メトロポリタンのレイニーブルーなミッドナイト 『Jポップな日本語』
#本
「Jポップ」
それは、1988年にFMラジオ局J-WAVEが、日本におけるポピュラーな音楽のことを総称して呼び始めた造語を指す。わたしたち日本人にとって、もっとも身近な音楽であり、ひと度耳にすれば、それぞれの「あの頃」の記憶が色鮮やかによみがえる。
音楽の世界にはいつの時代にも人気の歌手がいて、時代を反映した流行の歌が存在している。身を切り裂くような辛い思いをしたときも、心の底から沸き上がる感情に胸躍らせたときも、いつもどこかで流れていたメロディ。
そんななかでも最も心に響くのは、やっぱりJポップ。日本語で綴られた歌詞はストレートに胸を突く。自分の体験と重ね合わせ、「あぁ、こんな思いをしているのはわたしだけじゃないのね」と、歌詞を何度も反芻させ、心を落ち着かせる。
それらの名曲には、当然それぞれに違う思いが込められているはずだが、実はJポップ界には、昔から変わらない熱い定番メッセージというものがある。そんなメッセージを集めたのが『Jポップな日本語』(主婦の友社)という本だ。
「夢はきっと叶う」
Jポップ界では、「夢がなければ人は死んだも同じ」(本文より一部抜粋)だと言われているそうで、夢がない人には残念だが、夢がなくては人生は始まらないのだ。
「決まったレールの上を歩くな」
また、何の苦労もせず生きている人も毛嫌いされるそうで、「人生で一度ぐらいは〈どん底〉を味わえ」というコンセプトの元、発信されている。
また、「自分に嘘つくのはやめよう」、「遠くから見守っているよ」、「キミは小さく震えていた」などお決まりのフレーズは、手を代え品を代え、頻繁に使われ続けている。
極めつけは、「永遠」と書いて「とわ」、「運命」と書いて「さだめ」、「本気」と書いて「マジ」。これら独特の漢字の読み方を作りだしてしまうのもJポップ界の特徴で、もはや辞書に載っていてもおかしくない、というほど定着度が高い。
著書の井上ノリミツ氏は、高校受験の時にFMラジオを聴き始め、Jポップにのめりこんだという。ミュージシャンを夢見て「ガラスのプリマ」「あばずれ」「売女」などの曲を発表。残念ながら夢はあきらめてしまったが、長年Jポップな歌詞に触れ合い続けてきた人物だ。
そんな井上氏が、日本語ならではの美しいコトバや表現は、Jポップに凝縮されている、と考え、本書ではとりわけ80年代、90年代、そして現在によく使われている歌詞をまとめている。
この本を読み終えたときには、雪が降ってきたら、「天使のカケラが舞い降りてきたよ」なんて、自然と口をついて出てくるぐらい、美しい日本語が使えるようになっているハズ、なのです。
(文=上浦未来)
・いのうえ・のりみつ
70年代、東北地方の海沿いの町に生まれる。高校受験の時に、FMラジオを聴き始め、J-ポップにのめりこむ。高校2年の夏、チンピラとダンサーを夢見る安キャバレーの女恋物語を歌った「ガラスのプリマ」という初めのオリジナル曲を狭い範囲で発表。その後「あばずれ」「ふたまた」「売女(ばいた)」を発表し、ついに男の切ない気持ちをたくみに歌った「元カノからもらったものが捨てられない」、上下関係に悩む中学生女子の気持ちを歌った「今日の漢字テスト読み(仮名)だっけ?」の「青春三部作」を完成させる。その後、夢を諦め、派遣社員、日雇いバイト、レンタルビデオ店員と次々転身し、現在も精力的に活動している。
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