「イソジン」は風邪予防にならない!? 意外と知らない世界の”うがい”事情
#へんな社会学
世の中のへんなものをこよなく愛するのり・たまみの、意外と知らないちょっとへんな社会学。
私たちは子どもの頃から、外から帰ったらちゃんとうがいをするよう、大人たちから口をすっぱく言われてきました。でも実はこの習慣、日本だけのものなんです。海外でも、歯を磨いた後や口臭予防などのために経口洗浄液で口を「すすぐ」ことはありますが、のどまで水を落として「ガラガラ、ペーッ」とやる行為は、日本独自の風習だそうです。日本以外の国では「はしたない行為」とされており、過去にも現在にも全く行う風習はありません。
「うがい」という言葉の起源は「鵜飼い」だそうです。そう、あの「鵜」を使って魚を捕る特殊な技法です。いったん魚を飲み込んで、その後吐き出す様子が似ていることから「うがい」と呼ばれるようになりました。「鵜飼い」の記録は西暦600年の文献にあるのですが、「うがい」という言葉が出てくるのはずっと後のことで、1444年に作られた国語辞典「下学集」あたりからです。なので「うがい」は、せいぜいここ650年くらいの風習なのかもしれません。
昔から「うがいは風邪予防になる」と言われていましたが、実はちゃんと検証されていませんでした。2002年~03年にかけて、京都大学で「本当に<うがいは風邪予防になるのか>」という研究が行われましたが、研究の謳い文句は「世界初のうがいによる風邪予防効果の無作為割付研究」。”世界初”ということに驚いてしまいますが、ちょっと意外な結果が当時、話題になりました。
この実験、全国からボランティア387名を募り、「何もしない」「水でうがい」「ヨード液でうがい」の3グループにくじ引きで分けて、2カ月間にわたって振り分けられたうがい行為を行なってもらい、その人たちが「風邪をひいたか、ひかないか」を調べるというシンプルなもの。結果は風邪をひいた人の率で発表され、「何もしない人」は100人中26.4人、「水うがい」をしていた人は17人、「ヨード液うがい」していた人は23.6人だったそうです。「何もしない人」と比べて「水うがいをしていた人」の風邪の発症率は4割も減少しました。
よかった! 長年信じてきた「うがい」の効用が証明されて! もし”世界初”の遅すぎた研究で「効果無し」と言われたら、日本人650年の「うがいの歴史」が全否定されてまうわけですからね。でも、意外なのは「ヨード液うがい」の人たち。「ヨード液」は一般には「イソジン」などが有名で、薬局でもたくさん売っています。
一見すると、「何もしない人」よりはちょっとはマシなようですが、実は「ヨード液」を入れない「水うがい」の方が風邪をひかないみたいです。ヨード液は殺菌作用が強いので、のどの正常細胞を傷つけたり、のどをいい状態に保ってくれている常在細菌を壊してしまい、かえって風邪ウィルスを侵入しやすくしている可能性があるそうです。
筆者は普段から、風邪予防やインフルエンザ対策に携帯のどスプレーを持ち歩いているので、この京都大学の研究結果を読んで愕然としてしました。
長年続けてきたヨード液殺菌による風邪予防を信じたい気もするし、今度から「水うがい」だけにしようか迷ったり……。「良かったことが悪とされ」「悪いとされてたことが実は良い」など、健康常識がどんどん変わっていく世の中ですから、何を信じていいのか分からなくなりますね。
このように、「うがい」は日本独自のもの。同じく「マスク」も日本独特の風習としてよく紹介されますが、あれは公共の場所であんなマスクしている人はいない、というだけで「マスク」という物体そのものは海外にもあります。海外の人は普段ほとんどマスクを使わないので、インフルエンザ流行期などに日本を訪れた外国人は大勢の人がマスクしてる姿見て「何事か?」「伝染病が大流行?」など非常にビックリするそうです。
それに比べて、「うがい」はもっとマイナー。そんな風習はどこの国にも無いので、あの「喉まで水分を入れてガラガラ、ぺーッ」と吐き出す光景を見て、びっくりするそうです。でも、はしたないなんて思われようとも、風邪をひかないのは大事なことです。「水うがいで風邪減少」は確かなようですから、「世界でも日本人だけ風邪を4割ひかなくする技を持っている」とちょっと心の中で自慢してもいいかもしれませんね。
(文=のり・たまみ)
●のり・たまみ
世界中の「へんなもの」をこよなく愛する夫婦合体ライター。日本のみならず、世界中の政治の仕組みや法律などをこよなく偏愛している。主な著書に『へんなほうりつ』(扶桑社)、『日本一へんな地図帳』(白夜書房)、『へんな国会』(ポプラ社)、『へんな婚活』(北辰堂出版)などがある。
効いてる気はするのに。
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