岸 博幸×藤末健三 日本のIT企業とIT政策の”展望と願望”
──アメリカ系企業が世界のIT業界を寡占している状況を「ネット帝国主義」として警鐘を鳴らす慶応大大学院教授の岸博幸氏と、IT政策に精通する民主党参議院議員の藤末健三氏。かつて通商産業省(当時)で同期のキャリア官僚であった2人が、「ネット帝国主義」に抗すべく、日本のIT企業とIT政策の今後を占う!
(写真/有高唯之)
竹中平蔵元大臣のかつての懐刀にして、現・慶応大教授の岸博幸氏が上梓した『ネット帝国主義と日本の敗北―搾取されるカネと文化』(幻冬舎新書)。アメリカ系企業が世界のIT業界を寡占する状況を「ネット帝国主義」とし、これに警鐘を鳴らす同書が波紋を呼んでいる。
ネット企業が作り出す未来は、古い価値観に汚染された旧来型の社会を刷新し、より良い未来をもたらす──。そうしたイメージに異を唱える岸氏と、岸氏の通産省時代の同期であり、現在は民主党参議院議員を務める藤末健三氏が、同書の掲げる問題提起についてガチンコ対談を実施。
ニコニコ動画においてもネット生中継され、話題を呼んだこの対談。じっくり読めば、日本のIT企業とIT政策のあるべき姿が見えてくる!!
藤末健三(以下、藤) 岸が書いた『ネット帝国主義と日本の敗北』、読みましたよ。
岸博幸(以下、岸) この本で僕が言いたいのは、インターネットでは、プラットフォーム・レイヤーの企業ばかりが強くなりすぎているのが問題だということ。インターネット上のサービスは、パソコンとかケータイなどの端末デバイスを除けば、3つのレイヤーに分かれる。一番下がインフラのレイヤーで、光ファイバーなどの回線を扱うNTTや各ISP企業などがいる。一番上のレイヤーにはコンテンツやアプリケーションがあり、新聞社や出版社、レコード会社など、それらのコンテンツを供給している企業がいる。その真ん中に、コンテンツを供給するためのプラットフォーム・レイヤーがあるんだけど、現在はそのゾーンが一番儲かるところになっている。アマゾン、グーグル、iTunesストアのアップルなど、今をときめく企業たちがここにひしめいているわけですね。
ところが、コンテンツに過剰な低価格を強いるなど、プラットフォーム・レイヤーが暴走を始め、コンテンツ側に対する搾取が起きている。さらに、違法ダウンロードやフェアユースによって、コンテンツを供給する側の力が弱くなって、コンテンツ・レイヤーがが支えてきた文化やジャーナリズムが、世界中で衰退し始めている。
藤 そうだね。
岸 文化は社会のインフラです。文化の力が弱くなって文化水準が下がれば、日本のアイデンティティが失われる恐れだってある。ジャーナリズムには、政府や行政を監視する役目があるのに、新聞社の力も落ちている。必死にネットに移行しようとしていますが、それがうまくいくのか、まだわかりません。
もうひとつの問題は、国の安全保障です。プラットフォームレイヤーで勝っている企業は、グーグルを筆頭にアメリカ企業ばかり。プラットフォームは情報の流通を担っているので、実は国の安全保障にもかかわってくる。
藤 食料の6割が輸入であるとか、石油輸入を止められたらどうするのかという議論と同じだね。例えば、グーグルのクラウドに日本の企業や行政の重要なデータが保存されていたとして、そのサーバが止まったら、日本のシステムが立ち行かなくなるかもしれない。あるいは、そのサーバが置いてある国の法律によっては、情報を勝手に見られてしまうということもあるかも。
岸 どこの国でも、空港や鉄道といったインフラは、国の安全保障にかかわる重要な部分なので、それを扱うのは自国企業が中心。情報流通も国の安全にかかわるのに、この分野だけがアメリカ企業に独占されていてよいのか。この状況を私は「ネット帝国主義」と呼んだ。この2点が現在のインターネットの世界における根源的な問題です。
藤 でも、プラットフォーム・レイヤーだけが強いという現在の構造は、iPadとかKindleなどが出てきたことで変わってきているじゃない?
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