ビル・ゲイツも予見する、オープンエデュケーション化が今アツい!
#佐々木俊尚 #プレミアサイゾー
にいながら受けられるようになる日が来るのかも。
アメリカで最近注目を集めているウェブサイト「カーンアカデミー」。30過ぎの元ファンドマネージャーが自分で作成した授業ビデオを無料公開するこのサイトが、世界の”教育”を変える可能性を持っているという──。
「カーンアカデミー」というウェブサイトが、今アメリカの教育界で非常に注目を集めている。
これはサルマン・カーンというインド系アメリカ人の男性が、自分で作成した授業のビデオを無料で公開しているサイトだ。そしてこの授業内容が、ものすごい反響を呼んでいる。カーンアカデミーで過去に公開されたビデオは1600本以上もあり、1日の平均視聴回数は驚くべきことに今や7万回。これはハーバードとスタンフォードの学生を合わせた数の倍近くもある。
2006年にカーンが授業ビデオを一般公開するようになってから、これまでに世界中から1800万のページビューがある。最も多いのはアメリカ、次いでカナダ、イギリス、オーストラリア、インド。授業は英語で行われているので英語圏に集中しているのは仕方ないが、授業を見た生徒の数はすでに20万人に達しているという。
彼のビデオの特徴は、非常に「ローテク」であること。斬新な映像やコンピューターグラフィクスなどの仕掛けは一切ない。会話中心の学習ビデオで、カーンの顔さえ一度も表示されない。飾り気のない手書きの文字と図表が、順を追って電子黒板の上に表示されるだけ。あとはカーンが口頭でその内容を説明していく。しゃべる内容も実に素っ気ない。エンタテインメント性は皆無だ。でも彼は、わずか15分のビデオで奇跡のように物事の本質を切り出して見せ、わかりやすく生徒を引き込んでしまう技術に長けている。こういう人を天才というのだろう。
授業のカリキュラムは、細分化されている。例えば微分積分は191のパートに分けられ、さらに微分積分を学ぶ前の準備段階の授業も32に分けられている。この切り分け方も実に絶妙で、順を追うごとに微分積分の考え方がすっと頭に入ってくるようになる。
33歳のカーンがこんな授業をやるようになったのは、偶然の産物だった。彼はニューオーリンズで生まれ育ち、ハーバードでMBAを取得し、さらにMITで数学と電気工学、コンピューターサイエンスの3つの学位を取った秀才。大学を出た後に小さなヘッジファンドに入社し、そこでファンドマネージャーとして腕を鳴らすようになる。
ボストンでそういう生活をしていたカーンは04年の夏、故郷に住む従姉妹のナディアから「算数の授業がよくわからない」という相談を受ける。「じゃあ教えてあげるよ」ということになったが、ボストンとニューオーリンズは遠く離れているので、手取り足取り教えるわけにはいかない。そこでノートの画面を共有できるヤフーの子ども向けのアプリケーションを使い、電話で話しながら、「遠隔授業」みたいなことをやってみたのだった。
これがうまくいき、今度はナディアの兄弟のアリとアーマンにも教えることになる。教え方のうまさが親戚や知人友人にも知れ渡って、遠隔授業の「生徒」はだんだん増えていく。でもそうはいってもカーンには仕事があるし、生徒たちとのスケジュール調整は大変だ。そこで彼は授業をビデオに撮って、それをユーチューブにアップロードし、生徒たちが好きな時間に自分のペースで授業を受けられるようにした。これが人々の目に触れるようになり、人気を集め、そうして「カーンアカデミー」へと発展していったのだった。
彼はヘッジファンドを辞めた後、退職金を元手にシリコンバレーを拠点にして自分で小さなファンドを設立するが、折からのリーマンショックの影響で投資ビジネスはうまくいかなかった。そこで資金を取り崩してシリコンバレーのはずれに小さな家を購入し、スタンフォード大学で研究者をやっている妻と子どもと一緒にひっそりと暮らすようになる。
彼が授業のビデオを作成しているのは、ウォークインクローゼットを改造し、数百ドル相当のビデオ機器と本棚が所狭しと並んだスペース。彼はカーンアカデミーのサイト上で「自分には美しい妻と、楽しい息子と、2台のホンダの車がある。素敵な家も持っている。だから授業のビデオを有料にしたり、広告で儲けるつもりはないよ」と宣言している。その代わりに寄付をPay Palで募っていて、それなりの収入になっているようだ。
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