映画監督・江川達也の”暴走”トーク!? 第2弾映画は”洗脳の怖さ”が発端だった(後編)
#映画 #インタビュー #邦画
──ゲームの進行役”白兎”に扮した川村ゆきえちゃんは、まさに江川作品から抜き出てきたようなキャラクター。
江川 オレ、ゆっきーが大好きなの(笑)。『東京大学物語』の映画化も最初は彼女で考えていたんだ。でも、事情があって、見送ったという経緯があったんだ。今回はプロデューサー側のキャスティングだったんだけど、ゆっきーが配役されてて、内心は大喜びしたんだ(笑)。彼女、かわいいだけじゃなくて、すごく素直だし、仕事に対しても熱心なんだよ。白兎が最初に無理に明るいテンションでゲームの説明をするところとか、最後に部屋を退室するときの表情はすごくいいよね。彼女、暗い芝居をやるとかなりうまいよ。
──明るい笑顔の中に、微妙に影が差してますよね。
江川 そうなんだよ。瞳の奥に何か隠されたものを持っているよね。それはね、主演の石田卓也くんにも感じたことなんだ。彼も一見したところ、爽やかな若者なんだけど、演技にどこか鬼気迫るものを感じさせる。芦名さんが自分から進んでラバースーツを着て、四つん這いになってくれたのもそうだけど、映画って演技の中に役者の人間的な本質がさらけ出されるものなんだろうね。
──”王様ゲーム”は中世の頃から存在したとのことですが、江川先生は学生の頃に”王様ゲーム”やってました?
江川 ボクの学生時代はもう30年前だからね、少なくとも名古屋では”王様ゲーム”をやってる学生はいなかったよ。”王様ゲーム”をやったのは上京して漫画家になってから。それで、「こんな楽しいゲームがあるんだぁ」と感激した(笑)。それに「フィーリングカップル5対5」とか『あいのり』みたいなテレビ番組のイメージを合体させていったのが今回の企画の発端。それと、あと”自己啓発セミナー”のイメージを組み合わせて、バーチャルリアリティーの世界で描いてみたかったんだ。
──『BE FREE!』『東京大学物語』『家庭教師神宮山美佳』ほか江川作品は管理教育、マインドコントロールが主要テーマになってますもんね。
江川 そう、ボクの作品のキーワードだからね。心理療法とかグループ・ダイナミックス(集団における人々の思考や行動の研究)をベースに考えていた。もっと言えば、統一教会やオウム真理教などのカルト宗教で、人間がどのように洗脳されるのかを描いてみたかった。ま、そういった要素は全部、プロデューサーにボツにされたんだけどね(苦笑)。
──なるほど。監禁された男女の精神状態が何者かにコントロールされる怖さは、作品から伝わってきました。
江川 うん、そこだけはね、最低限でも見る人に伝わってほしいと、ボクも何とか頑張ったところなんだ。でも、プロデューサーには映画を完成させてから最後に、「あなたの自己実現のために働くのは、もう嫌です」と言ったけどね(笑)。
──権力をかざすのが”王様”ではない。
江川 そういうこと。本来、”王道”っていうものは王様がいちばん苦労して、みんなのことを考えなさいということなんだよ。権力を持っている人間は、末端の人間のことまで配慮しなくちゃいけない。でもさ、そういうことは全く理解してもらえなかったなぁ……。今回は本当、与えられた限られた状況の中で何とか最善を尽くした、作品にまとめることができたということだね。今回の現場のスタッフの中で、オレがいちばん大人だったと思うよ(笑)。
──江川先生は教壇に立った経験もある、元教職者でもあるわけですが、教育とエンタテイメントの関係はどう考えていますか? 字幕付きの洋画は敬遠される、オリジナルストーリーよりもテレビドラマの劇場版のほうがヒットするという最近の映画界の傾向を”ゆとり教育”の弊害だという声を耳にするんです。
江川 教育ってのは先のことを見据え、自分の行動を律して、社会生活が破綻しないよう、幸せをつかむために自分を磨くためにあるものなんだよ。エンタテイメントは、それとは真逆にあるもの。ダメ人間を生み出すのがエンタテイメント。見ているうちにダメ人間になってしまうような作品がヒットするわけですよ。そういう意味では、某国民的アニメ監督の一連の大ヒット作はすごく良くできたエンタテイメント。一見したところ、家族の幸せを健気な少女が願っているかのように見せているけれど、ドロドロとした人間の欲望を増大させるものですよ。主人公たちが空を飛ぶシーンは、爆撃機で敵国を襲撃するような快感じゃないですか。猟奇的なスプラッターシーンやエロティックなシーンもよく見ると入ってますよ。
ツ。SMマニア&ゴムフェチには堪らないシー
ンだ。果たしてラバースーツの中は?
──確かに一連の国民的大ヒットアニメは見ていると気持ち良さ、陶酔感を覚えます。
江川 そう、その気持ち良さは、戦争とセックスを想起させるもの。それをね、ふだんエロビデオとか見ない女性は「素敵な映画」と喜んで見ているわけですよ。「子どもに国民的人気アニメを見せておけば安心」なんて考えは危ない。ちゃんとね、エンタテイメント作品に隠されているものは何かということを教育する立場の人間は分析して、知っておかなくちゃいけない。教育とエンタテイメント的なもののバランスをうまくとることが大事。だから、ゆとり教育以前の問題ですよ。ゆとり教育に関しても、それまでマニュアルに従って授業をしていた教師たちが、自由にやりなさいと言われてできるわけがないんだから。ファーストフードのハンバーガー店に勤めている店員に、明日から創作料理を作ってくださいと言ってもできないでしょ。
──『KING GAME キングゲーム』もエンタテイメント作品ですよね。
江川 『KING GAME キングゲーム』は木村佳乃さんに「私はヘンタイ!」と言わせているように、SMシーンとかも隠さずに見せているからね。国民的人気アニメのように人間の欲望を巧妙に隠したり、パッケージで嘘を付いたりはしてないよ。その点はね、評価してほしいな。まぁ、今回は厳しい状況の中でキャストが頑張ってくれました。”王様”は自分の欲望のみに走っちゃいけませんってことだね。
(取材・文=長野辰次)
『KING GAME キングゲーム』
原案・監督/江川達也 脚本/ナーキカインド、保坂大輔 出演/石田卓也、芦名星、窪塚俊介、前田愛、堀部圭亮、山本浩司、夏目ナナ、ジェイ・ウエスト、佐藤千亜紀、川村ゆきえ、ジェリー藤尾、木村佳乃 配給/ファントム・フィルム 8月28日(土)より新宿K’s cinemaにてロードショー
<http://king-game.jp>
●えがわ・たつや
1961年愛知県名古屋市出身。愛知教育大学数学科卒業後、中学の数学教師に。本宮プロダクションでのアシスタントを経て、84年に『BE FREE!』で漫画家デビュー。代表作に『まじかる☆タルるートくん』『東京大学物語』『日露戦争物語』『家畜人ヤプー』『家庭教師神宮山美佳』ほか多数。AVの監督を経験後、06年に田中圭&三津谷葉子主演『東京大学物語』で念願の映画監督デビュー。現在公開中の『日本のいちばん長い夏』には俳優として出演している。
青春だね。
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