デザイナー・梅原真が手掛ける、アンチ「スローライフ」な田舎デザイン
#本
「デザイン」が似合う街と言えば青山、表参道、六本木……etc.と華やかな都会の街。しかし、東京から遥か600km、高知県は四万十川の川辺でデザインを考える男がいる。男の名は梅原真。彼の活動をまとめた一冊『ニッポンの風景をつくりなおせ―― 一次産業×デザイン=風景』がいま話題を呼んでいる。
■デザインの力で年商20億!
梅原真は地元高知を中心に、一次産業が生み出した商品ばかりを手掛けるデザイナーだ。「四万十緑茶」「鰹のたたき」「馬路村ポン酢しょうゆ」といった農産物や雑誌、そして、県外では秋田の秘湯や島根・隠岐のサザエカレー、そして沖縄の離島の観光ポスターなど、いずれも「デザイナー」という職業からはほど遠いと思われるような「田舎」の商品ばかりがならび、宝石、時計、ブランドバッグ……etc.といった「デザイン」とは180度異なっている。それもそのはず、梅原真は、大企業からの依頼は断り続け、いつも一次産業と関連のある仕事しか受け付けないのだ。
そもそも、この梅原の一次産業へのこだわりは、1987年に遡るという。全国的にも有名な土佐のカツオ一本釣り、その漁師が「船が潰れてしまう」と、梅原に相談にやってきた。そこで、梅原はカツオの商品パッケージをデザインすることによって、一気に年商20億円の産業をつくり出してしまったのだ。そして「すべての基本は一次産業だ」という結論に到達する。その後も高知の砂浜にTシャツを掲げた「砂浜美術館」や、高知県の地域マガジン「とさのかぜ」など、その活動は幅広いものとなっていく。
■梅原真が提唱する「新しい価値」とは?
ところで、「デザインの力で20億」と書いた時に、何やらとてつもない胡散臭さが漂うのは、たいしたことのない商品を偽装するためにデザインが利用されるからだろう。箱を開けて中身を見た時に、まるで整形美人を目にしたかのように、どうしようもなく残念な気持ちになることは数多い。そして、人は「デザインに騙された」と言う。
梅原が提唱する「新しい価値」とは、そういった安手の包装紙のような「デザイン」とはちょっと違う。梅原がデザインをする目的は、その商品が売れることではなく、「その風景が残ること」だという。自分の好きな故郷の風景を残すために、梅原はデザインを続ける。そして、梅原の手によって潰れかかったカツオの一本釣り漁船は残り、砂浜が美術館として活用された。時はまだバブルの盛り、リゾート開発やハコモノ行政が是とされていた時代である。そして、「スローライフ」やら「田舎暮らし」やらが喧伝されるようになった2000年代に、ようやく梅原が手掛けたデザインは脚光を浴びるようになった。
しかし、「いいものを作っていれば売れるなんていう時代じゃない。いいものを作っているんなら自分で売らなければならない」と、梅原が本書で述べるように、本書はゆったり気楽に無理しない「スローライフ」とはほど遠い。「エコロジー」がもともと60年代のヒッピーから生み出されたラジカルな思想であったように、「いいもの」を売るための戦略と熱意に満ちた「梅原デザイン」はスローライフとは似て非なるものである。
(文=萩原雄太[かもめマシーン])
●うめばら・まこと
1950年生、高知県出身のグラフィックデザイナー。大阪経済大学経済学部卒業後、土佐に戻りRCKプロダクション美術部に入社。日本テレビでの研修後、スタジオの大道具担当に。1980年梅原デザイン事務所設立。
レペゼン高知!
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