『後ろ指さされない刺青は刺青じゃない』 ”社会派”彫り師がタトゥーブームを斬る!
#インタビュー #タトゥー
彫り物が任侠の世界のトレードマークだった時代は今や昔。現在、タトゥーはファッションの一部として若者たちの間に広く浸透している。
しかしその一方で、温泉施設やプールなどでは「タトゥー・刺青お断り」という場合が多い。さらに神戸市では、タトゥーや刺青を入れた海水浴客の海水浴場への入場を規制する条例を来年度より導入することを検討している。また最近では、無資格での医療行為に当たるとして、明石市の彫り師の男が検挙される事件も起きている。
タトゥー愛好者が増加する一方、それを取り巻く行政や社会との溝は深まりつつあるようにも見える。そこで、『タトゥー・セラピー』(東京キララ社)の著者で彫り師のウダPAOマサアキ氏に、現代日本におけるタトゥーのあり方などを聞いた。
―――そもそも、彫り師になるに至ったきっかけを教えてください。
「もともとBMXのプロライダーだったんですが、ある海外の自転車メーカーにスポンサーについてもらいたくて、そのメーカーのロゴを自分で彫ったのがタトゥーとの出会いなんです。そのときは、コンビニで墨汁を買ってきて、木綿針で彫りました。完成したタトゥーを写真に撮って下手な英文で書いた手紙に同封しメーカーに送ったんですが、返事一つこなかったですね(笑)。下心でタトゥーをしてはいけないんだなと実感しましたよ。でもこれがきっかけで、BMXよりタトゥーの方に興味が芽生えてきて。中古で見つけたタトゥーマシンを買って独学で勉強しはじめて、気がついたら彫り師になっていました」
――かつてないタトゥーブームですが、彫り師としてはいかがですか?
「彫り師を生業にする者としては喜ぶべきなんでしょうが、とにかくアクセサリーでも買うような感覚で気軽に彫っちゃう人が多すぎますね。うちにもよく来るんですよ。『好きなアーティストと同じタトゥーを彫りたい』なんていうお客がね。中には『海外ブランドのロゴを彫りたい』なんてのもいて……。『お前のスポンサーなのかよ?』と(笑)。うちでは彫る前には必ずカウンセリングをしているんです。10分で終わるときもあるし、2時間続くこともありますが、なぜ彫りたいのか、今後どうしたいのかを聞いています。そこで目的や覚悟が見えない相手には彫らない。ワンポイントのものならまだしも、基本的にタトゥーは消せない。彫ってしまった刺青には嘘はつけない。ブームに乗ってやるものではないですから」
――タトゥーに対する行政や社会の対応についてどう思われますか?
「タトゥー愛好者の中には今の日本の社会環境に不満がある人も多いですが、私ははっきり言って、今のままでいいと思います。タトゥーを理由にプールや温泉で入場を断られて文句を言う奴がいますが、だったらタトゥーなんか最初から入れるなっていう話ですよ。タトゥーって最近ファッション化しすぎてしまいましたが、単に美しいとかカッコいいだけの世界ではない。昔からアウトローたちが入れてきたように、下世話で毒のある世界。そんな社会からはつまはじきにされる彫り物を、自分の生き方を貫く覚悟を彫っていたわけで。それは現代のタトゥーでも変わらないと思うんですよ。だから、ある種の後ろめたさが感じられなくなったら、タトゥーなんて入れる意味はなくなる。プールに入れなかったり、公務員になれなかったりする可能性は、タトゥーを入れるときにすでに承知していたはず。それも覚悟でタトゥーを入れた自分を最後まで貫けって言いたいですね」
――彫り師に対する警察の取り締まりについてはどう思われますか?
「そもそも彫り師自体、昔からグレーな存在で、昭和の初期などは彫り師は警察の目をはばからなければならない職業だった。しかし、そんなアンダーグラウンドな環境の中で日本の刺青文化は育ってきたわけですよ。今やジャパニーズ・タトゥーは世界的に人気で、日本の彫り師は海外からの引き合いもある。欧米ではタトゥーに対して法律や社会も寛容だし、タトゥー人口も多いのでビジネスライクで考えれば活動しやすいでしょうね。でも、それは日本の彫り師としては何の意味も無い。グレーな存在であることも、日本の彫り物文化のひとつ。法律や社会から公認されてしまっては、彫り師は体に絵を描くイラストレーターと同じになってしまうと思うんです。むしろ私はこのままタトゥーブームが変な方向に進んで、『タトゥーは芸術だ』なんて言われ始めたらどうしようかと、恐々としていますよ(笑)」
――最後に、これからタトゥーを入れようと思っている人へメッセージをお願いします。
「タトゥーって『真剣な悪ふざけ』だと思うんですよね。何を入れようと自由ですが、自分なりの意味を持って入れてほしいですね。 彫る側としても、その意味が重いほうが『いいモノ彫ってあげなきゃな』って燃えますから。あと、ファーストタトゥーには小さなものを入れる人が多いと思いますが、ワンポイントタトゥーを入れた人のうち7割くらいの人は、『消そうかなぁ』と考えてしまう。だから私は勧めるんですよ、どうせ入れるなら消すことができない大きいのを入れちゃえって。そうすれば、そのタトゥーを前向きに捉えることしかできなくなる。せっかく痛みとともに入れるタトゥーなので、そこから前向きに進む力を得て欲しいと思います」
日本は、タトゥー愛好者にとってまだまだ生きにくい世界。そこであえてタトゥーを入れる際には、あえて逆境を進む覚悟と意味を認識するべきということのようだ。
(取材・文=高田信人)
●うだ・ぱお・まさあき
1973年横浜生まれ。刺青師「秘密刺青処・横濱刺青製作所」にて刺青工「彫まさ」として精進中。86年にBMXと出会い、91年にはプロライダーに。93年より独学でタトゥーを始め、96年に本格的に刺青師として生きることを決意。日本伝統刺青を独自に学び、02年に独立。以降、地元の横浜・桜木町で腕を振るう。他に、ジャパニーズレゲエグループ「FireBall」のロゴデザイン、また「ビッグコミック・スピリッツ」(小学館)に連載中の漫画『闇金ウシジマくん』(小学館)に本人役で登場する。近年では著書『タトゥー・セラピー』を発刊、ライヴストリーミングでトークライヴや音楽の配信を続けるサイト&スタジオ「DOMMUNE」に出演するなど、ジャンルを超えて活動中。「DOMMUNE」次回出演は11月1日19:00~21:00の予定。趣味は「洗い物」。
オフィシャルサイト<http://www.pao-info.net/>
タトゥーはラグジュアリーな遊びなのです。
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