サバンナ 野生の勘で芸能界を疾走する「発展途上のロジカルモンスター」
#お笑い #この芸人を見よ! #ラリー遠田
特定のテーマのもとに集められた芸人たちが、ひな壇に座って毎週熱いトークを展開する。雨上がり決死隊が司会を務めるトーク番組『アメトーーク』は、現代を代表する人気バラエティ番組となった。
高い視聴率を保ち、業界内での注目度もあるこの番組からは、今までに何人もの売れっ子芸人が輩出されてきた。企画との組み合わせ次第で、今まで世間で目立たなかった芸人が、急にその魅力を引き出され、脚光を浴びることがある。
その代表例ともいえるのが、サバンナの高橋茂雄だろう。高橋は、「中学のときイケてない芸人」「太鼓持ち芸人」という2つの企画で、情けなくて調子のいい自分のキャラクターを打ち出して、視聴者のハートをつかんだ。
中学時代に内向的な性格から暗い青春を過ごしたことも、先輩芸人に媚びへつらっていることも、一般人ならば隠しておきたい格好悪い一面である。ただ、お笑いの世界では、やり方次第で欠点やコンプレックスは強力な武器になる。コンプレックスを前向きにさらけ出して笑いに変えることで、高橋は『アメトーーク』が生んだスターの1人に名を連ねることになった。
吉本興業は言わずと知れたお笑い界の最大手であり、吉本芸人たちは巨大な派閥を形成している。だからこそ、バラエティ番組では、その内部での人間関係が常に話題にのぼり、それが番組や企画のキャスティングなどに影響を与えることも多い。
そんな中で、吉本芸人である高橋は、あえて「太鼓持ち芸人」という企画の先導役になった。そこで、吉本芸人同士の閉鎖的な上下関係が視聴者に与えるネガティブなイメージを逆手に取って、目上の人を喜ばせるヨイショの技術を、誰にでも応用可能なテクニックとして面白おかしく提示したのだ。そのことによって、高橋は『アメトーーク』でブレイクすることができた。
一方、相方の八木真澄は、数々の一発ギャグを持ち、日常でも常識外れのボケを連発する、一種の「天然キャラ」として知られている。ただ、八木の天然には、他のタレントや芸人の天然っぽさとは一線を画する特徴がある。それは、一見訳の分からないボケの中にも、彼なりのロジックがあり、一本筋が通っているということだ。
例えば、八木は『人志松本のゆるせない話』の中で、「ね・うし・とら・う・たつ・み・うま・ひつじ・さる……」という干支の覚え方に納得がいかないと語った。序盤はともかく、「うま」以降の並びでは、動物名をそのまま覚えなくてはいけないのは非合理だ、というわけだ。また、十二支の中で「たつ(辰)」だけが架空の動物であるのも納得がいかないという。そこで八木は、十二支すべてが架空の動物から成る新しい干支を提案する。
八木がこの話をしたとき、スタジオでは爆笑が起こっていた。ただ、ここで八木が語っていることは、あまりに突飛で奇想天外ではあるが、それなりにしっかりした理屈に裏打ちされている。大人の常識に縛られず、自由に発想できるからこそ、そういう考えが生まれるのだ。
八木は、最新刊『世界一長続きするダイエット』の中で、22年間続けてきたダイエット術の極意を記している。そこで書かれている内容は、ダイエット本としてはかなりしっかりしたもので、書いてあることもきわめて常識的でオーソドックスだ。
いわば、八木の天然は、知識や知恵が足りない、というよりも、自分なりのロジックを持って物事を見ている、という感じなのである。こういうタイプの人は芸術家に多い。最後には笑いに落とし込むことを義務付けられた「芸人」という職業だからこそ、たまたま「天然」というレッテルを貼られてしまっただけなのだ。
吉本興業が生んだ日本一の太鼓持ち芸人である高橋と、ロジカルな天然ボケを繰り出す八木。サバンナの2人は、それぞれが野生動物のように自分だけの武器を隠し持ち、それを売りにしてお笑い界を渡り歩いている。
彼らの唯一の欠点は、いずれの能力も先輩芸人と絡むことで最も有効に機能するため、必然的に1人の仕事が多くなり、コンビで活躍する機会を奪われてしまうことだ。彼らがお互いを生かすような方法論を身につけ、抜群のコンビネーションを発揮するようになったときにこそ、サバンナがコンビとして真にブレイクしたと言えるようになるだろう。
(文=お笑い評論家・ラリー遠田)
つかみどころなし。
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