まるで娼婦…… 男性を挑発してやまない、制服を着たマネキン
#町田忍
大衆文化研究家の町田忍氏が、エロと大衆文化の関係を解き明かす!
【第三回】
「生と死の境界線を生きる人形、マネキン」
人間でも人形でもない存在、マネキン。抜群のプロポーションとその妖艶な表情に、エロスを感じる男性も少なくないはずです。
マネキンは、19世紀後半にパリで登場しました。当時のマネキンは、頭部は蝋製、胴体部分はボール紙製にキルティングや布を貼りつけただけの、いわばハリボテの質素な作りでした。服を着せてしまうので、胴体は美しく見せる必要はないと考えられていたんですね。
20世紀初頭になると、髪の毛や義眼、義歯が付けられ、より人間に近いものになりました。また、この頃から表情にもバリエーションがでてきました。
日本に普及し始めたのは、1928(昭和3)年頃。時を同じくして、百貨店やデパートには「マネキン・ガール」と呼ばれる女性たちが登場しました。彼女たちは綺麗な洋服を身にまとい、マネキンのように静止した状態で売り場やショーウィンドウに立ち、当時まだ高価だったマネキンの代役をしていました。選りすぐりの美人たちがこの仕事を担い、着ている服をより美しく見せようとしたのです。当時、彼女たちの出現は珍しく、最先端の職業として注目されました。
しかし、FRP(繊維強化プラスチック)の採用によってマネキン人形が量産化されるようになると、マネキン・ガールは不用となり、彼女たちは洋服の販売員、あるいはファッションモデルへと変遷を遂げました。
マネキンは、基本となる原型は手作りですが、最近ではコンピューター化されています。顔が左右対称になってしまうと返って冷たい表情になってしまうため、わざと少しずらします。また、中年顔や肥満体形のマネキンも増えてきています。
当然のことながら、マネキンは理想的な体系をしています。男目線で見ると、洋服がどうこうより、その内側の肉体が気になってしまいますよね。とくに制服を着たマネキンほどエロチシズムを感じるものはありません。制服という既製品に抑圧された大人の身体、もしくはセ―ラー服のように若い女性の発達期にそれを封じ込めるような制服は、めくるめくその内部にあるであろう若い女性の身体的挑戦に思えてならないのです。それは、あたかも男性を挑発している娼婦にすら見えるのです。彼女たちの目線や厚めの唇……たまりませんね。でも、マネキン特有のエロさは、それだけに起因しているわけではありません。
人間とマネキンの間には、”生”の世界と”死”の世界という、絶対的な境界線があります。しかし、マネキンは人体の模擬物でありながら人体とはかけ離れた肉体を持っているため、人間以上に”生”を感じさせる魅力を持っています。そしてそれは時に、人間とマネキン、どちらが生きているのか分からなくなるほどの錯覚を、私たちに起こさせるのです。生と死の境界線が曖昧になることで、そこに極めて甘美な世界が成立してくるわけです。
最近では顔がないマネキンが増えてきていますが、より人間に近ければ近いほど、そこには人間とマネキンの不思議な世界が作られるのです。
(談=町田忍/構成=編集部)
●まちだ・しのぶ
1950年東京生まれ。学生時代はヒッピーとしてヨーロッパ各地を放浪。卒業後、警視庁警察官勤務を経て、庶民文化における見落とされがちな風俗意匠を研究。その研究対象は多岐にわたり、銭湯、正露丸、チョコレート、ペコちゃん、コアラのマーチ、蚊取り線香、ハエ取り紙など150以上にのぼる。す。主な著書に『銭湯遺産』(戎光祥出版)、『昭和なつかし図鑑』(講談社)、『東京ディープ散歩』(アスペクト)などがある。現在、文化放送「ドコモ団塊倶楽部」(毎週土曜・午前11:00~)とライブストリーミングサイト「DOMMUNE」に不定期出演中。
ギャルver.もいいよね。
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