキットで大雨の中観戦したF1ファンに聞いてみた。

 「雨? そりゃ土砂降りでしたよ。でも鈴鹿は歩いて駅までいけますし、近隣の駐車場に停めた人はそこまで歩けば車に入れる。私の場合は早めにタクシーに乗ったので白子駅までスムースに帰れました。FSWと違って、交通の選択の自由があるんです。」

 「FSWの決勝レースは確かに雨でしたけど、バス待ちの混乱は予選日から始まっていましたから、雨は関係なく破綻してました。」

 「鈴鹿サーキットはまったくFSWと違いますね。鈴鹿サーキットはスタッフが温かく迎えてくれました。レースが終わってからオフィシャルがメインストレートをパレードして観客に手を振るんです。その姿が本当に楽しそうで、F1が好きなんだなというのが伝わってきました。それにサーキットを退場するときにスタッフがチェッカーフラッグをふって観客を見送ってくれるんです。また来年来たい、と思わせますよね。FSWはただやっているという姿勢で、まったく気持ちがありませんでした。」

 FSWは08年をもってF1開催から撤退、親会社トヨタも09年シーズン後F1から撤退している。09年以降、日本グランプリは鈴鹿サーキットで再び開催されている。

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最終更新:2010/10/21 11:43
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