トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • x
  • feed
日刊サイゾー トップ > 連載・コラム >  パンドラ映画館  > 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.77

白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』

jb01.jpgバイセクシャルであることをカミングアウトしているミーガン・フォックス。
主演作『ジェニファーズ・ボディ』では男女を問わず、
妖しい魅力で次々と虜にしていく。まさに適役!
(c)2009Twentieth Century Fox

 今どきの女子たちの生態を赤裸々に描いた”ガールズ・ムービー”。男子には理解しがたい世界だが、しかしそれゆえに興味がそそられるジャンルでもある。ミーガン・フォックス主演の『ジェニファーズ・ボディ』は、ガールズならではの甘美な世界にホラーテイストをブレンドした新しいタイプの米国映画だ。『トランスフォーマー』(07)で顔を売った若手セクシー女優ミーガン・フォックスと『マンマ・ミーア!』(08)でメリル・ストリープの娘役を演じた清純派アマンダ・セイフライドが田舎の女子高生に扮し、女同士の友情、羨望、嫉妬が絡み合う関係を演じる。ミーガンがエロっぽい仕草で男どもを挑発するシーンやアマンダとのレズシーンといったサービスショットを盛り込みつつ、美しくて強いものに純粋に憧れる田舎の高校生たちの心情を伝えている。

 米国中西部の田舎町で暮らすアニータ(アマンダ・セイフライド)は内気で目立たない女の子。ボーイフレンドは一応いるものの、正直言ってダサ系。しかし、アニータには高校でいちばん人気の女子ジェニファー(ミーガン・フォックス)と幼なじみの親友であることが何よりもの自慢だった。2人はBFF(Best Friends Forever)と記したペアペンダントをいつも身に付けるほどの仲良しで、周囲からは「レズビアンじゃないの?」と噂されている。そんなある日、アニータはジェニファーに連れられてインディーズバンドのライブに出かけるが、ライブハウスが火事で全焼するという大事故が発生。何とかアニータは生還するが、その晩からジェニファーの様子がおかしい。今までは田舎町にしてはイケてるオネーチャンだったジェニファーが、全身から妖しい美しさを発するミステリアスな美女に変身してしまったのだ。ジェニファーの体に何が起きたの? アニータの心の中に、親友を心配する気持ちと同時に、不安、好奇心、恐怖、嫉妬……といったさまざまな感情が渦巻き始める。やがて高校の男子生徒どもが一人、また一人と惨殺死体となって発見される。そして事件の度にジェニファーは美しさを増していく。

jb02.jpgアニータ(アマンダ・セイフライド)は
親友のジェニファーに連れられてライブ
ハウスに行き、とんでもない事故に巻き込まれる。

 わがままなジェニファーに振り回される親友アニータを好演したアマンダ・セイフライドは、まだ品行方正なアイドルだった時代のリンジー・ローハンが主演したガールズ・ムービー『ミーン・ガールズ』(04)にも出演している。『ミーン・ガールズ』は人気コメディエンヌ兼脚本家である才女ティナ・フェイが仲良し女子高生グループの世界を描いたコメディだが、新しいスカートを買うときやボーイフレンドができたときは必ず事前にグループ内の承諾を得なくてはならないなど、女子の厳しいルールに男子は驚かせられる。かわいい女の子も、グループ内の人間関係をキープするので大変らしい。まだ人格が固定されず、精神的に不安定な彼女たちは、美しくてクールなものに憧れる。美しくてクールなものは、崇拝するに値するものだと彼女たちは信じている。

 女子高生を主人公にしたガールズ・ムービーで、もう一本おすすめなのがソーラ・バーチ&スカーレット・ヨハンソンの主演作『ゴーストワールド』(01)。社会に迎合したものを徹底的にバカにしていた2人のトンガリ系女子高生が、高校卒業後2人の関係に少しずつ距離が生じる過程をリアルに描いている。卒業後は割り切ってコーヒーショップで働き始めるスカヨンに対し、ソーラ・バーチは仕事先で無難な人間関係をどうしても築くことができない。自分に正直すぎて、自分の居場所を失っていく姿が哀しい。都会と違って、田舎は気取らずに伸び伸びと暮らせるなんて大間違い。小さな共同体の閉鎖的な空気が、かわい子ちゃんたちを苦しめるのだ。

 本作『ジェニファーズ・ボディ』の世界は、デビュー作『JUNO/ジュノ』(07)でアカデミー賞脚本賞を受賞したディアブロ・コディが生み出したもの。ストリッパーやテレフォンセックスのオペレーターなど過激な職歴の持ち主のコディだが、本人は「キャラクターを考えるのに、とても役立った」とサバサバと語っている。歯に衣着せぬ物言いで、バッシングされることも多い。『ジュノ』ではパンクロックとB級ホラー映画が大好きという16歳のヒロインが田舎町でシングルマザーになる道を選び、たくましく生きる姿を描いた。本作でもホラー映画的なスリリングな展開よりも、ジェニファーが周りに媚びることなく強く美しくなっていく様子に主眼が置かれている。その一方、9.11以降、異分子を排斥したがる米国の保守的な空気をチクチクと皮肉る。死傷者を出したライブハウスの事故以降、町中は一斉に自粛ムード、地元のラジオ局からは追悼ソングが連日連夜流される。そんなどんよりした雰囲気を物ともせず、真っ赤なルージュを引いたジェニファーの唇が艶かしく輝く。

 失業者が町に溢れ、地方都市のシャッター通り化が進んでいるのは、米国も日本も変わらない。学校を卒業しても、仕事があるかどうか分からない。将来にキラキラとした明るい希望は当分持てそうにない。それなら、昔からの自分を理解してくれている地元の友達を大切にしなくちゃ。そのうち別れるはめになる恋人より大事だもんね。でもって、10代の輝きを記録するため、メイクやファッションの研究も怠りません。ガールズ・ムービーのヒロインたちは、どんどん美しくなっていく。それはまるで社会不安と反比例しているかのようだ。
(文=長野辰次)

『ジェニファーズ・ボディ』
脚本/ディアブロ・コディ 監督/カリン・クサマ 出演/ミーガン・フォックス、アマンダ・セイフライド、アダム・ブロディ、ジョニー・シモンズ、J.K.シモンズ 配給/ショウゲート 7月30日(金)よりTOHOシネマズみゆき座ほか全国ロードショー公開 <http://www.jennifers-body.jp>

JUNO/ジュノ<特別編>

彼氏がダメダメなんだな。

amazon_associate_logo.jpg

●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX
[第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ……夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ
[第75回] “生きる”とは”見苦しい”ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』
[第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』
[第73回] “三億円事件”の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』
[第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』”渦中の人”リック・オバリー氏の主張
[第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』
[第70回] 下町育ちの”北野少年”が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』
[第69回] “リアルと虚構の狭間”を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』
[第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』
[第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼!
[第66回]アナーキーな”社歌”で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』
[第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』”家族”という名の地獄から脱出せよ
[第64回]乱れ咲く”悪の華”ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』
[第63回] オタク王が見出した”夢と現実”の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』
[第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか?
[第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ!
[第60回]宮崎あおいの”映画代表作”が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』
[第59回]“おっぱいアート”は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』
[第58回]現代に甦った”梶原一騎ワールド”韓流ステゴロ映画『息もできない』
[第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』
[第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』
[第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』
[第54回] “空気を読む”若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は?
[第53回]社会の”生け贄”に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』
[第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? ”寅さん”の最期を描く『おとうと』
[第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』
[第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』
[第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』
[第48回]全米”オシャレ番長”ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』
[第47回]市川崑監督&水谷豊”幻の名作”『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化
[第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』
[第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!”神の子”の復活を追う『マラドーナ』
[第44回] 暴走する”システム”が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』
[第43回]“人は二度死ぬ”という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは?
[第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』
[第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』
[第40回]“涅槃の境地”のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』
[第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』
[第38回]海より深い”ドメスティック・ラブ”ポン・ジュノ監督『母なる証明』
[第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』
[第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』
[第35回]“負け組人生”から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』
[第34回]2兆円ペット産業の”開かずの間”に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』
[第33回]“女神降臨”ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』
[第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』
[第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』
[第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇
[第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』
[第28回]“おねマス”のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』
[第27回]究極料理を超えた”極地料理”に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』
[第26回]ハチは”失われた少年時代”のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊!
[第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』
[第24回]悪意と善意が反転する”仮想空間”細田守監督『サマーウォーズ』
[第23回]沖縄に”精霊が暮らす楽園”があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』
[第22回]“最強のライブバンド”の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』
[第21回]身長15mの”巨大娘”に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』
[第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』
[第19回]ケイト姐さんが”DTハンター”に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』
[第18回]1万枚の段ボールで建てた”夢の砦”男のロマンここにあり『築城せよ!』
[第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』
[第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡”脱力”劇場『インスタント沼』
[第15回]“裁判員制度”が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』
[第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』
[第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』
[第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』
[第11回]美人女優は”下ネタ”でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』
[第10回]ジャッキー・チェンの”暗黒面”? 中国で上映禁止『新宿インシデント』
[第9回]胸の谷間に”桃源郷”を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』
[第8回]“都市伝説”は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』
[第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』
[第6回]派遣の”叫び”がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』
[第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が”倒錯美”の世界へ
[第4回]フランス、中国、日本……世界各国のタブーを暴いた劇映画続々
[第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は……
[第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは”映画の神様”となった
[第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

最終更新:2012/04/08 22:59
ページ上部へ戻る

配給映画