アウトローが織り成すドラマ 東映仁侠映画を徹底解明『仁義なき映画列伝』
#本
1950年代は映画産業が非常に盛んであった。テレビを持っている人も少なかったし、なにより戦時中、規制された娯楽への渇望を映画に求めた。隆盛もつかの間、映画館の数(スクリーン数)は、60年の7,457スクリ-ンをピークに、減少の一途をたどる。テレビを購入する人が増えてきたためだ。70年には3,246スクリーンと、10年前の半数以下になってしまった。60年代、東宝が「ゴシラ」や黒澤映画を、松竹が松竹ヌーベルバーグなどを打ち出してきたのに対し、勧善懲悪の時代劇を中心に製作していた東映は行き詰った。そこで、時代劇に代わる新たなジャンルとして「東映仁侠映画」という路線を打ち出したのである。
『仁義なき映画列伝』(鹿砦社)は、映画ジャーナリストの大高宏雄氏が、東映の任侠・やくざ映画を網羅し、厳選した100作品を紹介した本だ。60年代前半から80年代後半の東映仁侠映画黄金期、『網走番外地』『仁義なき戦い』『極道の妻たち』と有名作品も散見されるが、その多くは今ではあまり知られていない作品だ。100作品すべてに解説と100点満点の採点付き、これがなかなかの辛口で駄作には容赦がない。巻頭には故・深作欣二監督(「仁義なき戦い」『人斬り与太』など)の亡くなる直前のロングインタビューも掲載されていて、ファンならずとも興味を惹かれる。
大高氏は東映任侠映画を『仁義なき戦い』以前・以後と分けて定義している。73年に発表されたこの作品は、それまでの時代がかったヤクザものとは打って変わって、実際に起きた現代ヤクザの抗争を描き、新風を巻き起こした。『仁義なき戦い』以降は、この”実録路線”が多数を占める。『仁義なき戦い』という作品が、義理と人情が形作る正義と悪の図式をひっくり返し、生々しい現実の世界が描かれるようになった。
大高氏は言う。
「大衆訴求力(大衆=一般の人々へ訴えかける力)。映画においてこれが特に強調されなければならないのは、映画が大衆娯楽と大きな関わりを持っているからに他ならない。(中略)東映ヤクザ映画は、その大衆訴求力を一作品一作品にではなく、路線の中に組み込むことができた。これは日本映画の戦前から続く大きな流れの中で、極めて特殊な事態であったと言わねばならない」(本文より)
すごいと思うのは、ハズレも多いであろうヤクザ映画を延々と観続けた著者の気力・胆力である。著者のヤクザ映画に対する並々ならぬ愛が感じられる一冊だ。気迫のこもった批評を読むと、普段手に取らないようなジャンルの映画も不思議と観てみたくなってくるのである。
(文=平野遼)
・大高宏雄(おおたか・ひろお)
1954年浜松市生まれ。明治大学文学部仏文科卒業後、執筆活動に入る。キネマ旬報『大高宏雄のファイト・シネクラブ』、毎日新聞『チャートの裏側』等を連載中。毎年一回、日本映画のイベント『日本映画プロフェッショナル大賞』(略称「日プロ大賞」)を主宰。今年で16回目を数えた。著書に『ミニシアター的!』『日本映画 逆転のシナリオ』(WAVE出版)等。近刊予定に『日プロ大賞16年史(仮)』(愛育社)。<http://nichi-pro.filmcity.jp/>
これが日本のソウルムービーです。
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