『拝金』が書けなかったIT業界 “酒池肉林”と同書ヒットの理由
──ライブドア元社長の堀江貴文氏による初の小説『拝金』(徳間書店)は、ライブドアをめぐる一連の事件が随所にちりばめられた、いわば、ホリエモンの私小説である。だが、そこには描かれなかったエピソードもあったようで……。
6月、ライブドア元社長の堀江貴文氏による初の小説『拝金』が発売され、8月上旬現在、約6万部を売り上げているという。
氏による書き下ろし! ちなみに、主人公・藤田優作は
イケメンのほうです。
物語は、夢に破れくすぶり続ける青年・藤田優作が、都内のゲームセンターで”オッサン”と呼ばれる社長に出会うシーンから始まる。オッサンからの助言や援助を受けた優作は、やがて携帯電話のメールを使ったゲームの開発を足がかりに起業。その後、上場を果たし、ネットオークションを運営するネクサスドアを買収した頃からIT業界の寵児に。やがて事業は飛躍的に拡大し、投資家から集めた豊富な資金を武器に、プロ野球球団やテレビ局の買収まで試みるが……。
さながら、かつてのライブドアを彷彿とさせる展開だが、本書はあくまでフィクション。とはいっても、登場人物の名前を見るだけでも、モデルになった人物がわかるようになっている。
「発売当初から業界では話題になっていましたが、本を読んだ村上ファンドの村上世彰さんは怒っているって話です(笑)」(IT業界関係者)
作中には、村上氏とおぼしき人物、山村ファンドの山村代表が、会社の屋上に作った日本庭園で夜な夜な女子アナとコンパに興じているさまが描かれ、金と色にまみれた亡者といった扱いだ。
「実は日本庭園のクダリは、村上さんではなくソフトバンクの孫正義社長がモデル。孫さんはかつて会社の最上階に日本庭園を作り、各局の女子アナたちと夜な夜なコンパを繰り広げていたことは業界では有名な話。だけど、なぜか作中では村上さんのエピソードとして紹介されていました」(同)
孫社長は「ハードバンクの朴社長」として、サイバーエージェントの藤田晋社長は「ハイパーエージェントの藤井社長」、楽天の三木谷浩史社長は「売天の三木山社長」として登場する。
「当時、本当にみんな仲が良かったそうです。ですが、あるときを境に、三木谷社長と堀江氏は絶縁してしまった。ヒルズの中で会っても、目を合わせることもないと聞いています。三木谷社長からしてみれば、TBSの買収そして業務提携に失敗したのは、堀江さんがフジテレビ(ニッポン放送株)の買収に失敗したことを受け、TBSが過剰に防衛策を張ったためだと思っているのでしょう」(IT情報サイト記者)
また、ライブドア関係者も登場する。
「田宮の目は嫉妬に染まっていた。なぜ、こいつはこんな発想ができるんだ。この俺と何が違うんだ。濁った目はそう語っていた」(同書206ページ)
これは元ライブドア最高財務責任者の宮内亮治氏についての記述だろうが、後に法廷の場で衝突することになる両者の微妙な関係を物語っているようだ。
「宮内さんが堀江さんの才覚に嫉妬していた、というのは堀江さんはずっと感じていたようです。ですが、ライブドア事件で証券法の違反が指摘され、裁判ではお互い責任をなすり付け合うことに。その後、いつも冷静で淡々としている彼が、宮内さんのこととなると、突然熱っぽくしゃべっていたのが印象的でしたね」(元ライブドア社員)
ITバブル期の酒や女 書けない”事件”について
さて、本書では当時のITバブルの様子も散見できるが、印象に残るのが高級ワインをジュースのように飲む描写やアイドルとの関係を描いたシーンだろう(当特集【2】参照)。特に女性関係の話は「グラビアアイドルの子は胸をガムテープで寄せているため、おっぱいの下がかぶれている」という生々しい描写もあるが……。
「おおむね、このあたりの描写は事実に基づいています。一般にはあまり知られていませんが、ヒルズ族の間では有名なお店も登場しますが、実は堀江さんはテレビをあまり見ないから、アイドルやタレントのことは詳しく知らないとか。某女優を、『××ちゃんです』と紹介されたときも、『どこのキャバクラの××ちゃん?』と答えたそうですよ(苦笑)」(前出・記者)
だが、彼らが酒や女におぼれる日々は、そう長く続かなかった。堀江氏が率いた当時のライブドアによる近鉄(04年)とフジテレビ(の親会社であるニッポン放送)の買収(05年)は共に失敗に終わる。近鉄の買収では、報道が出るやライブドア株がストップ高を記録。こうしたことが売名行為と取られ、メディアと世論から非難の声が聞かれるようになった。やがて06年、粉飾決算などをめぐる証券取引法違反で逮捕される。しかし、その1年ほど前から特捜部は、水面下で堀江氏の周辺情報を集めていたという。ジャーナリストの上杉隆氏は自著『記者クラブ崩壊』(小学館101新書)で、同事件について触れ、「記者クラブは検察の『御用聞き』をしていたのである」と綴っている。その上杉氏に聞いた。
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