フランス人にはまったく無視されていた! 芸術家・村上隆作品展をめぐる反対運動
#アート
現代美術家・村上隆氏。9月14日からフランス・ヴェルサイユ宮殿で開催される彼の作品展をめぐり、フランスの右派団体などが「宮殿を侮辱するものだ」として反対運動を繰り広げ注目を集めている。誰もが知る彼の作品と言えば、2008年に競売会社・サザビーズが行ったオークションに出品され16億円で落札された、裸の少年が精液を飛ばすフィギュアだ。
ある意味「芸術」とは別の意味で注目されてきた彼の作品が、フランスではどのように理解されているのか。この反対運動は、彼の評価を知る絶好の機会とも言える。
フランス現地で、反対運動を呼びかけている「versailles mon amour(私の愛しいヴェルサイユ)」というサイトは8月31日の時点で3,861人の反対署名を集めている。このサイトでは、村上氏の作品展に反対する理由が次のように語られている。
「ヴェルサイユ宮殿を尊重しない挑発的な現代美術には、反対するべき。ヴェルサイユ宮殿はドゥコー(フランスの大手広告代理店)の広告のパネルではなく、我々の歴史と文化のシンボルである。村上も皇居で作品展を開くことは決してない」
そもそも今回の作品展は半数が未発表の新作。日本では、村上氏のフィギュアが下品だから忌み嫌われているのではないか。あるいは、オタク的な造型が批判の対象になっているのではないかなど、作品そのものが批判の対象になっているように受け取られているが、前述の精液を飛ばしているフィギュアのような作品は展示されない。それでも、「下品なアート」を子どもが目にする可能性があり、作品展は容認できないのだという。
それに加えて、彼らが批判するのは、現代美術の商業主義的な側面。彼らは村上氏の作品展や過去にヴェルサイユ宮殿で開催された現代美術の作品展も「投機のため、金儲けのためのアート」として厳しく非難を加えている。
日本では、この事件が報じられて以来、村上隆の作品の価値自体をめぐってネット上で活発な議論の応酬が見られる。ところが、肝心のフランスではどうかと言えば、まったく話題になっていない。
フランスといえば世界の芸術の中心地。この反対運動をめぐって、さぞや活発な議論が巻き起こっているのかと思いきや、この問題を取り上げているのは、いくつかのニュースサイトのみ。フランスの新聞・テレビ局のサイトをめぐってみたが、一連の騒動を取り上げている記事は、わずか一紙のみ。
この件を最初に報じたのはフランスのAFP通信なのだが、フランス国内では見向きもされていないのだ。ならば「現代美術」の評価が高いアメリカなどではどうだろうと探してみたが、やはり、アニメ・マンガの情報サイトが取り上げている程度にすぎない。つまり、世界的にもごく僅かの人々の間で注目されているだけに過ぎなかったというわけだ。
日本文化に詳しいフランス人研究者に話を聞いたところ、「フランスでは現代美術をめぐる論争は、しばしば見られる。ヴェルサイユ宮殿のような施設を使った展示を保守的な人々が批判することも日常的で、多くのフランス人は興味を示しません」という。
ヴェルサイユ宮殿では08年にも現代美術の作品展での展示方法をめぐりフランス王家の子孫が中止を求めて訴訟を起こす事件があった。それに比べると、今回の一件の注目度は極めて低い。この報じられ方自体が、村上氏が海外でどのような評価を受けているかを如実に現していると言えるだろう。
自ら主催する現代美術の祭典「GEISAI」を、台湾でも開催するなど世界規模で活躍しているかと見える村上氏。だが、世界に名を轟かせる芸術家になるには、まだ長い道のりが控えているようだ。
(文=昼間たかし)
美意識なんて人それぞれ。
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