“歩く伝説”山本又一朗プロデューサー 小栗旬初監督作の舞台裏を存分に語る!(後編)
#映画 #インタビュー #小栗旬 #邦画 #山本又一朗 #シュアリー・サムデイ
■『愛・旅立ち』は長谷川和彦監督の復帰作だった!?
──後半は”又一朗伝説”について少々聞かせてください。『愛・旅立ち』では当時噂になっていた近藤真彦、中森明菜の共演をよくぞ実現させましたね。
又一朗 あの作品に関して、いろいろと感じるところがあります。ジャニーズ事務所は近藤真彦をはじめ人気スターを多数抱え、映画でもヒット作を連発していた。そこに中森明菜という歌手としてだけでなく、俳優としても非凡なものを持った表現者が現れた。自分勝手な感想ですが、残念なことに、『愛・旅立ち』の後、彼女の可能性をさらに伸ばしてあげるものを用意することが我々にはできなかった。あのときの彼女は初めてやる映画に対し、怯えがあった。自分よりもっと大きな存在が作品を背負ってくれ、その脇で出演するなら、というのが彼女の希望でした。そこで当時彼女が所属していた研音のOKをもらって、メリー喜多川さんのところに話を持っていき、俳優として歌手として乗りに乗っていた近藤真彦との共演が実現したんです。
──中森明菜が幽体離脱するスピリチュアルムービーとして最初から企画されていたんでしょうか?
又一朗 『愛・旅立ち』はある種のスピリチュアルムービーだったんだけど、元々は超能力者を描く全然違う内容の企画を用意してました。『太陽を盗んだ男』の長谷川和彦監督の6年ぶりの監督作になるはずだったんです。ゴジ(長谷川監督の愛称)が脚本も書いてくれて『PSI』という、サイキックの頭文字から取ったタイトルでした。面白い内容だったけど、予算が8~9億円かかるものでした。今ならCGを使えば、もっと安くできたんだろうけどね。でも、『太陽を盗んだ男』のときに予算オーバーしてしまったので、ゴジもオレも業界で札付きだった(苦笑)。同じ失敗をプロデューサー、監督としては繰り返せないでしょう。ゴジも思い込んだら一途な性格だから、予算に収まるように脚本を変えることはやらないわけです。ジャニーズ事務所と研音からも「長谷川監督も悪くないけど、マッチの映画を撮ったことのある舛田利雄監督なら心配がない」という意見が出てね。それで舛田監督が、超自然現象の話は面白いから、それなら当時流行っていた丹波哲郎さんのベストセラー『死後の世界の証明』(広済堂ブックス)的なものを若者向けにやろうということで、ああいう内容になった。途中で企画や監督が代わってしまったけど、みんなが面白がる着地点があったので完成まで辿り着いたんです。まぁ、マッチと明菜に関するホントに可愛らしい明るいエピソードもあるけど、それはボクが墓場まで持っていきます(笑)。
ときから育ててきた。「旬とはお互いに学び合
う関係ですよ。自分の箱庭の中にアイツを閉じ
込めておこうとは考えていません」と又一朗
氏は語る。
■あまりに過激すぎる又一朗・大阪伝説!!
──『クローズZERO』ですが、あの作品は大阪でやんちゃだった三池崇史監督の青春時代を投影した作品という認識だったのですが、実は山本又一朗プロデューサーの自伝的色彩も強いんじゃないでしょうか?
又一朗 いや、当然ながら髙橋ヒロシさんの原作コミック『クローズ』(秋田書店)ありきの世界ですよ。そこに武藤省吾という新進気鋭の脚本家が加わり、さらに三池監督という名匠を得ることができた。ボクの高校時代の話はねぇ、大阪にまだ知り合いが多いからあまりできないんだなぁ(苦笑)。まぁ、高校時代のボクは、ワルでした。今は温厚な顔をしていますが、その頃のボクの人相はかなりなものでね……(iPhoneに取り込んである高校時代の写真を見せる)。
──ごっつい男前。浪速の石原裕次郎ですね!
又一朗 ハハハ、大阪であんまり暴れすぎたので、兄が東京へ強制送還したんです(笑)。バイクも乗り回してたし、よく遊び回っていたけど、照れ臭くて女の子とは遊ばなかった。硬派ってわけじゃないけどさ。それが、今ではこんなに女性好きになるとはね(笑)。
──強制送還された経緯を教えてください。
又一朗 阪急梅田駅で他校の有名な不良とぶつかったんだ。「こらッ、ボケッ!! どこ向いて歩いとんじゃ!」「アホンダラ! おのれから当たっとってッ」とね。相手は鋭く磨き上げたヤスリを学ランの内ポケットに入れて持ち歩いている札付きのヤツでね、傷害事件を2度起こして保護観察処分になっているらしい。後から知って、震え上がりました。地元の高校生たちの間で決闘場として知られていた田んぼがあってね、「勝負するから、10日後そこに来い」と呼び出されました。自分は刺し殺されるに違いないと、夜も眠れなかった。眠ると自分が刺される夢を見て、びっしょり寝汗をかいて目が覚めるという日が続いたんです。周囲は「謝ればいいじゃないか」というけど、でもあの頃ってどうしても謝れないものなんですよ(笑)。それで友達のYくんの家にあった日本刀を1日だけ拝借したんです。日本刀は重いから、振り下ろすときは腰を落とさないと自分の足を斬ってしまうので気をつけろって言われてね。夜中に暗闇の中でこっそり振り回す練習をして……。オレは、何してんだろうと……(苦笑)。いよいよ当日がやってきて、もう、それまで10日間溜め込んでいた恐怖が爆発して日本刀をかざして向かったところ、それまで「おい、こら」と言っていた相手が「や、山本くん、危ないよ!」と(笑)。「得物を持っとんのはそっちが先じゃい」ってね。人間が恐怖でおののく表情を初めて見ました。今、考えればホントについてた。自分も傷つかず、誰も傷つけなくて済んだ。
ご提供いただいた。肉食系の超イケメンでは
ないか。
──『クローズZERO』の世界、そのまんまじゃないですか。
又一朗 『クローズZERO』はピュアな世界だけど、自分の場合はもっとドロドロして生々しかったね。でも、「あの男を倒さないと、オレの明日はない」という気持ちは『クローズZERO』の世界と通じるものでしょうね。それで、そのまま大阪にいてはロクな人間にならないと案じた兄が、東京の高校へ転校するように手続きをしたわけです。言わば東京に島流しになったんだけど、東京は広い。観たいモノが全てある。天変地異の大展開。日本刀を振り回してた高校生はやがて出版業界に出入りするようになり、そして映画の世界に関わるようになったんです。ハハハ、この続きはまた次回やろうよ!
面白すぎる山本又一朗伝説。出版界での修行時代、世界を股に掛けた武勇伝など、まだまだ聞きたいことは尽きない。現在、企画準備中の新作が完成した暁には、ぜひとも伝説の続きを!
(取材・文=長野辰次)
●『シュアリー・サムデイ』
プロデューサー/山本又一朗 監督/小栗旬 脚本/武藤将吾 音楽/菅野よう子 出演/小出恵介、勝地涼、綾野剛、鈴木亮平、ムロツヨシ、小西真奈美、妻夫木聡、遠藤憲一、岡村隆史、須賀貴匡、阿部力、笹野高史、モト冬樹、横田栄司、竹中直人、吉田鋼太郎、大竹しのぶ、原日出子、上戸彩、井上真央 配給/松竹 7月17日(土)より全国公開 <www.surely-someday.jp>
●やまもと・またいちろう
1947年鹿児島県出身。さいとう・たかを、小池一夫らに師事し、劇画原作の修行を積んだ後、映画・テレビ業界へ。映画プロデューサーとして、ジャック・ドゥミ監督を起用した実写版『ベルサイユのばら』(79)、長谷川和彦監督による日本映画史に残る金字塔的作品『太陽を盗んだ男』(79)、幽体離脱した中森明菜のロードムービー『愛・旅立ち』(85)、三島由紀夫の過激な生涯を緒形拳主演で映画化した『Mishima』(85)ほか数多くの話題作を製作。芸能プロダクション「トライストーン・エンタテイメント」の代表取締役でもあり、所属俳優・小栗旬を『あずみ』シリーズ(03、05)、『クローズZERO』シリーズ(07、09)でスター俳優へと育て上げた。
こんな高校じゃなくてよかった。
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