スタローンが立ち上げた”筋肉共和国”男たちの祭典『エクスペンダブルズ』
#映画 #洋画 #パンドラ映画館
バーニー(シルベスター・スタローン)をボスとする傭兵集団『エクスペンダブルズ』。
R15だけど、『ランボー 最後の戦場』に比べると残酷描写は控えめ。
(c) 2010 ALTA VISTA PRODUCTIONS, INC
吠えろ、肉! ロケットランチャーのごとく解き放て、己の拳を! 血と汗とアドレナリンをジェット噴射して、あの空の向こうまで飛んでいけ! アクション俳優の第一人者シルベスター・スタローンのもとに、”梁山泊”の英傑たちのように筋肉バカたちが続々と馳せ参じた。『トランスポーター』(02)のジェイソン・ステイサム、『HERO』(02)のジェット・リー、『ロッキー4/炎の友情』(85)のドルフ・ラングレン、総合格闘技アルティメット大会のヘビー級王者ランディ・クートゥア、元プロフットボウラーのテリー・クルーズ。さらに『レスラー』(08)で復活を遂げたミッキー・ローク、『ダイ・ハード』(88)のブルース・ウィリス、スタローンとは商売敵だったアーノルド・シュワルツェネッガー州知事まで。ハリウッド史上類を見ない”筋肉共和国”が誕生した。彼らが集まったのには大きな目的がある。近年の映画界を席巻するコンピューターグラフィックスの脅威と戦うためだ。彼らの名前は『エクスペンダブルズ』(消耗品軍団)。10月16日、いよいよ筋肉バカ軍団が日本に上陸する。
スタローンが新旧アクション俳優たちを大同団結させるという超ヘビー級なこの企画を耳にしたときは小躍りするのと同時に、「完成するのか? 途中で空中分解するんじゃないのか?」という不安がよぎった。しかし、今年64歳になるスタローンの人徳、人望の前ではそんなケチな心配は無用だった。筋肉バカたちの結束は傍が思うよりも、ずっと固かったのだ。生身のアクションのすごさを、アクション俳優の生き様をスクリーンに叩き付けてやれ。安易なCG映画がはびこる映画界に、彼らは”筋肉バカ、ここにありき”という熱いクサビをビシッと打ち込んでみせた。
ご存知のとおり、スタローンはそれまでポルノ映画しか主演作がない無名俳優でありながら、29歳のときに3日間で書き上げた『ロッキー』(76)の脚本を「主演はオレだ」を条件に映画会社に売り込んで見事にアメリカンドリームを体現した男。『ロッキー』はアカデミー賞作品賞を受賞するなど大成功を収めたが、その後はゴールデンラズベリー賞13年連続ノミネート&20世紀最低主演男優賞受賞という前人未到の怪挙を達成するわ、前夫人ブリジット・ニールセンからは高額の慰謝料をふんだくられるわ、『ランボー3/怒りのアフガン』(88)は冷戦終結に水を差すと大バッシングを浴びるわ、『ロッキー・ザ・ファイナル』(06)のプロモーションのために入国したオーストラリアではステロイド所持で起訴されるわ、実に起伏の多い人生を歩んできた。だが生存競争が激しく、アクション俳優をそれこそ”消耗品”のように扱うハリウッドで35年間にわたってサバイバルしてきたスタローンを、現役バリバリのステイサムも東洋からの来客ジェット・リーも、レスリングのやりすぎで耳がギョウザ状態になっているランディ・クートゥアも、み~んなリスペクトしてやまない。俳優としての限界を知り、政界に転職したシュワルツェネッガーにしてもそれは同じ。小難しい文芸路線に走ることなく、どこまでもマッチョ街道を突き進む”大根役者”スタローンのことが大好きなのだ。
豪華キャストでいえば、すでにスタローンはジャッキー・チェン、ウーピー・ゴールドバーグとは共演済み。ただし、これは『アラン・スミシー・フィルム』(98)という日本未公開のトホホ系業界コメディ。スタローンは本人役でジャッキー、ウーピーと共に劇中劇『NYトリオコップ』でショットガンと寒々しい空気をぶっ放していた。90年代のスタローンは度々コメディに挑戦しては、滑りまくっていた。ところが、どーだ。本作ではシュワルツェネッガー、ブルース・ウィリスとのアクション界BIG3夢の共演シーンで大いに楽屋ネタで笑わせてくれるのではないか。「オレにはアクション映画しかねーよ」というスタローンの開き直りの美学がステイサムのおでこ以上に輝いている。ビバ、筋肉!!
ドルフ・ラングレンを引き連れて来日した
シルベスター・スタローン。「大作への出演は
『ロッキー4』以来。スタローンには感謝してる」
とドルフはコメント。
『エクスペンダブルズ』のストーリーは単純明快だ。一般市民はもちろん、米国政府も手を出せないヤバい紛争地域が、バーニー(スタローン)率いる傭兵集団”エクスペンダブルズ”の任務先。彼らは危険な場所で体を張ることでしか生きていけない。成功時の報酬は高額だが、あの世逝きになっても人知れず消えていくだけ。ソマリアの海賊どもを皆殺しにしたのも束の間、バーニーたちに新しい仕事が届く。麻薬の栽培で儲けている南米の島国を牛耳る軍事政権の独裁者を抹殺せよと。鳥類研究家に扮したバーニーは片腕のクリスマス(ジェイソン・ステイサム)を伴って偵察のために孤島に潜入するが、島の警備兵たちは筋肉ムキムキのバーニーを鳥類研究家だとは信じず(当たり前だよ)、危機一髪のところをクリスマスが桟橋を大爆破して脱出する。偵察どころか、相手の警戒心を強めただけ。仕事内容はかなり荒っぽいよ。
一度はケチのついた仕事だが、バーニーは島で出会った女サンドラ(ジゼル・イティエ)のことが忘れられない。自分の生まれ育った島を守るために「一緒に逃げよう」というバーニーの申し出を断ったタフな女。そんな女・サンドラにバーニーは勝手に惚れ込んでしまい、政府軍に捕らわれたサンドラを救出するために、バーニーは危険を冒して島へ再び向かう。バーニーをひとりで向かわせるわけにも行かず、クリスマスにマーシャルアーツの達人・ヤン(ジェット・リー)たち仲間も同行するはめに。綿密な作戦なんかもちろんなし。鍛え上げた自分の肉体を信じて、敵の本拠地を強襲するのみ。百姓娘をお姫さまと思い込んで、風車小屋に突撃するドン・キホーテと同じだね。筋肉の鎧の下には、男たちの小中学生レベルのピュアハートが隠されていたのだった。筋肉バカたちのなけなしの純情ぶりに、思わず鼻の奥がツーン。
クライマックスは、敵軍側の元WWE人気レスラー”ストーン・コールド”スティーブ・オースティンも加わって、マッチョたちの大饗宴。歌えよ、筋肉! 踊れや、筋肉! 肉と肉がぶつかり合い、骨と骨とが軋む合間を縫うように銃弾が飛び交い、爆風が吹き荒れる。スタローンは知っている、60歳を過ぎながらボクサー体型に絞り込んだ『ロッキー・ザ・ファイナル』や半年間にわたってミャンマーとの国境近くのタイのジャングルでロケ撮影を続けた『ランボー 最後の戦場』(08)のように、己の肉体を限界まで追い込むことで初めて観客たちはスクリーンの中の自分に感情移入してくれることを。
9月に来日した際にスタローンは『エクスペンダブルズ』の続編が来年3月にクランクインすると語った。今回はスケジュールが合わずに見送られた”筋肉男爵”ジャン・クロード・ヴァンダムの出演もあるのか。米国の”Vシネ・キング”スティーヴン・セガールの出演はどうなのか。スタローンは筋肉バカ軍団をさらに増強する目論みのようだが、はたしてCG映画の世界制覇にどこまで逆らうことができるのだろうか。無謀であることを承知で老兵スタローンは闘い続ける。それは、最後の最後まで闘う姿を見せることがスタローンのアイデンティティーだからだ。
(文=長野辰次)
『エクスペンダブルズ』
監督/シルベスター・スタローン 出演/シルベスター・スタローン、ジェイソン・ステイサム、ジェット・リー、ドルフ・ラングレン、エリック・ロバーツ、ランディ・クートゥア、スティーブ・オースティン、デヴィッド・ザヤス、ジゼル・イティエ、カリスマ・カーペンター、テリー・クルーズ、ミッキー・ローク、ブルース・ウィリス、アーノルド・シュワルツェネッガー 配給/松竹 10月16日(土)より全国ロードショー R15 <www.expendables.jp>
筋肉バカ一代。
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