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電子書籍なのに手売り販売? ウワサの「電書フリマ」で電子書籍の最前線を体験レポート

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 「2010年は電子書籍元年」と言われ、Amazon kindleやApple iPadなどの電子ブックリーダーが次々に登場。国内でも出版社や印刷会社などが電子出版の取り組みに本腰を入れ始めた。また、佐々木俊尚氏の『電子書籍の衝撃』(ディスカヴァー21)等、関連書籍も軒並みヒットしている。

 だが、kindleはまだ日本語対応しておらず、iTunes Book Storeに並ぶ書籍の数はまだ紙の出版物に比べものにならないほど少数というのが実情。コンテンツの少なさに、せっかくiPadを買ったのに「何に使えばいいか分からない」といった声も聞く。

そんな中、大手流通をまったく介さない、電子書籍の「対面販売」という手法が編み出され密かに注目されている。このシーンをリードしているのが、大人気パズルゲーム『ぷよぷよ』の生みの親でもある米光一成さんが率いる有志団体「電子書籍部」(以下電書部)だ。

 5月23日に開催された第10回文学フリマで電子書籍15点を販売し、5時間で168人に1,453冊を販売するという驚異的な数字を叩き出した。これは、「一点数十冊売れれば上出来」という文学フリマの常識を覆す販売数である。

 何かが確実に変わり始めている。そう感じずにはいられなかった筆者は、7月17日に開催された世界初の「電書フリマ」に参加してみた。

 朝10時。渋谷駅から約7分、宮益坂上の信号のほど近くに、今回のフリマの会場、レンタルカフェ「ColaboCafe」はあった。入口前には、手書き感満点の看板が。

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 B1Fに降りてみると、約35平米とさして広くない部屋の中は既に多くの人でごった返していた。奥のソファー席前のテーブルには紙に印刷された電子書籍の見本が並べられ、皆熱心に目を通している。客層は20歳前後から壮年の方までさまざま。男女比は同じくらい。ただ、iPhone所有率は高いようだ。

 今回は合計64作品が出品(http://densho-z.heroku.com/catalog)。電子書籍関連の内容のものが目立つが、小説、歌集、評論、写真集、マンガとさまざまなジャンルのものがあり、どこか骨董品市のような風情が漂う。

 ところで、電書は何で読めるのだろうか?

「PC、Kindle、iPhone、iPadで読めます。iPhoneならStanza(http://www.lexcycle.com/)というアプリで読むのが快適ですよ」

 iPadを持った電書部のメンバーが親切に教えてくれた。では、実際に電書を買うまでの流れはどうなっているのだろう?

「まず、あらかじめサイトで取得した電書ナンバーかメールアドレスを教えて頂いて、購入する電書の番号をクリックします。すると、登録したアドレスにメールが届くので、そこから一カ月の間ダウンロードして頂けます」

 さっそく、15冊を選んで購入してみた。

「10冊以上お買い上げになると1冊どれでも100円になりますので、15冊で合計1,500円です」

 中には500円のものもあったはずなので、とてもお買い得! これはまとめ買いをする人が多いのではないだろうか。しかも、電書だと実際の本と違ってかさばらないという利点もある。ここでは重い紙袋を持つということはないのだ。

 早速会場でPCを開いてみると、すでにメールが届いていたのでリンクからすぐにダウンロード。通常のPDFなら問題なく読める。インストールしておいたKindle PC版でもうまく作動した。iPhoneでも、Stanzaを起動させればページ送りなどはスムーズだし、文字の大きさも気にならないレベルだった。

 しかし、出品する側にはいろいろな苦労があったようだ。

「タグを何回直してもうまく改行されなかったり、試行錯誤の連続でした」

 ミニコミ誌「放課後」メンバーのゆりいかさんは、特にデザイン面で何度もテストを重ねたという。

「見出し部分や、太文字などを制御するのが大変でしたね。詩集も収録しているのですが、縦書きや改行に意味があるものですから、画像で処理しました」

 作り手にとっては印刷とは違った技術的な課題がまだまだ残されている、といった声はこのほかにも多く聞かれた。

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 一方、「電書」というスタイルに魅力を感じている作者もたくさんいた。処女歌集『モテる体位』を上梓した佐々木あららさんもその一人。

「何より手軽なのがいいですね。もともと短歌集って既存の出版流通だとそんなに売れないし出せないので、それほどお金がかからずに発表できるのはありがたい。自分みたいに歌集や句集を発表する人が、これからどんどん増えていくといいなと思っています」

 今回「この人が目当てで来ました」という声が多かったのが、「コミックバーズ」にて『大東京トイボックス』を連載中のうめさん。特に、諸事情で没になったネームをそのまま公開した『東京トイボツ(没)クス』は、電書ならではのコンテンツと言えるだろう。

「個人的にも好きなネームで、いつか日の目を浴びせたいと思っていたのですが、正式な完成品でもないので、お金を取って売ってもいいのかという疑問がある。そういったモノに、手売りでの電子書籍販売という形が最適だったんですよね。没ネームはたくさんあるので、好評ならまた出します(笑)」

 うめさんは、電子書籍によって、これまでの価値観に変化が出てくるだろうと予測する。

「電書は、紙と比べてリスクが少ないので多少雑なコンテンツでも世に出せます。だからこそ、逆の意味で編集という仕事が何なのかが浮き彫りになってくると思います。ボツになったネームの方が売れてしまったとすれば、編集に何か問題があったことになりますし、その逆に編集がスゴかったから売れていた、という作者も出てくるかもしれません」

 また、電書部の活動について積極的に参加していきたいと語る。

「電子書籍は大きな話題もたくさん出ていますが、形になっていないしまだ流動的な状態。ならば、早く動いてしまえば自分達の望むように小さなコンテンツでも流通できるような市場に出来るんじゃないか、と思っているんです」

 今回の電書フリマの実績は購入者529名・売上部数5,206冊という結果になった。特に、電子書籍を出すノウハウ本やマンガが多く販売されたとのこと。

「AmazonやApple、大手の版元がペットショップの血統書付きの猫だとすれば、僕たちは野良猫。野良猫は野良猫で、しぶとく生きていきます(笑)」

 概ね好評だったことに米光さんは満足を感じつつ、「次」を見据えているようだ。

「今回同時多発的に吉祥寺と京都でもイベントが行われました。こういった動きが広がっていけばいい。そのために販売のノウハウも含めてオープンにしたいと考えています。ただ、僕たちは『部活』ですので、気負わずに出来ることをやっていくつもりです」

 Twitterの電書フリマのハッシュタグ「#denf717」を見ると、作品の感想やバグの報告などがTLに並んでおり、今も活発に動いている。もしかすると、いままで語られてこなかったこのような有志たちによる小さな動きが、電子出版界の最前線なのかもしれない。
(取材・文=ふじいりょう)

電子書籍の衝撃

衝撃!

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最終更新:2012/10/11 17:14
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