未成年だけじゃない!? 知られざる日本の不自然な養子縁組
#へんな社会学
世の中のへんなものをこよなく愛するのり・たまみの、意外と知らないちょっとへんな社会学。
『母を訪ねて三千里』、『みなしごハッチ』など、主人公がものすごい苦労の果てに親を探す、というストーリーは意外と多いですが、今の日本ではものすごく簡単に”親”を見つけることができます。電車で隣に座っている見知らぬ叔父さんやOLさん、なんだったら自分の兄弟姉妹とさえ「親子関係」になれるんです。それが現在の日本の「養子・養親」制度です。養子・養親制度と聞くと、「親がいない、なんらかの理由で親と離れて暮らさざるを得ない子どもを篤志家が育てる」というようなイメージがありませんか? 私も最近までそう思っていました。
しかし今年4月、大阪で不自然な保険金をかけられた36歳の養子が殺害され、疑われた39歳の養父(保険金受取人)が自殺するという事件がありましたね。それで「36歳と39歳の親子関係?」と不思議に思って調べてみると、日本の養子・養親制度の特殊性が見えてきました。
養子縁組には、普通養子縁組と特別養子縁組の2種類があります。6歳未満の子どもの福祉を目的として実施されるのが特別養子縁組と呼ばれるもので、養親の請求に基づき、家庭裁判所の審判を経て成立します。一方、普通養子縁組は、養子・養親双方の了解があり、縁組することでなんらかの不都合が生じなければ、戸籍法の定めに従って届出をするだけで成立します。つまり、成人同士で一日でも生まれた日が異なれば、基本的に自由に養子・養親になれるわけです。その場合は、年上の方が養親、年下の方が養子になります。だから21歳の父親と20歳の娘というのもOKですし、81歳と80歳の親子もありです。
税理士さんのHPなどでは普通に見かけるのですが、相続税を減らすために孫を養子にするなど、「節税養子」の具体例がたくさん紹介されています。あんまりにも税金対策の養子縁組が増えたもんだから、現在は税金対策のための計算数の制限はありますが、養子をたくさんもらう人がいるように、養親が690人いてもノープロブレムです。
別に孫でなくても、「お世話になった近所の○○さんを養子にする」などということも可能で、血縁関係がない真っ赤な他人でも、双方が成年で同意さえあれば簡単に養子縁組できます。
本来の意義である「子どもの福祉のための養子縁組」と、「利益と都合の結合の結果の大人同士の養子縁組」どちらが多いのでしょう。ここに1つのデータがあります。
2004年に行なわれた東京都大田区の独自の調査によると、養子縁組のうち58%が成年者と未成年の養子縁組。そして26%が大人同士の養子縁組。残り16%はなんとずばり「不自然な縁組み」と名付けられた養子縁組です。このデータを見ると、過半数は未成年の養子縁組ですが、そのほとんどは「結婚相手の連れ子を自分の子どもにする手続き」です。たとえば再婚相手に連れ子がいた場合、自動的に相手の子も「自分の子」になるように思えますが、実は法律的にはそうではありません。あくまで「相手の子」であって、「自分の子」ではありません。そこで自分の子として登録するために「養子縁組」をします。
「結婚相手の連れ子を自分の子どもにする」を除くと、日本の養子制度はほとんど「大人のため」のものです。大人同士の養子というのは「相続税対策」だったり、「家業を継がすため」など理由が多いのでしょう。あくまで「統計」であって「何のために大人同士なのに養子・養親になるのか」と窓口で確認できないので、そのへんは不明確のままです。本人同士が「養子縁組をする」としていれば、目的はなんであれ、役所は受理しなければいけません。そしてさらにすごいのは、統計上でも最初から「不自然な縁組み」とされている16%です。これは「月に2~3回のペースでどんどん養子・養親縁組をする常連さん」「すでに何十人も養親がいるのに、また新しい親を見つけてきた」「戸籍を辿ると、グループが出来ていて、その中でどんどん養子・養親登録している」など問題点がたくさんあります。
報道によると、この事態について警察は「(養子縁組で名前を変えられるから)「多重債務を逃れる手段だったのが、最近は振り込め詐欺に使う携帯電話や銀行口座の開設に悪用されるようになったようだ」とみているそうです。あんまりひどいので「成人同士の養子縁組には裁判所の許可を必要としてくれ!」という意見も出始めていますが、現状では「月に2~3回も養子縁組する常連さん」が訪れても、届け出書類が揃っていれば、「?」と思いながらも受理するしかありません。
欧米では、キリスト教の影響で「中絶は罪」という価値観が根強く、また多民族国家で移民が多いことから、人種を超えた「孤児―篤志家」というパターンは珍しくありません。
実際に先頃来日したアンジェリーナ・ジョリーも6人の子がいますが、そのうち3人は養子です。
でも日本では、「孤児―篤志家」というパターンはほとんどなく、本来の養子縁組の意図から離れた「名前変えてサラ金からまたお金かりるため」「架空請求のための口座作るため」などの養子・養親がとても多くなっているのが特徴です。よく「イスラム教は4人まで妻を娶れる」ことが話題にされたりしますが、日本の「何十人でも大人同士で養子・養親に簡単になれる」方が世界的に見て、ヘンなのかもしれませんね。
(文=のり・たまみ)
●のり・たまみ
世界中の「へんなもの」をこよなく愛する夫婦合体ライター。日本のみならず、世界中の政治の仕組みや法律などをこよなく偏愛している。主な著書に『へんなほうりつ』(扶桑社)、『日本一へんな地図帳』(白夜書房)、『へんな国会』(ポプラ社)、『へんな婚活』(北辰堂出版)などがある。
随分とストレート。
■へんな社会学 バックナンバー
【第5回】世界でも日本だけ!? 血液型にこだわる日本人の国民性
【第4回】読み方は自分で決められる!? あなたが知らない日本人の名前の秘密
【第3回】“交通事故死減少”は真っ赤なウソ!? 軍事国家時代から続く「大本営発表」のカラクリ
【第2回】あの阿久根市より凄い! おっぱいで勝負をかける山口県光市
【第1回】皇居、ディズニーランド、甲子園球場……好きな場所に勝手に住み込む方法とは?
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事