「とにかく不毛なものが好き」 人気放送作家が手掛ける”世界初”の巨大仏写真集
#本 #インタビュー #サブカルチャー
『ロンドンハーツ』、『アメトーーク』、『あらびき団』、『フットンダ』など、今、大人気のバラエティー番組を手がける放送作家・中野俊成氏が、”世界初”となる巨大仏の写真集を発表した。日本各地に存在するウルトラマン(40m)やゴジラ(50m)よりもデカい、最大120mの巨大仏28体。そして鎌倉大仏(13.35m)以上、ウルトラマン未満の”準”巨大仏12体を、約3年の月日をかけて撮影したという。巨大仏の魅力とは一体なんなのか、そしてバラエティー番組と巨大仏の意外な共通点について、語ってもらった。
――今回、収められている巨大仏の写真は、すべてプライベートで撮影されたということですが、そもそも撮影のきっかけは?
中野俊成氏(以下、中野) 大船駅前にある大船観音、あれを見たときの衝撃ですね。初詣に行った帰りに渋滞に巻き込まれ、抜け道を探しているときに、突如、大船観音(25m)が目の前にぬっと現れてきたんです。「なんだこれ?」という衝撃で、咄嗟に車を路肩に停めて、夢中で撮影しちゃいました。
――ふいに大仏が出てきたら、びっくりしますよね(笑)。では、最初は写真集にされるつもりはなかったんですね。
中野 ネットでは公開していましたが、写真集を出すなんて微塵も思ってなかった。昨年の秋に知り合いのカメラマンの園田昭彦さんに勧められて巨大仏の写真展をやったら、数社から巨大仏の本を出版したいというオファーが来たんですよ。でも、どこもエッセイの企画ばかりだった。エッセイなら宮田珠己さんが書かれた『晴れた日は巨大仏を見に』(白水社)という、巨大仏界の経典とも言うべき本があるので、あまり乗り気になれなくて。そんな中、河出書房新社の編集者の武田さんだけが、何をとち狂ったか、「写真集を出したい」と言って下さって(笑)。それだったら面白いと思ってすぐに了承しました。
――担当編集の方も巨大仏ファンなんですよね。では、中野さんにとって巨大仏の魅力はどんなところなんですか?
中野 巨大仏が”ぬっと現れたときの強烈な違和感”ですね。初めの頃は、この違和感が生じたときに放出されるアドレナリンに浸ることを目的に、大仏を撮りに出かけていました。あとは”怖さ”。僕、富山のど田舎出身なんで、東京に出てきたとき、高層ビルが怖かったんです。見たこともない巨大なものを見るという、怖いもの見たさという面もあるのかもしれない。けれど、撮影しているうちに、巨大仏がいちばん魅力的に映るアングルはどこか、そればかりを考えるようになっていました。僕の場合、巨大仏個体よりも”巨大仏がいる風景”に興味があるんです。
写真集『巨大仏!!』より
――写真1点、1点かなりこだわって撮影されていますよね。
中野 どういう風に撮ったらこの違和感が伝わるか、ということを常に考えています。例えば、おじいちゃんが孫を遊ばせてる……という日常感のあるところに、ぬっと巨大仏がいると違和感が倍増するんですよね。それは撮っていくうちに分かったんですよ。初めは人がいなくなるまで待っていたんですけど、逆にそこで日常生活を過ごしている人が入っていたほうがギャップがあることに気付いて、誰「かここ通らないかな」と、待つようになりました。
撮影当日の段取りは、大体午前中のうちに現地に着いて、それから夕方までずっと撮影です。逆光になるとどうしようもないので、太陽が動くのを待ちます。その間に、ご飯を食べたり、地元の温泉に入ったり、原稿を書いたりもしています(笑)。
――結構、長期戦なんですね(笑)。撮影機材は何を持っていかれるんですか?
中野 重くなるので、ズームレンズ一本と一脚だけです。巨大仏の撮影には、意外とフットワークが必要なので、三脚ではなく一脚を持っていきます。違和感を求めて、わざわざ山の中に分け入って撮影したり、歩道橋の柵に登ってありえない体勢で撮影しようとして、通りがかった老夫婦に笑われたこともあります。その時の写真も入ってます(笑)。
写真集『巨大仏!!』より
――この巨大仏の撮影が、お仕事や企画を考えるときの役に立ったりと言うのは……。
中野 僕、不毛なものが非常に好きなんです。『アメトーク』なんかは、回によっては、異常に不毛なときがあるんですよね。例えば「リアディゾン大好き芸人」という回があったんですけど、いかにリアディゾンが好きか、ということをみんなで言い合うだけ。あとはリアディゾンが妹だったらとか、どういう日本語を教えたいかとか(笑)。そういう妄想だけで1時間。情報性もないし、リアリティもない。しかも、本人も出てこない(笑)。あの何も生み出さない不毛さが、僕はものすごく好きなんです。
――『アメトーク』は、見ていて心配するぐらい不毛なときがありますよね(笑)。でも、そういう純粋なバラエティー番組はやっぱり面白いです。
中野 最近の若い人はテレビ以外にネットとか携帯とか面白いことがあるから、テレビ離れしつつある。視聴者が高齢化していて、情報なしの番組では見てくれないんです。大人になればなるほど、何に対しても情報というか、意味を求めませんか? 子どものころは何も考えずにただテレビを見ていたけど、年をとってくると、「この番組に何の意味があるのか」と求め始めちゃう。
――そうするとこれからのテレビは、年齢層が高い人に向けた情報系番組ばかりになってしまう、ということでしょうか?
中野 これからは、二極化が進んで行くんじゃないかと思うんですよね。ひとつは、リアルタイムの映像をネットや携帯よりもキレイに見せられることを生かして、ニュースなどに力を入れていく方向。もうひとつは、番組のソフト化で1回目の放送はテレビで、2回目はネットや携帯でダウンロードするとか。ダウンロードをするのは若い人が多いと思うので、それが一般的になれば、若い人向けの番組作りにシフトされていくかもしれない。ただ、視聴率がすべての現状では無理ですね。最近では『学べるニュース』(テレビ朝日系)という番組がいちばんヒットしてて、視聴率も高い。とても今の時代を象徴している番組だと思います。そんな中、僕は意味のないもので埋め尽くされたバラエティー番組を今後もずっとやっていきたいですね。
――不毛バラエティー、期待しています! では最後に、国内の巨大仏は、すべて制覇されたということですが、今後何か目標はありますか?
中野 40m以上の巨大仏はすべて撮影したので、ここまで来たら、国内の準巨大仏もすべて撮影することになるんだろうなぁと思います。ただ悲しいかな。巨大仏をひと通り見て周ったから、18mとかね、どこか刺激が足りない(笑)。
無駄なものは、何でもすべて省こう、省こうとしている昨今。けれど、その中にこそ、最高にどーでもよくて、それなのに、なぜか人を惹きつけるヒントが隠れているのかもしれない。巨大仏は、その象徴ともいうべき存在、なのかもしれない。
(取材・文=上浦未来)
中野俊成(なかの・としなり)
1965年生まれ。富山県出身。放送作家。
過去に手掛けた主な番組『進め!電波少年』
『愛の貧乏脱出大作戦』『ウリナリ』『気分は上々』
『内村プロデュース』『桑田佳祐の音楽寅さん』等。現在は『大改造!劇的ビフォーアフター』『ロンドンハーツ』『アメトーーク』
『みんなの家庭の医学』『あらびき団』『リンカーン』『フットンダ』など、
数多くの人気番組を手掛ける。
まいりました。
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