いったい何者? 身体も心もしなかやかな、コンドルズ・近藤良平という生き方
#インタビュー
近藤良平、この男に既存のルールは通用しない。主宰するダンスカンパニー「コンドルズ」では、学ラン姿で舞台を縦横無尽に飛び回り、ダンスやコント、奇妙な音楽演奏を繰り広げる。コンテンポラリーダンス界はもとより演劇界にも衝撃を与え、ニューヨークタイムズ紙に”日本のモンティ・パイソン”と絶賛された。また、NHK教育テレビ『からだであそぼ』では家族で不思議な体操をし、NHKの人気番組『サラリーマンNEO』では、職場のシチュエーションになぞらえたサラリーマン体操なるものを発明。類い稀なる身体感覚と、ペルー、チリ、アルゼンチンで培った南国のリズム感覚、独特のユーモア感覚を持つ希代のダンサー&振付家である。
「笑い」で人の心にすっと入り込み、油断させたところに最高にカッコいい踊りを滑り込ませ、人の心を震わせる。その極度のギャップに力強く心を揺さぶられて、いつの間にかこの男から目が離せなくなる。そんなズルい男・近藤良平が、自分自身の半生について語り下ろした『近藤良平という生き方』(エンターブレイン)を上梓した。ゆったりとしたペースで語り、いつの間にか人を笑顔にさせる独特な空気を放つ、ふわふわととらえどころのない感じで、常識や先入観という枠をひらりと超えていく。身体はもちろん心もしなやかな、近藤良平という生き方とは?
──近藤さんはまだ42歳とお若いのに、なぜ今回のような自伝を書こうと思われたのですか? まさか、ご自身で企画を出されたのではないですよね?
近藤良平氏(以下、近藤) 僕がそんなこと言うはずないよね(笑)。いまだに半分おこがましいというか、恥ずかしいというか。ライターの山下(卓)さんという方が企画してくれたんです。彼がいなかったら、この本はできていませんでした。ものすごく根掘り葉掘り聞かれまして、でも彼じゃなければこんなにたくさん話しませんでした。彼の話術にハマっていろいろ話してしまいました。
──いままでの人生を一冊にまとめてみて、新しい発見はありましたか?
近藤 そんなにないですね(笑)。これからじわじわくるんじゃないかな。いまは本当に身近な人が読んでくれているだけで実感がないけど、活字となって世に出てしまったわけだから。あれ、本当に伝わっちゃったんだって。実家の隣の家の人も読むわけじゃない? 恥ずかしいんだけど、いろんな人からの声を聞いて、それをこれからの糧にしていくんじゃないかな。もうひとつ面白いのは、この本には僕の人生を見てきた証言者のページがあるんですけど、自分が言っていることとその人たちが言うことにものすごくズレがあるんです。それもむちゃくちゃ面白い。
──以前から近藤さんのインタビューなどを拝見していると、なんというか、言葉にならない部分をすごく大切にしている方だなとお見受けしていまして。そして、舞台を見ると、その言葉にしない部分っていうのが感じられるような気がして。
近藤 そう思ってくれると本当にうれしいです。僕はアイドルじゃないし、特殊な生き方をしているとは思わない。朝日新聞の「人」っていう欄がすごく好きなんだけど、面白いですからね。こんなに面白い人がいるんだって思える人が、毎日だいたい2人くらいはいるよね。だから僕のことも、「こんな人もいたんだ」って思ってくれればいい。もしかすると、自分にもこんな本作れるかも、自分の人生も捨てたもんじゃないわよって思ってくれればいいな。
──やりたいことも特になくて、でも将来不安で……というような、これから社会に出る学生の方などが読んだら勇気づけられるんじゃないかと。就職しないで生きていくという。決して真似できることではないですが、選択肢は広がる気がします。
近藤 まあ、大学生ってそんな感じですよ。僕は学生たちに「20代でそんなに慌てんなよ」ってすごく強く言うから。すると、次の週くらいに「就職するの辞めました」っていうメールをもらったりして。就職することが悪いわけじゃないけど、就職できなかったからといってすべてが終わるわけじゃない。自分の言葉がちゃんと彼らの胸に届いたんだなって思って。
──他人と比べてどうかということではなく、「自分」としてどう生きていくべきか、ということですよね。近藤さんは、普段物事について一人で悩んだりすることはありますか?
近藤 あんまりしませんね、小さい頃から。思い悩むほど、そこらへんの脳みそが発達していないような気がするね(笑)。でも、すごくポジティブかというとそうではなくて、ネガティブに考えない。あんまりポジティブに考え過ぎても、くたびれるでしょ(笑)。そんなに「サンバッ、イエーイ!」みたいなの好きじゃないんですよ。3人くらいいて、全員が静かだったら僕が大騒ぎするけど、6人いて盛り上げ役がいたとしたら僕は静かにしてる。
──場の空気を見ながら、アクションを起こして変えていく。それはコンドルズの舞台にも言えるかもしれません。
近藤 そうそう。なんとなーく空気が悪いなと感じたら、まずは逃げる(笑)。だけど、逃げられない場合は、なんとかしないとと思って変える努力をする。別に自分に注目してもらいたいわけじゃないんだよね。その場の空気がよくなりさえすればいい。だからケンカも嫌い。ケンカそのものじゃなくてそういうネガティブな空気が広がるのが嫌いなんだよね。
──本の中で、近藤さんがポルトガルを一人で旅行していた時の話が印象的で、その時書いたメモに「大人とは、子どもになるための方法を学ぶ時期にすぎない」っていう言葉がすごく素敵だなと思いました。今の近藤さんは、子どもになる準備をきちんとしてきた大人なんだなと。
近藤 あの時は詩人だったんですよね(笑)。それと当時は写真がすごく好きだったんです。フィルム80本をバックパックに詰め込んで、1年の旅行でちょうど撮り切って帰ってこようとしていて。いくらでも撮れるわけじゃないから、1カットがすごく大切なの。だから、例えばいい崖を見つけた時に「あと4時間くらい待てば、そこに自分の影が映るからそれを撮りたい」と思って4時間待つんです。人も同じで、海外旅行でも人を撮りたいんですが、やっぱり近づけない距離があるんです。怪しいですからね。でも、一回飲みを交わして友だちになると、思いっきり近づいて撮れる。その2時間の違いが大きい。「どっから来たの?」って話をするだけでいいんですが、そうするだけでどこからでも撮れるようになる(笑)。
──カメラと人の距離感もそうですが、近藤さんがダンスワークショップでやっているような人と人との距離感もそうですよね。近づき過ぎてもいけないし、だけど自分が体を動かして、人の動きに注意することで他人との距離が変わってくるような。広い意味での身体感覚というか。
近藤 そこに関しては、まだまだ研究中だけどね。いまいくつかの大学で教えながら、実際に体験していることでもあるし。自分が大学でダンスの世界や身体感覚を知ったので、僕がここでがんばらないと、と思いますよね。
それから先日、(劇作家、演出家の)長塚圭史と話していて気付いたんだけど、お互い携帯番号しか知らないんだよね。メールアドレスはとくに知りたがっていなくて、話したい時には電話で話す。その違いって大きくて、電話だとさすがに携帯でも夜中の2時には電話しないだろうとかあるけど、メールだとそういう気遣いはなくなる。それも別の意味での身体感覚なんだと思う。
──最後に読者にひと言お願いします。
近藤 ちょっとでも僕やコンドルズに興味がある人はもちろん、まったく知らない人にも
ぜひ読んでほしいです。「こんな人がいたんだ」って思ってくれればいい。それで、コンドルズやダンスや自分の身体に興味を持ってくれたら、もっとうれしいですね。
(取材・文=上條 桂子/撮影=毛利 智晴)
●こんどう・りょうへい
1968年東京生まれ。父親の仕事の関係で幼少期をペルー、チリ、アルゼンチンなどで過ごす。学ランを着用する男性だけのダンス集団「コンドルズ」を主宰。独特の身体表現とお笑い要素を取り入れた公演で、一躍人気のダンスカンパニーに。北米、中南米をはじめ数多くの海外公演ツアーもこなす。第4回朝日舞台芸術賞・寺山修司賞を受賞。テレビやミュージシャンのPVなどで振付家として活躍する一方、横浜国立大学の非常勤講師も務めている。
・コンドルズ日本横断大蒼天ツアー2010「SKY with DIAMOND」
大阪9/4、広島9/10、福井9/12、東京9/17-19、中標津9/24、帯広9/26
当日券あり
詳細はコンドルズ公式サイトから< http://www.condors.jp/>
※コンドルズバンドプロジェクト”ストライク”CDアルバム「新兵器」も発売中。
近藤良平という生き方
ニューヨークタイムズ紙に”日本のモンティ・パイソン”と絶賛され、コンテンポラリーダンス界に一躍革命を起こしたダンスカンパニー・コンドルズ。その集団を率いる主宰・近藤良平初の自伝。ペルー、チリ、アルゼンチンで育んだ獣のような身体感覚を持つダンサーにして振付家。各界の一流クリエイター達を魅了する男の素顔がついに明かされる。
【関連記事】
ロングインタビュー 康本雅子の『2つの顔』に迫る!
「まだやることが腐るほどある」 本谷有希子が語るこれまでとこれから
コント!? アート!? ダンス界が注目する「ボクデス」の魅力とは
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事