映画監督・江川達也の”暴走”トーク!? 第2弾映画は”洗脳の怖さ”が発端だった(前編)
#映画 #インタビュー #邦画
江川達也と言えば、『BE FREE!』『まじかる☆タルるートくん』『東京大学物語』などの大ヒット作を放った人気漫画家。かわいい女の子のキャラクターやエロティックなシーンを盛り込むことで読者の心をつかむ一方、管理されたシステムの中で自分で考えることを止めてしまった現代人への風刺劇を繰り返し描いてきた。漫画連載時のクライマックスには、読者だけでなく担当編集者さえも驚愕する、予定調和をぶち壊す怒濤の展開を度々見せることから、”暴走作家”としても知られている。また、2006年には1,500万部の大ベストセラーとなった『東京大学物語』を自らの手で実写映画化し、映画監督デビューを果たした。監督第2作となる『KING GAME キングゲーム』は、密室に監禁された10人の男女が”王様ゲーム”を延々と続ける心理サスペンス。ルールやシステムに縛られた人間の言動が次第にエスカレートしていく内容は江川作品らしい。ところが、江川監督は本作に関して思うことが多々あるらしく、渋谷区松濤の豪邸でのインタビューは序盤から”暴走”の気配を漂わせていた……。
──率直にお聞きしますが、今、なぜ”王様ゲーム”なんでしょうか?
江川達也氏(以下、江川) うん、まず、今じゃないんです。『東京大学物語』を撮り終わり、「じゃあ、次は?」という話になって、すぐに5本ほど企画を考えたんです。でも、映画の人ってノンビリしてるよね。やたらとダメ出しするし。それで企画が動き出すのを待っていたら、4年もかかったんだよ。で、なんで”王様ゲーム”かというと、現代は人間が欲望を暴走させている時代なわけです。米国のサブプライムローンの破綻なんかも人間ひとり一人の強欲が膨張しすぎて収集がつかなくなって起きたわけでしょ。そんな現代社会において、”王様ゲーム”をやることでひとり一人の欲望がむき出しになり、でも延々と続けていくことで逆にエゴをコントロールするための修行になるんじゃないかと考えたんです。王様の中には暴君もいるけど、王様は基本的には社会の末端のことまで考えて、人間の欲望を調整する役割を負っているんです。それをね、”王様ゲーム”の中に描こうと考えたんです。
──密室で行なわれる”王様ゲーム”の中に、現代社会を箱庭的に凝縮して見せようという狙いだった?
江川 そうです。それで思いついたアイデアをイメージボードという形でスケッチにしたんです。でも、そういった企画意図は、全部ボツになって、”王様ゲーム”という設定だけが残った(苦笑)。今回の脚本はボクじゃないんです。まぁ、脚本はダメでも、撮影現場で何とかなるだろうと考えたけど、プロデューサーが現場でも「脚本通りにやらなくちゃダメだよ」と言ってきてね。今回は映画が完成しただけでも奇蹟じゃないですか。ボクの考えていた企画意図は全部ひっくり返されて、大変な状況の中で完成に漕ぎ着けたんです。映画って大変だなと思いましたね。
──漫画より映画のほうがシンドイ?
江川 そうだなぁ、漫画のほうが楽かな。漫画を描くのは大変だけど、一度通った企画はここまでひっくり返されることはないからね。
──江川先生が漫画執筆時のように”暴走”しないよう、手かせ足かせを付けられたんでしょうか。
江川 いやいや、”暴走”する以前に、話の骨組みも作らせてもらえなかった。脚本家が書き切れなかった部分だけ、「じゃあ、ボクがやらせてもらいます」と自分で書いたんです。現場でカット割り考えるのも楽しみにしていたんだけど、それもできなかった。カメラマンが疲れてカット割り考えられない状態になったときだけ、自分でカット割りしたんです。だから、部分部分に自分の色が出てると思うよ(苦笑)。でも、監督なのにまるで権限が与えられないっていうのはどうなんだろう。逃げてもよかったんだろうけど、とにかく映画を完成させなくちゃという使命感でしたね。プロデューサーの指示に従わないことには、収集がつかない状況でしたから。
──この取材も記事として成立するのか心配になってきました……。
江川 そうだな、うまいこと言えば、”王様ゲーム”で監督であるボクにはあまり”王様”が回ってこなくて、プロデューサーがやたら”王様”を引き続けたってことかな。こういえば、ギリギリセーフでしょう(苦笑)。でもさ、監督は2本目だけど、オレって映画運ないんだなぁと思ったよ。
──監督デビュー作『東京大学物語』、面白かったですよ。遥役の三津谷葉子ちゃん、かわいかったし。
ゲーム”を繰り広げる。時間の経過と共に、
王様の命令は次第に過激になっていく。
(c)2009キングゲーム製作委員会
江川 デビュー作も、本当はオリジナルストーリーで勝負したかったんだよ。でも、『東京大学物語』の映画化をと言われてね。じゃあ、原作に忠実に映画化しようとしたら、それもダメだと言われたんだ。映画って何かやろうとすると、すぐにダメって言われるだよなぁ。
──え~と、ここらでキャストの話題に移りましょうか。石田卓也、芦名星、木村佳乃、窪塚俊介、川村ゆきえ……と主演経験者の多い、かなり豪華なキャスティングじゃないですか。
江川 キャスティングはね、プロデューサーの力量で集まったからね。ボクの力じゃないから。
──多彩なキャストの中でも、木村佳乃さんのボンテージルックが決まってます。いかにも”SMの女王様”って感じですね。
江川 うん、決まってるよねぇ(テンションが上がってくる)。実は木村佳乃さんはスリムすぎて、基本的にはボンテージルックは似合わないんですよ。衣装合わせのとき、木村さん機嫌が悪くて、その場の空気がピリピリしてましたよ(笑)。女優なんで、自分がどう見られるかについて厳しいんです。黒いシンプルなボンテージ衣装をそのまま着ただけだと”モジモジくん”になってしまうので、SM指導の本職の女王様がふだん使っているベルトを借りたり、バストアップしてセクシーさを強調して、見事にカッコよくなってましたね。衣装合わせに関しては木村さんが”王様”だった(笑)。
──木村佳乃さん演じる”山咲”の「わたしはヘンタイ!」という台詞を皮切りに、言葉責めが始めるシークエンスは俄然盛り上がりました。
江川 あの言葉責めやSMのシーンはよかったよね。ボクも演出してて楽しかった。監督が未熟な分を、木村佳乃さんがうまくフォローしてくれた。木村さんには世話になったね。
──ラバーマスク付きの真っ赤なラバースーツの中に入っているのは、芦名星さんなんですか?
江川 そうだよ。あの顔の見えないラバースーツをデザインしたのはボクなんだけど、あんなにスタイルのいい女性はそうそういないからね。鞭を打たれているのも彼女だよ。スタントマンじゃないし、CG合成もしてないから。正直さ、芦名さんを四つん這いにさせて鞭に打たれるシーンはどうやって頼もうかと悩んだんだけど、振り返ったら芦名さん、もう四つん這いになっていたからね(笑)。彼女さ、いつもクールな表情をしているけど、役に関してはすごく熱心なんだよ。1シーン撮るごとに「監督、今のシーンの私、どうでした?」と聞いてくるんだ。でも、11人みんなの表情までチェックできてなかったから「うん、いい感じだったよ」と答えてたんだけどさ(笑)。芦名さん、雰囲気もあるし、ガッツもありしさ、女優としていいもの持ってるよ。
(後編につづく/取材・文=長野辰次)
『KING GAME キングゲーム』
原案・監督/江川達也 脚本/ナーキカインド、保坂大輔 出演/石田卓也、芦名星、窪塚俊介、前田愛、堀部圭亮、山本浩司、夏目ナナ、ジェイ・ウエスト、佐藤千亜紀、川村ゆきえ、ジェリー藤尾、木村佳乃 配給/ファントム・フィルム 8月28日(土)より新宿K’s cinemaにてロードショー
<http://king-game.jp>
●えがわ・たつや
1961年愛知県名古屋市出身。愛知教育大学数学科卒業後、中学の数学教師に。本宮プロダクションでのアシスタントを経て、84年に『BE FREE!』で漫画家デビュー。代表作に『まじかる☆タルるートくん』『東京大学物語』『日露戦争物語』『家畜人ヤプー』『家庭教師神宮山美佳』ほか多数。AVの監督を経験後、06年に田中圭&三津谷葉子主演『東京大学物語』で念願の映画監督デビュー。現在公開中の『日本のいちばん長い夏』には俳優として出演している。
青春だね。
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