巨大ロボットがダイナミックに大暴れ! 幻の韓国アニメ『テコンV』が日本公開
#映画 #アニメ
日本のアニメファンの間で長らく、”伝説のアニメ”と呼ばれてきた韓国産ロボットアニメ『テコンV』が、ついにその全貌を現わすことになった。キム・チョンギ監督による長編アニメ『テコンV』は1976年7月に韓国で公開された劇場作品。韓国初の純国産ロボットアニメとして、韓国の子どもたちに熱狂的に受け入れられた。その後シリーズ化され、70~80年代に韓国で少年期を過ごした世代にとっては忘れられない作品となっている。主人公フンが操縦する巨大ロボット・テコンVが韓国の国技テコンドーを駆使して、世界征服を企む悪の組織”アカ帝国”の操る悪のロボット軍団を撃破するという韓国のお国事情を感じさせるストーリーが何とも味わい深い。だが、やはり日本人にとって気になるのは『マジンガーZ』(72年/フジテレビ系)にそっくりなメカデザイン。知的財産権の概念がアジアに広まったのは90年代後半からとはいえ、ここまでマジンガーZに瓜二つなロボットが韓国でダイナミックに暴れていたとは! 『テコンV』の摩訶不思議なる魅力を掘り下げるべく、トホホ映画評論家、韓国出身の映像プロデューサーにコメントを求めた。
大畑晃一氏はテレビアニメ『一騎当千Great Guardians』『一騎当千XTREME XECUTOR』のシリーズ監督などを務める他、『世界トホホ映画劇場』『世界トホホ映画劇場2 アニメ&特撮大作戦』(共に小学館)といった著書を持つ”トホホ映画評論家”としても知られ、世界各地のトホホ映画に造詣が深い。日本と韓国におけるアニメの歴史についてこう語る。
大畑 日本と韓国のアニメーションビジネスの関係は、『妖怪人間ベム』(68年/フジテレビ系)の制作の際、日本のスタッフが韓国で作画指導したことから始まったと言われています。その後、テレビアニメの量産に合わせて、日本は人件費が安く済む韓国に下請け作業を発注するようになったんです。70~80年代に日本で次々と作られたスーパーロボットアニメの設定資料は当然、韓国の制作会社にも流れていたと思いますし、またキム監督自身も『マジンガーZ』の影響を受けたことを認めています。でも、剽窃問題は別にして、『テコンV』は韓国のオリジナルアニメを作ろうという意欲とエネルギーが溢れている作品であることは確かです。
日本の懐かしのアニメ『ロボタン』に似ていると
の声も。
大畑氏がトホホ映画の世界に魅了されるようになったのは、キム監督のもうひとつの代表作『スペースガンダムV』(83)をビデオで観たことがきっかけだったと語る。
大畑 ”ガンダム”とタイトルに謳ってありますが、登場する巨大ロボットは『超時空要塞マクロス』(82年/TBS系)のバルキリーにそっくり(笑)。バルキリーが巨大ドブネズミと戦うというストーリーがあまりにインパクトが強烈で面白く、トホホ映画の虜になってしまった。既視感のあるキャラクターたちなのに、オリジナルの設定と全く異なるご当地ならではの発想とストーリーに変わっているというギャップが大きく、新鮮な魅力がありました。『テコンV』シリーズで、やはりキム監督の『テコンV90』(90)という作品があるのですが、これはドラマ部分を俳優が演じ、ロボットの登場シーンだけアニメになるという実写とアニメの融合作品。ストーリーは第1作『テコンV』とほぼ同じで、美少女アンドロイドをキュートな金髪(かつら)女優が演じているほか、背が低く頭が大きいことを学会で笑われたことがトラウマになった悪の博士もアニメとまんま同じキャラクターの男優が演じています。一生懸命に作られている作品なんですが、やっぱり何処かオカシイんですよ。客観的に見れば、アニメ作品としてのクオリティーは決して高くはありません。でも、いちばん大事なのは、キム監督の作品はバカバカしい部分も含めて、”ストレートに面白さを追求している”ってことなんです(笑)。
大畑氏は庵野秀明氏の監督デビュー作『トップをねらえ!』(88)にロボットデザイン担当として参加している。『トップをねらえ!』はさまざまなアニメ作品のパロディーだが、庵野監督のクリエイターとしてのセンスが溢れ出した作品でもある。創作という行為は、多種多様な要素が影響しあって進化していくもの、というのが大畑氏の持論だ。
大畑 物を作るということは、何らかの影響を受けたからできるものであって、全くのまっさらな状態から物が生まれることはまずありません。『スター・ウォーズ』(77)が公開され、世界中でそれこそ有象無象に『スター・ウォーズ』のイミテーションが作られました。でも、だからといって『スター・ウォーズ』の価値は下がっていない。同じように『マジンガーZ』の原作者である永井豪先生も、フランスをはじめ世界中で絶大な人気を誇る偉大な作家です。韓国では国全体で『テコンV』を盛り上げ、実写化リメイクの企画も進んでいるそうですから、負けずに日本でも、永井先生原作のダイナミック系ロボットアニメが国家レベルで評価されてほしいですね。その上で、マジンガーZとテコンVが対決したらどうなるんだろうとか頭の中で考えると楽しいじゃないですか(笑)。
いことを学会で笑われたことから世間への復讐を
誓うのだった。
もうひとり、ユニークな情報バラエティー番組として人気を集めた『鈴木タイムラー』(04~05年/テレビ朝日系)のプロデューサーを務めたカン・ヨンミン氏にもコメントを求めた。カン氏は71年韓国生まれ、少年期に『テコンV』シリーズをリアルタイムで観ていた世代だ。
カン 『テコンV』シリーズは韓国のオリジナルアニメということで、夏休みや冬休みにクラスごとに小学校全員で映画館へ観にいきました。韓国の小学生たちの間で大変な人気がありました。当時は子どもだったこともあり、テコンVという巨大ロボットが本当に開発され、韓国軍が保持しているものと思い込んでいたんです。韓国の巨大な競技場の地下にテコンVは格納されており、グランドが2つに分かれて、テコンVが出動するんだと子どもたちの間で噂していました(笑)。
韓国では98年から日本の大衆文化の開放が段階的に始まったが、それ以前の70~80年代の韓国のテレビ事情はどうだったのだろうか。
カン ボクが子どもの頃、テレビはカラー化されていましたが、まだ終日放送ではありませんでした。朝の放送の後、昼間は放送がなく、夕方4時30分か5時くらいからテレビ放映が再開されたんです。まず韓国の国歌が流れ、ニュースをひとつはさみ、それから子ども向きのアニメ番組が始まりました。韓国の子どもたちは国歌を口ずさみながらアニメが始まるのを待っていたんです。『新造人間キャシャーン』『マッハGoGoGo』、手塚治虫先生の『鉄腕アトム』『リボンの騎士』、それに『銀河鉄道999』『千年女王』といったアニメが韓国語に吹き替えられて放映されていました。『宇宙戦艦ヤマト』も別の題名(『戦艦V号』)で放映されています。日本製アニメとは、その頃はまったく気づきませんでしたね。でも、中学に進学すると、次第にアニメは観なくなりました。多分、韓国の子どもの多くはそうじゃないですか。その後、ボクは高校、大学、兵役を経て、93年から日本に来たんですが、『マジンガーZ』を観たときには驚きました。「あれ、テコンVにそっくりなロボットが日本にもあるぞ」と(苦笑)。『マジンガーZ』が先に放映されていたことは後から知りました。ですから、自分のように映像関係の仕事をしている韓国出身の人間にとって、『テコンV』は懐かしい気持ちになるのと同時に、非常に複雑な思いを抱く作品なんです。
アンドロイドのメリー。”アカ帝国”との板挟
みになる彼女の健気な行動にホロリとさせ
られる。
韓流ブームの先駆けとなった『冬のソナタ』の脚本家は、やはり子どもの頃に韓国で放映された『キャンディ・キャンディ』(76~79年/テレビ朝日系)が好きだったという。日本と韓国の文化は国境を越え、さまざまな形で影響し合ってきたようだ。最後に『テコンV』を観る際の楽しみ方を大畑氏に伝授してもらおう。
大畑 仕事で韓国に行った際に、韓国のスタッフたちから聞いたのですが、韓国の男性はアニメや漫画が好きでも、兵役に行くことで否応なく子ども時代に別れを告げることになるようです。日本のように30歳や40歳を過ぎてもキャラクター商品を集め、アニメや漫画に熱中しているほうが、他国の人から見れば特殊なことに見えるのかも知れない。ですが、空想の世界で遊ぶことができなくなったら、人間は心の余裕をなくし、ただ生活に追われるだけの人生になってしまうのではないでしょうか。韓国アニメを鑑賞する際は、多少理解できない部分があっても自分の心の中で作品世界を妄想し、補完しながら日本アニメとのギャップを楽しむことです。いわば、観客参加型の作品です。ですから、『テコンV』を現代の日本の劇場で楽しむということは、とても幸せな体験になると思いますね。
(取材・文=長野辰次)
●『テコンV』
格闘技大会の準優勝者が次々と拉致されるという事件が発生。拉致された準優勝者たちは”アカ帝国”によって洗脳され、悪のロボット軍団のパイロットと化していた。テコンドーのチャンピオンであるフンは父親が開発した巨大ロボット・テコンVに乗り込み、正義の鉄拳をお見舞いするのだった。
監督/キム・チョンギ 声の出演/キム・ボミ、キム・ボヨン、キム・ヨンチャン、ナム・ドヒョン、チョン・チファ 配給:キングレコード+iae 8月7日(土)よりシアターN渋谷にてレイトショー公開ほか全国順次公開
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