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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 東京ダイナマイト 破壊なくして創造なし! ハチミツ流「笑いのセメントマッチ」
お笑い評論家・ラリー遠田の【この芸人を見よ!】第88回

東京ダイナマイト 破壊なくして創造なし! ハチミツ流「笑いのセメントマッチ」

td.jpg『東京ダイナマイト グレートダイナ
マイトフロムヘル』
よしもとアール・アンド・シー

 8月3日、東京ダイナマイトのハチミツ二郎と元・メロン記念日のリーダーである斉藤瞳が入籍した。2人は今年初めから交際を開始。5月にメロン記念日が解散した際、それを機に故郷に帰ると言った斉藤に対して、ハチミツが「俺が一生面倒見るから新潟に帰るな」と言って指輪を渡したという。

 東京ダイナマイトは、不思議なポジションにいる芸人である。一言で表すなら、「メジャーの中のマイナー」または「マイナーの中のメジャー」ということになる。ここ数年はテレビに出る機会もほとんどなかったので、世間での認知度はそれほど高いとは言えない。

 だが、お笑い業界の内部に一歩足を踏み入れると、その評価は一変する。芸人、業界関係者、お笑いファンの間では東京ダイナマイトの名は知れ渡っていて、熱烈な愛好者も多い。セオリーから外れたことをやって笑いを取るという確かな実力があり、それが業界内では高く評価されているのだ。彼らが醸し出す「何かやってくれそう」という空気は唯一無二のもので、それが魅力になっている。

 東京ダイナマイトというコンビを実質的に引っ張っているのは、ハチミツ二郎である。西口プロレス所属の現役プロレスラーでもあり、重量級の体格を誇る彼は、酒を豪快に飲み干す豪傑のようなイメージがある。だが、一方で、彼の中には計算高くて真面目な一面もある。だからこそ、身体表現力に優れた松田大輔を招き入れ、自分の理想とするネタを演じるためのパートナーに選んだのだ。

 彼らの漫才は、ある程度お笑いに精通している人が専門的な目で見れば見るほど、ますます引き込まれてしまうようなところがある。ありがちなネタ運びやボケのパターンを極力避けて、何重にもひねってオリジナルな笑いを生み出していく彼らの芸風は、お笑いマニアの琴線に触れる。声を張らず、日常会話のトーンで淡々とツッコむハチミツの話術は、他の漫才師には真似できない奇妙で独創的なスタイルだ。

 ただ、彼らが好まれるのは、そんな独自の芸風の裏に、どこか半笑いのハッタリ臭さが感じられるということだ。例えば、漫才の冒頭で日本刀を持って舞台に現れ、「刀持って来たぞー!」と高らかに宣言するパフォーマンスは、典型的なハッタリ芸である。もちろん、それがネタの本筋とは関係ないただのハッタリであることは、ハチミツも十分に自覚している。彼は、その点ではかなり戦略的に見る者の期待を煽り、自分たちの世界観を印象付けているのだ。彼自身も、初めてM-1の決勝に上がった2004年の時点で、漫才の冒頭で刀を持ち込むことについてこう語っている。

「それをやっても意味なんてないんだけど、なんかすごそうっていうのが好きなんです」

 意味はないけど、なんかすごそう。恐らくこれが、「東京ダイナマイト」というコンビをプロデュースするにあたって、ハチミツが常に念頭に置いていることだ。

 漫才中に松田が服を着替え、トレーニングマシーンに乗ってエクササイズを始める。漫才が始まってかなりの時間が経過した後に「どうも、東京ダイナマイトです」と自己紹介をする。「カヴァー」と称して、他の芸人の持ちネタをそのまま完全コピーして演じる。

 こういった行動はすべて、「なんかすごそう」と思われたいがためにハチミツが仕掛けたものだ。そんな彼の発想の原点にあるのは、恐らく「プロレス」である。プロレスの世界では、ある種のハッタリがエンタテイメントになっている。ルールのもとで真剣に戦うことが求められる他の格闘技とは違って、プロレスではエンタテイメント性が何よりも重視される。ハッタリ、演出、予定調和。いかなる形でも、観客を盛り上げ、彼らの気持ちをつかまなくてはいけない。

 いわば、ハチミツはプロレスラーの魂を持ってお笑いの世界を生きている数少ない芸人なのである。豪快にハッタリをかまし、自分の生き方を誇示して、リングに上がれば本気を見せる。たとえ芸人であっても、サラリーマンのように真面目に生きることを強いられがちな時代に、ハチミツはあえてそれを拒否して、型破りなファイトスタイルにこだわることで、同世代の芸人の中でも並外れた存在感を獲得することができた。

 芸人にプロレス好きが多いのは偶然ではない。お笑いとは、現代日本で唯一、プロレス的な美学を残して生き延びている珍しいタイプのエンタテイメントだとも言えるからだ。ルチャリブレ(メキシコプロレス)のライセンスも取得している異色の芸人・ハチミツ二郎率いる東京ダイナマイトは、身も心もお笑い界最強のプロレスラーである。
(文=お笑い評論家・ラリー遠田)

東京ダイナマイト グレートダイナマイトフロムヘル

エンターティナーってやつ。

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●連載「この芸人を見よ!」INDEX
【第87回】トータルテンボス 進化を止めない本格派コンビを育てた「M-1急転直下の挫折劇」
【第86回】ロッチ  シンプルな構図でコントに魂を吹き込む「関係性のスペシャリティ」
【第85回】山崎邦正 ダウンタウンによって強制開花した「ヘタレの天才」が巻き起こす奇跡
【第84回】フルーツポンチ 確かな演技力でポストバブル世代に現出した「キザ男のリアリズム」
【第83回】よゐこ 爆発力と切れ味で支持層を拡大する「自然体のシュール」
【第82回】バッファロー吾郎 マニアック芸人の権化が極めた「もうひとつの天下」
【第81回】ドランクドラゴン 完璧な構築物に風穴を開けて回る「鈴木拓のガッカリ力」
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【第78回】Wコロン・ねづっち  「整いました!」なぞかけ芸が時代にハマった深い理由
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【第75回】タカアンドトシ  非関西系漫才のツッコミ新境地「欧米か!」が生まれた理由
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【第69回】なだぎ武 R-1二連覇を成した演技派芸人の「本当の運命の出会い」とは
【第68回】いとうあさこ 悲観なき自虐を操る「アラフォー女性のしたたかなリアル」
【第67回】チュートリアル M-1完全優勝を勝ち取った「ひとつもボケない」漫才進化論
【第66回】松村邦洋 己を棄てて己を活かす「笑われる天才」が生きる道
【第65回】キャイ~ン・ウド鈴木 20年目の変わらぬ想い──「満面の笑顔で愛を叫ぶ」
【第64回】しずる 緻密なマーケティングと確かな演技力で突っ走る「腐女子枠のプリンス」
【第63回】青木さやか 仕事も家庭も……不器用に体現する「現代女性の映し鏡」
【第62回】 今田耕司 好きな司会者第3位にランクされる「代弁者としての3つの極意」
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【第60回】ハライチ “ツッコミ”を棄てた関東M-1新世代が生み出す「面の笑い」とは?
【第59回】出川哲朗 稀代のリアクション芸人が「計算を超えた奇跡」を起こし続ける理由
【第58回】中川家 すべてはここから始まった!? 兄弟が奏でる「舞台芸と楽屋芸のハイブリッド」
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【第54回】友近 孤高の女芸人が体現する「女としての業と生き様」
【第53回】ウンナン内村光良 受け継がれゆく遺伝子「終わらないコント愛」
【第52回】モンスターエンジン 結成2年でシーンを席巻する「高次元のバランス」
【第51回】関根勤 再評価される「妄想力」ひとり遊びが共感を呼ぶ2つの理由
【第50回】南海キャンディーズ しずちゃんを化けさせた山里亮太の「コンビ愛という魔法」
【第49回】フットボールアワー 無限の可能性を秘めた「ブサイクという隠れみの」
【第48回】ますだおかだ 「陽気なスベリ芸」という無敵のキャラクターが司る進化
【第47回】ナインティナイン あえて引き受ける「テレビ芸人としてのヒーロー像」
【第46回】インパルス タフなツッコミで狂気を切り崩す「極上のスリルを笑う世界」
【第45回】アンタッチャブル 「過剰なる気迫」がテレビサイズを突き抜ける
【第44回】おぎやはぎ 「場の空気を引き込む力」が放散し続ける規格外の違和感
【第43回】志村けん 「進化する全年齢型の笑い」が観る者を童心に帰らせる
【第42回】はるな愛 「すべてをさらして明るく美しく」新時代のオネエキャラ
【第41回】明石家さんま テレビが生んだ「史上最大お笑い怪獣」の行く末
【第40回】ブラックマヨネーズ コンプレックスを笑いに転化する「受け止める側の覚悟」
【第39回】笑い飯 Wボケ強行突破に見る「笑わせる者」としての誇りと闘争心
【第38回】笑福亭鶴瓶 愛されアナーキストが極めた「玄人による素人話芸」とは
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【第33回】ロンブー淳 の「不気味なる奔放」テレ朝『ロンドンハーツ』が嫌われる理由
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【第02回】オリエンタルラジオ 「華やかな挫折の先に」
【第01回】有吉弘行 が手にした「毒舌の免罪符」

最終更新:2013/02/07 12:36
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