死を意識して、ギラギラ輝く男たち! 三池節、大バクハツ『十三人の刺客』
#映画 #邦画 #三池崇史 #パンドラ映画館
亡き者にするため、島田新左衛門(役所広司)ら13人の刺客たちは
明石藩の大名行列を丸ごと壊滅に追い込む。
(c)2010「十三人の刺客」製作委員会
2時間ドラマ、Vシネマでキャリアを重ね、『オーディション』(00)、『殺し屋1』(01)などのインディペンデント映画で大暴れしてきた三池崇史監督の”荒ぶる魂”がメジャーシーンで見事に結実した。工藤栄一監督の集団抗争時代劇の傑作『十三人の刺客』(63)を、役所広司、市村正親、松本幸四郎、稲垣吾郎ら三池組初参加となるキャストを迎え、超ド派手に甦らせたのだ。すでに『クローズZERO』(07)、『ヤッターマン』(09)といったメジャーヒット作を放っている三池監督だが、本作によって、さらに1ステージ上に上がった感がある。敵味方が入り乱れて殺戮を繰り広げる展開は和風西部劇『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』(07)と同じだが、本作は太平の時代において”死に場所”を探し求める侍たちを主人公にしたことで”死を意識することで、ギラギラと輝き出す男たち”という三池作品のメインテーマがくっきりと浮かび上がっている。カリギュラばりの暴君を演じた稲垣吾郎がクライマックスで「迷わずに愚かな道を選べ。その方が面白い」というセリフを吐くが、この言葉こそ三池美学の神髄だろう。
封建制度という確固たる社会システムが200余年にわたって続いた江戸時代も後半。武士はすっかり官僚化し、真剣を抜く機会を失っていた。そんな折、幕府直参の島田新左衛門(役所広司)に密命が下る。暴虐の限りを尽くしている明石藩主(稲垣吾郎)を暗殺せよというもの。将軍の弟でもある明石藩主は次期老中に選ばれており、明石藩はおろか日本全体が地獄絵図と化すことは必至。その前に闇に葬れという。新左衛門のもとに放浪の剣豪・平山九十郎(伊原剛志)をはじめとする選ばれし刺客たちが集う。誰しも命は惜しい。しかし、侍として生まれ、二本差しをしているからには侍らしく生きてみたい。”侍らしく生きてみたい”とは”侍らしく死んでみたい”の同義語だ。しかも、今回の仕事は史上最悪の暴君と刺し違えるという大義がある。それまで安穏と暮らしていた新左衛門たちの瞳が、死を意識することで俄然輝き始める。
選ばれし侍たち。果たして、この中の何人が
生き残るのか?
物語の序盤を牽引するのは、明石藩主の残虐さだ。明石藩主を演じた吾郎ちゃんの歪んだ二枚目ぶりがステキ! 清純派女優・谷村美月をあっさり手込めにするわ、暴政を諌めるために自害した明石藩江戸家老(内野聖陽)の遺族を庭先でハンティングするわ、もうやりたい放題。庶民なんか、それこそ虫ヘラ扱い。明石藩主の暴虐ぶりは、オリジナル版よりかなり膨らませて描いてある。ちなみにリメイク版の脚本は、三池監督とのコンビでSMテイストたっぷりの快作『オーディション』『インプリント ぼっけえ、きょうてえ』(06)を手掛けた天願大介。さすが、人生の最後にエロチックコメディ『赤い橋の下のぬるい水』(01)を撮った巨匠・今村昌平監督のご子息ですな。
インディーズ映画の帝王・若松孝二監督の新作『キャタピラー』には”芋虫男”が登場したが、三池監督は東宝配給のメジャー作品である本作に”だるま女”を登場させる。明石藩主の残酷さによって、この世のものと思えぬ無惨な姿に変えられた女性を目の前にして新左衛門の怒りのエネルギーは沸点に達する。これまでも三池作品には『極道恐怖劇場 牛頭』(03)、『インプリント』『ヤッターマン』『ゼブラーマン2 ゼブラシティの逆襲』(10)と度々にわたって奇妙なクリーチャーが現れた。これは三池監督が自作に押した一種の焼き印だろう。このクリーチャーの異形度を見て、観客は三池監督の本気度を察する。三池作品のご神体であるクリーチャーを目撃したら、もう観客は逃げられない。すでに三池ワールドの虜である。
木賀小弥太(伊勢谷友介)。封建制
度の枠に捕らわれない自由奔放な男だ。
新左衛門たち12人の刺客たちは、参勤交代で明石領に帰る道中の明石藩一行を襲撃することに。血戦の場を中山道の小さな宿場町・落合宿と決め、早回りするため山奥の獣道を突き進む。ここで出会うのが、山の民・木賀小弥太(伊勢谷友介)。オリジナル版では落合に住む郷士という設定だった小弥太が、三池版では流浪の民となる。山の民とは”サンカ”ですよ。都市伝説上では縄文人の生き残りとも言われ、日本社会とは異なる独自の文化を持つワイルドな集団。社会のシステムから離れて別個のコミュニティを築いている山の民にとっては、幕府も侍のプライドも全く関係ないのだが、小弥太は「こりゃー、面白いことが起きる」と本能的に嗅ぎ取る。その日その日を面白く生きることが山の民・小弥太にとっての唯一のルール。侍でもないのに、小弥太は自分のルールに従って新左衛門たちに付いていく。こうして”13番目の刺客”が新たに加わる。黒澤明監督の不朽の名作『七人の侍』(54)がラッキーナンバーなのに比べ、なんとも不吉な、されど悪運が強そうな数字ではないか。
落合宿に双方が到着し、13人vs.300人の大決戦がいよいよ始まる。敵も味方も逃げられないように、宿場町から出るための橋は爆破される。同時に三池節も大爆発。オリジナル版の30分に及ぶ激闘は時代劇史上最長の殺陣シーンとされてきたが、それを遥かに上回る50分の大激闘が繰り広げられるのだ。明石藩主だけを殺りゃいいんであって他の明石藩士たちは見逃してあげればいいじゃんと思う人もいるだろうが、三池版の新左衛門は明石藩士たちも主君を守るために体を張った一流の侍と見なし、容赦なく斬り掛かる。自分と同等、もしくは格上の相手に決死の戦いを挑むからこそ、男たちの輝きは増していくのだ。『ワイルドバンチ』(69)のラストさながら、敵も味方も血を噴き出しながらバタバタと倒れていく。そして落合宿は大炎上。後に残るのは、侍としての生をまっとうした男たちの屍と全てが無へと帰するカタルシスのみ。
リメイク版のラスト、意外な人物が血まみれになった新左衛門に「ありがとう」という言葉を投げ掛ける。その言葉はこれだけの血湧き肉踊る力作に参加することができたキャスト&スタッフの喜びの声でもあり、2時間21分の大スペクタクルショーを堪能した観客の声を代弁したかのようでもある。ありがとう、三池監督! そんな言葉が劇場出るアナタの口からも溢れるに違いない。
(文=長野辰次)
『十三人の刺客』
原作/池宮彰一郎 脚本/天願大介 監督/三池崇史 出演/役所広司、山田孝之、伊勢谷友介、沢村一樹、古田新太、高岡蒼甫、六角精児、浪岡一喜、近藤公園、石垣佑磨、窪田正孝、伊原剛志、松方弘樹、吹石一恵、谷村美月、斎藤工、阿部進之介、内野聖陽、光石研、岸部一徳、松本幸四郎、稲垣吾郎、市村正親 配給/東宝 9月25日(土)より全国ロードショー PG-12
<http://www.13assassins.jp>
11月1日発売。
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