爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ……夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ
#映画 #洋画 #パンドラ映画館
脱童貞のチャンス到来。しかし、美女はすでにゾンビ菌に感染していた。
あ~、もったいない……。なんて言ってないで逃げ出せよ!
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ジョージ・A・ロメロ監督が『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(68)、『ゾンビ』(78)、『死霊のえじき』(85)のゾンビ三部作を発表して以降、実に数多くのゾンビ映画が世界中で作られてきた。ゾンビが猛ダッシュで追いかけてくるイギリス映画『28日後…』(02)、ゾンビ発生をドキュメンタリータッチで描いたスペイン映画『REC/レック』(07)、米国の金髪セクシーゾンビたちが競演する『ゾンビ・ストリッパー』(08)など、ゾンビ映画は年々増殖を続けている。さて、そもそも”ゾンビ”とは何なのか。『ゾンビ映画大事典』(洋泉社)を読んだところ、1928年に発表されたノンフィクション本『The Magic Island』から”生きる屍=ゾンビ”の概念が広まったらしい。カリブ海の島国ハイチでブードゥー教の信者と1年間生活を共にした著者ウィリアム・シーブルックによると、ハイチでは呪術師が一度死んだ人間をゾンビとして甦らせ、農作業などの重労働に従事させていたとのこと。死んだ後も奴隷のように働かせられるとは、ハイチのゾンビも難儀だなぁ。でも、ゾンビ人間なら今の日本にもうじゃうじゃいるよ。マスコミ業界なんて、上司の命令か人気アンケートの結果でしか動かない、”思考停止状態”の超保守的ゾンビ社員だらけ。保険付きの美味しい企画にだけわらわらと群がる。しかも、ゾンビ社員の無気力さは、次々と感染するから要注意。欧米や日本など閉塞的状況に陥っている国々でゾンビ映画がやたらと作られていることは無関係じゃないと思うよ。
そんなところにドドーンと現われたのが、爽やか系青春ゾンビ映画『ゾンビランド』。気弱な主人公がゾンビランドと化した合衆国で、ゾンビと戦いながら恋と友情にハッスルしちゃうコメディタッチのロードムービーなのだ。ゾンビ映画だけど、爽快で胸キュン。このギャップが気持ちいいな~。全米で09年10月に公開され、興行成績初登場1位を記録したヒット作。ゾンビ映画のコメディというと、イギリスの新鋭エドガー・ライト監督の『ショーン・オブ・ザ・デッド』(04/日本ではビデオリリースのみ)が”ゾンビ愛”に満ちた名作パロディとして誉れが高いけど、本作はパロディというよりはゾンビ映画の世界観を使って、主人公がタフに成長するドラマ性に比重を置いた作品。これがデビュー作となるルーベン・フライシャー監督は製作が決まるまでは『28日後…』ぐらいしかゾンビ映画は観ていなかったらしい。本作はゾンビ映画に詳しくないゾンビ・ビギナーでも充分に楽しめる”開かれたゾンビ映画”ってわけ。
世界唯一の超大国として我が世を謳歌していた合衆国だが、汚染肉で作ったハンバーガーが原因でゾンビウィルスが感染爆発。またたく間に合衆国はゾンビランドに。気弱な青年コロンバス(ジェシー・アイゼンバーグ)は胃弱で、しかも引きこもり気味だったことから感染を免れていた。人間、何が幸いするか分からない。生物の歴史とは、環境の変化に対応できなかったマジョリティーが滅び、マイノリティーが生き残るという進化の繰り返しの歴史なのだ。マイノリティーばんざ~い! コミュニケーションべた、サイコー! 主人公コロンバスの捻れた青春がこうして始まる。
コロンバスは無人化した町へ出て、これまで感じなかった開放感を味わう。トイレで粘っているとゾンビが襲ってくるので、のんびりウンコしてられないけど、ゾンビの襲撃さえもコロンバスにとっては単調な生活に刺激を与えてくれるスパイス。故郷の両親とはウマが合わなかったけど、とりあえず安否を確かめに行こうと実家に向かう途中、マッチョ野郎タラハシー(ウディ・ハレルソン)と出会う。平穏な時代なら口を利くこともなかっただろう性格が真逆な2人だが、ゾンビランドを生き延びるために協力し合う。さらに美人の詐欺師姉妹ウィチタ(エマ・ストーン)とリトルロック(アビゲイル・ブレスリン)も旅の仲間に加わる。ゾンビと戦う旅の中で、コロンバスは今まで味わうことのなかったウキウキ感で体中が満たされていく。
コロンバスは生き延びるため、ルールを作る。学校の教科書と違って、すべて自分の経験則から考え出したもの。ゾンビの攻撃から逃げ切れるよう常にダッシュで走ることをルール1、ゾンビを見たら迷わず2度撃ちすることをルール2、トイレにご用心をルール3……などのサバイバル・ルールを自分に課す。ルール17は”英雄になるな”。英雄気取りのキャラクターに死亡フラグが立つことはゾンビ映画のお約束。さて、合計31のルールだったが、旅の途中で何度かルールは書き改められる。ゾンビをぶっ殺すことのみを生き甲斐としているタラハシーだが、甘~いスポンジケーキ「トゥインキー」には目がない。荒廃したショッピングモールを見つけると、トゥインキーの在庫がないか夢中になって探し出す。合成保存料たっぷりのトゥインキーを食べている間だけ、タラハシーはゾンビランドになる前の幸福だった時代を思い出すことができるらしい。マッチョ野郎の過ぎ去りし過去を想い偲び、コロンバスはルール32に「ささやかなことを楽しめ」と付け加える。幸せの尺度に大きいも小さいもないことをコロンバスはマッチョなオッサンから学ぶのだった。
刺激に満ちた愉快な旅も、いつかは終わりを迎えるもの。コロンバスたちと別れたウィチタ&リトルロック姉妹は、ゾンビがいないと噂される夢の遊園地「パシフィックランド」に向かう。だが、ゾンビがいない理想郷なんて、現実社会に絶望した人間が生み出したただの幻想。ネオンに釣られて大量のゾンビたちがぞろぞろと遊園地に集まる。生きる希望と悪夢とが混然となった遊園地を、気弱でしかも胃弱なコロンバスは全力疾走で駆け抜ける。それはゾンビから逃げるためではなく、ゾンビに取り囲まれたウィチタたちを救出するため。ルール17に記された”英雄になるな”をコロンバスは自分から破棄する。
ルールは状況に応じて、自分の判断で書き換えるものなんだよ。自分は脳ミソがスポンジ化したゾンビじゃなくて、生きた人間なんだからさ! 死亡フラグを物ともせず、コロンバスはゾンビの大群に立ち向かう。ルールを破り、恐怖に打ち勝ったコロンバスは、このとき本当の意味での自由な人間となる。
ゾンビ人間に普段から悩まされているみなさん、この夏はサイコーにご機嫌な『ゾンビランド』にレッツゴーだね。
(文=長野辰次)
『ゾンビランド』
監督/ルーベン・フライシャー 脚本/レット・リース、ポール・ワーニック 出演/ウディ・ハレルソン、ジェシー・アイゼンバーグ、エマ・ストーン、アビゲイル・ブレスリン、ビル・マーレイ 配給/日活 7月24日(土)よりヒューマントラスト渋谷ほか全国ロードショー公開 R15+
<http://www.zombieland.jp>
本気で生き残るために。
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