“大人が泣けるアニメ”の名手 原恵一監督が手掛ける『カラフル』
#映画 #アニメ #邦画
人生を”リセット”できるなら、今日からあなたはどう生きますか――。夏公開のアニメ映画と言えば、小学生以下の子どもを連れた家族が心おきなく楽しめる笑いと感動の娯楽作が多いが、中には冒頭の問いかけのように、生きることの意味や人と人とのつながりといった現実的なテーマを取り上げる作品もある。今回紹介する『カラフル』(東宝配給、8月21日公開)もそうした意欲的な作品だ。
天上界と下界の狭間で漂っていた”ぼく”の魂は、プラプラと名乗る天使から人生に再挑戦するチャンスを与えられ、自殺したばかりの内気な少年・小林真の体に入り込む。真として生き返った”ぼく”は、真の生還を喜び一見幸せそうな家族が実はばらばらの関係だったこと、学校では友達もなく成績も最低で、さらに密かに思いを寄せる後輩「ひろか」が援助交際をしていると知って絶望したことが自殺の理由だったと知る。だが、以前の真とは微妙に違う”ぼく”の言動が周囲に波紋を呼び、やがて周囲の人間関係が少しずつ変わっていく……。
原作は、児童文学畑で着実にキャリアを築きながら『風に舞いあがるビニールシート』(文藝春秋)(06)で直木賞も受賞した作家、森絵都のベストセラー小説。ファンタジックな設定と現実の中学生が直面し得るリアルな問題が交錯する、一筋縄ではいかないストーリーのアニメ映画化に、白羽の矢が立ったのは原恵一監督。原監督は、「クレヨンしんちゃん」シリーズや『河童のクゥと夏休み』(2007)などで、”大人の鑑賞にたえるアニメ”の作り手としての評価を確立。特に『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦』(02)は、これを原案として実写映画『BALLAD 名もなき恋のうた』(09)が製作されるなど、その影響力はもはやアニメ界にとどまらない。
1980~90年代にかけて海外でも支持されていった宮崎駿、大友克洋、押井守ら日本アニメ界の”大御所”に対し、原監督は『時をかける少女』(06)や『サマーウォーズ』(09)の細田守監督と共に、これから世界に羽ばたくであろう次世代の担い手として大いに期待される監督として知っておきたい存在。『カラフル』での手描き2Dキャラと背景の3DCG、さらには実写の写真などもミックスさせた表現手法についても、押井監督など先駆者がいるものの、すでに確立されたアニメ手法に安住せず新しい映像表現に挑む心意気が伝わってくる。
孤立、いじめ、援助交際、自殺といった切実な問題や、友達ができることの喜び、家族とのかかわりといった人生で大切な要素が、丁寧に描かれた本作。一つの色ではなく、さまざまな色が混じった”カラフル”な自分を受け入れ、他人も認めることで、人とのかかわりを変えられるし、生き方も変えられる。そんなポジティブなメッセージが鑑賞後に残る映画としてオススメしたい。
(文=eiga.com編集スタッフ・高森郁哉)
『カラフル』作品情報
<http://eiga.com/movie/55171/>
ボロ泣き。
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