総部数2億冊は劇場版あっての快挙──『ONE PIECE』大ヒットで本当に”儲けた”のは誰だ!?
──『ONE PIECE』の勢いが止まらない。「週刊少年ジャンプ」の看板マンガたる同作だが、今やゲーセンの景品からアパレルとのコラボ、おっぱいマウスパッドまで、広くライツビジネスを行い、その勢いは増し続けている。果たして、このバブルで最も笑ったのは誰なのか? この盛り上がりはいつまで続くのか?
ッパーのカモフラ柄パーカーが展開され
ている。
娯楽志向のコンテンツ産業が軒並み不況のあおりを受ける中、「もはや市場に金を落とすのはアイドルヲタとアニメヲタぐらいだ」との声もあながち冗談ではなくなり始めた昨今。オタクの購買力に頼るビジネスの基本は、作品のキャラクターを商品化する版権商法だが、中でもキャラクタービジネスといえば、ここ最近の『ONE PIECE』(集英社)の一連の動きは見逃しようもない。
もはやストーリーを説明するまでもないだろうこの原作マンガは、09年11月に発売された56巻から4巻連続で初版部数の国内出版記録を更新し続け、10年8月4日発売の最新刊59巻では320万部となった。国内累計発行部数は2億部に迫り、今や『ONE PIECE』は文句なしの「日本一売れているマンガ」である。
この破竹の勢いにあやかろうとする企業などとの提携も目立ち、今年5月には大手旅行会社H.I.Sとのコラボキャンペーンを実施、7月から8月にかけては新交通・ゆりかもめ車内アナウンスを同作のキャラがジャックし、同月、東京は神田神保町が街を挙げて「神保町 ONE PIECE カーニバル」を16日間開催、10万人が街に押しかけた。版元を同じくする「メンズノンノ」(10年1月号)や、「日経エンタテインメント!」(日経BP社/同8月号)の表紙をルフィが飾って話題ともなった。
グッズ展開においては、子ども向けの多彩なおもちゃや、チョッパーら人気キャラの弁当箱などの日用品や文具、一般層にも受けがいいご当地もののストラップなどの各種グッズのほか、大きいお友達向けとして古くは女性キャラの抱き枕、果てはおっぱいマウスパッドや、衣装が着脱可能で乳首まで作り込まれていると話題の公式フィギュアまで発売され、ページ下の写真は氷山のほんの一角でしかないほどのラインナップになっている。まさにこの状況は「『ONE PIECE』バブル」とでも言うしかないだろう。この派手な展開の舞台裏は、どうなっているのだろうか?
「実は『ONE PIECE』は、ライツ(版権)ビジネスとしては、それほど特殊なことをしているわけではないでしょう」と推測するのは、『コブラ』などで知られるマンガ家・寺沢武一の著作権管理やエージェント業務全般を手掛ける(株)エイガアルライツの取締役・古瀬学さんだ。
「マンガは、最初から編集部や広告代理店の誰かがプロデューサーとなってメディアミックスを前提に動いている場合を除き、作品人気の後追いでマルチメディア展開を含む二次利用が企画されるパターンが普通です。そのほうが当然原作関係者側に入ってくるお金も大きい。『ONE PIECE』の展開にも、原作の版元・集英社やアニメ制作の東映アニメーション、製作・放送のフジテレビだけでなく大手広告代理店のADKが絡んでいますが、おそらくは『ジャンプ』編集部主導で後からチームを組んだはず。業界のセオリー通り、編集者が支えながら丁寧に作品を構築してきた結果でしょう。ケースバイケースですが、例えばフィギュアであれば定価の5〜10%程度、DVDは大体1・5%を著作権料として支払われる。『ONE PIECE』グッズはアニメ版からの三次利用が多いようですが、その場合はそこから、代理店が手数料を引き、東映、フジ、集英社がそれぞれ取り分を受け取り、最後に尾田栄一郎先生に渡る」 (同)
しかし特別なこともしてないのに、ここまでライツビジネスの展開が順風満帆とは、一体どこに秘密があったのだろうか。
「『ONE PIECE』は子どもから30代まで広くターゲットにできる、強いマンガです。長期連載で停滞している個所もあるけど、それでも読者を付き合わせる瞬発力が要所要所にある。それは”友情”や”泣かせ”で、『週刊少年ジャンプ』の王道を繰り返しているだけともいえるけれど、メインのみならず脇を固めるキャラたちもきちんと立っていて台詞も面白い。だから商品化も狙いやすく、結果として成功にもつながっているのでは」(同)
だが、昨年から今に至るまでの異様な盛り上がりは、作品が人気というだけで説明できるものとは思えないが……。
「去年の劇場版アニメの公開は大きいテコ入れだったでしょうね。尾田先生が製作総指揮を行い、先着150万人に設定画などを収めた『ONE PIECE 巻零』配布という話題作りで、知ってはいたけれど今まで作品に触れてこなかった層も掘り起こして、原作を読んだことがある人間にもリテンションを強烈にかけた。これまでの9作の劇場版で少しずつ落ちていた動員や興行収入を引き上げただけではなく、劇場版オリジナルの二次展開をあらかじめ視野に入れていたはず。グッズや広告提携はその前後から爆発的に増加しています」と古瀬さんは説明する。
前述の、09年12月公開の劇場版アニメ『ONE PIECE FILM STRONG WORLD』は、前売り券・動員数・興収などで多くの記録を叩き出し、最終興収は前作の5倍超の48億円と、マンガ原作のアニメ映画として歴代最高記録を打ち立て、社会現象となった。そして同時期に、公開時点の既刊56巻すべてが12月21日付のオリコン”本”ランキングコミック部門で上位200以内に食い込んだことからも、劇場版から新規の読者を獲得したことがわかる。今年8月に発売されたDVD・BDも、自らの売り上げ記録を更新した。
「メディア展開で原作人気が跳ね上がる例もなくはないですが、『ONE PIECE』の場合は中でも大成功例です。原作とアニメ、そして二次三次利用サイドの思惑をきちんと統制しながら進められたからだと思います。やはり作品力やリリースのタイミング、センセーショナルな動きにした仕掛けの勝利」(同)
結局最後は地道な努力とタイミングと少しの運がものを言うということなのだろうが、今や出せば売れる『ONE PIECE』関連商品、集英社は左うちわで笑いが止まらないのでは?
「窓口業務をやっている人間から言わせると、やはり集英社の儲けは相当なものでしょう。とはいえ集英社は、例えば小学館と比べて本業回帰型というか、彼らは最終的にはコミックが売れればいいと思っているはず。そして実際に原作もよく売れているから、相乗効果として非常にうまくいってますよ」(同)
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